コラム

    • 人生の最期はソフトランディングで

    • 2010年11月09日2010:11:09:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 産業社会で亡くなる人の3分の2は高齢によるものである。老化の過程と関連した死は大抵の場合、仕事から退き、すでに親としての責任を持っていない人々に起きる。したがって、彼らの死は、スムースに機能している社会の動きを中断させたりしない。今日、死の場所のほとんどが病院等の施設であり、施設側の管理下で対応されるのでなおさらである。

 
 繰り返しになるが、病院における死は、死に行く人とその家族によってではなく、医師と病院のスタッフによって執り行われる。医師とスタッフは、死ぬ状況ばかりでなく、死の瞬間をも決めている。死に行く人への家族や友人の接触もまた病院によって決められる。結果、死は、(死に行く人にとって近しい存在ではない)他人の決定に委ねられがちとなる。よくコントロールされた死は、非人間的ともなる。
 
 近年、「大きな一般病院は死ぬのに適した場所ではない」との認識が広がりつつある。死に行く人と接触する人との間の相互作用を改善し、死に行く経験をより人間的にしようという動きが始まりつつあるわけである。
 
 
 当然な動きかもしれないが、ほんの少し過去を振り返ると贅沢な動きともいえる。 
 
 というのも、このわずか100年間の医学などの発展・進歩は目覚ましく、かつ、私たちは生活環境や栄養状態の改善の恩恵をもろに受けた。その結果、私たちは長寿を謳歌させてもらえる状況に至っているに過ぎないからである。先達への感謝の念を下敷きにして、「行動には自己責任・自己決定が前提にある」という認識のもとに、「どう人間性回復を図るか」を論ずるべきと思う。
 
 
 参考までに、以下の2点を、『近代医学の建設者』(メチネコフ(著)、宮村定男(訳)、岩波文庫)から引用する。 
 
1.クリミア戦争(1854~1856)と日露戦争(1904・1905)におけるロシア軍の損害比較。
  クリミア戦争 日露戦争
戦死者 25,000人 25,000人
戦傷病死者 16,000人 6,000人

コレラ、チフス、壊血病などの

疾病による(軍人)死者

89,000人 1,000人
(※因みに、日本の大政奉還、王政復古は1867年)
 
2.この2つの戦争の間(50年間)における医学界の主な変化。 
1857年

パストゥール 醗酵に関する論文発表=醗酵の生物説

(それまでは、醗酵には酵母や微生物は介在しない、との考えだった) 

1861年 パストゥール 糖類の醗酵を起こす運動性桿菌を発見
この頃

リスター(Joseph Lister、イギリスの外科医)

“傷口から侵入した微生物に破壊的に働くような物質で

創傷を処置する方法を発見すれば・・・

創傷内の腐敗を取り除くことができるであろう”

として、手術室に石炭酸噴霧、包帯を石炭酸に濡らす、

高温滅菌などの消毒法を開発する。

1876年 ローベルト・コッホ 炭素菌芽胞の発見
1882年 ローベルト・コッホ 結核菌の発見
1884年 ローベルト・コッホ アジアコレラの病原の発見
(※その後、第2次世界大戦を経て、ペニシリンをはじめとする抗生物質などの発見・開発によって、外からの病気=感染症は制圧されたかに見える(完全に撲滅できたわけではないが)。)
 
 
 さて、本題に戻る。        
 
 人間性の回復とは、死について人間のごく自然な状態の一部分として扱うことから始まるのではないか。
 
 人が死に向き合う際に持つ基本的な問題は「恐怖」である。識者によると、死の恐怖は、次の5つに分類できるという。① あるゴールを追及あるいは完成できないことの恐怖。② 残された家族に何が起きるかについての恐怖。③ 自分の運命を自分で制御できないことの恐怖。④ 罪に対する処罰の恐怖。⑤ 愛する人々や大事なものからの孤立と別離の恐怖。
 
 この問題に対応するには、死の恐怖を受け入れ、超越する条件を整え、支えてあげる環境を用意するしかない。
 
 死を身近で経験し、自分で自分の問題として考え、相談もし、元気なうちに自分の意思を固めておくということも有力な手段になるのではないだろうか。厚労省作成の「終末期医療」のガイドラインによると、「本人による決定が基本」という。
 
 今日、紹介されている手段は、以下の3つである。        
 1.病院の調査に記入する・・・国立長寿医療研究センターの「私の医療に対する希望調査」。
 2.日本尊厳死協会に「尊厳死の宣言書」を送付する。        
 3.自分らしい生き死にを考える会から、「私の生き方連絡ノート」を購入し書き込む。
 
 
 私もご縁があって、次の社団法人の活動を応援することになった。
 
フリーダイヤル:0120-009-600        
 
 主な事業は、「自然尊厳宣言証」の発行・管理である。(過度な延命治療は辞退する、苦痛を緩和する治療を希望する、自然に生涯を終えたい趣旨を宣言するカードを本人が元気なうちに用意し、必要があれば病院などに提示できるようにするもの)
 
 会員向けに、法律専門家などによる相談や24時間医療、介護、福祉などの無料相談も行う。
 
 「看取り」も可能な高齢者の生活にふさわしい住宅も用意するべく検討中である。
 
 頭が痛いのは、この会の趣旨を理解願い、会員や賛助会員を増やし、全国展開する方法が見つからないことである。どなたかお知恵をお貸しいただけませんか。

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