コラム

    • 学生の医療保険観

    • 2010年11月23日2010:11:23:00:05:00
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

はじめに

 
 10月から週2回の社会保障法の講義が始まった。1回90分、30回弱の講義では制度の骨格とそれにまつわる判例や問題点、その合間に学生の関心を引くような社会保障に関連する「時」の話題を盛り込むと、細かい話はできない。
 
 また、社会保障には各種社会保険、生活保護、社会福祉制度等、いろいろあるが、若く健康な大学生にとって年金や障害者福祉などは身近なテーマではない。他方、インフルエンザに罹った、部活動でけがをしたと、病院へ行くことは、大学生にとっても、時々あることなので、社会保障の項目の中で学生がより関心を持つテーマは、医療保障・医療保険ということになる。
 
 そのため医療問題についての話には、学生の、いわゆる「食いつき」がよく、限られた時間なのに、医療保険に当てる時間が多くなってしまう。先日、医療保険の講義を終えるに際し、授業時間中にミニレポートを書かせた。テーマは「日本の医療保険の良いところ、良くないところ」である。
 
 レポートの背景には学生の個人的経験、メディア経由の情報、講義から得た知識などが、伺える。以下では、その概要を紹介したい。
 
 

1.良いところ

 
 なにより国民皆保険を強く支持している。それは、全国民がいつでも、どこでも等しく医療を受けることを可能にする制度であると理解しているからである。命や健康に関わる制度設計だけは、平等であるべきだと考えていることがわかる。
 
 具体的な施策の中では、とりわけ高額療養費制度を高く評価する。医療保険の防貧機能が端的に現れているからであろう。同制度を身近に利用した者がいる学生の場合は、そのありがたみを実感している。
 
 また、最近、国保保険料を滞納し、証明書を交付されている世帯の高校生以下の子供に限り、短期被保険者証を発行するという制度が施行された。このような制度を、若い学生たちは人道的であると評価して、好意的である。
 
 ところで、社会保障制度をよく知らない学生は、教える側の考えに左右されやすい。上述の新しい施策を、保険料をきちんと納めている世帯との均衡が取れない、政府の人気取りのためのバラマキ福祉である、新制度を作らなくても既存の使える制度はあるなどと、教壇から話せば、学生の評価が落ちることは間違いない。
 
 したがって、講義をするときは現行制度を淡々と中立的に説明、複数の評価を紹介し、学生に考えさせることが大切である。
 
 

2.良くないところ 

 
 患者=被保険者と医師・医療機関側、各々に現れる現象を指摘して、医療保険制度の良くないところを述べている。 
 
 現行医療保険制度は患者を過保護扱いしているとして、それを良くないと考えているようである。すなわち、フリーアクセスを保障する医療保険ゆえに、患者の安易な受診が多く、病院が混み、本当に辛い病人が待合室で長く待たされる、あるいは、病院が患者を断ることができないので、クレーマー患者のような存在を許している、などをその例としてあげる。 
 
 また、医師・医療機関に見られる良くないところについては、出来高払い方式に乗じて痛み止めや胃腸薬など不要な薬をたくさん処方する、その割には患者が伝えたいことを理解してないなど、個人的経験から来る不平不満が列挙されていた。 
 
 他方で、昨今の医師不足、医療崩壊に関するメディア情報を背景に、国や医療保険制度は医師に対する配慮が不足しているという意見も散見された。 
 
 

まとめにかえて

 
 社会保障法の講義を聞いていない学生の意見を聞いてみると、興味深い比較が現れるかもしれない。制度についての知識の有無が、それに対する評価にどのような影響を与えるかがわかるであろう。
 
 有意な結果が抽出されるならば-筆者としては、そう願いたいのだが-、中学生あたりから、社会保障制度に関わる講義を履修できるようにして、多くの国民が人生の早い時期に正しく制度を理解できるようにしたら良いと思う。これが結局は、社会保障制度の維持のために、国民の協力を得る最善の方法のひとつ、といえよう。たとえば、国民年金制度への不信感は、多分に制度を正しく理解していないことに由来する。急がば回れである。
 
 
--- 片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)

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