コラム

    • 中身が聞きたい

    • 2011年01月18日2011:01:18:00:05:00
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 

 内閣支持率20%台前半―。“危険水域”すれすれの菅政権が消費税率の引き上げを念頭に税制と社会保障制度の改革の必要性を訴え、全党協議を呼び掛けている。本気なら、まず、政府、与党が改革の具体案を取りまとめ、国民や野党や説明するのが筋だろう。 
 
 2011年度の政府予算案をみると、年金、医療、福祉などの社会保障関係費は前年度当初予算比で5.3%増の約28兆7千億円。実に一般歳出全体の5割余を占める。今後も社会保障費が増え続けることを考えれば、次年度以降、新たな安定財源が必要となるのは明らかだ。 
 
 4日の年頭記者会見。菅首相は改めて「税制と社会保障の一体改革」を強調したが、翌日のマスコミは「小沢切り」がトップ見出し。国民が抱く今日明日の不安より、何でも政局に絡め、政治ドラマに仕立てることしか脳が働かない政治部記者らしい反応だった。この国の不幸は政治記事の見出しでよく分かる。 
 
×     ×     × 
 
 民主党(連立)政権の不幸は、末期の自公政権と同様、社会保障と税制の双方に詳しい人材がいないことだ。年金、医療、介護、福祉など個別の課題については、それなりに詳しい議員(地方議員が多い)がいる。 
 
 ところが、税制、財政、金融などの分野は、素人当然の議員が大臣や副大臣に就くなど、この分野では絶対的に人が足りない。その典型が看板の政治ショー「事業仕分け」だ。乏しいデータを横目に、テレビ目線で「廃止」「削減」「縮小」とワンフレーズで叫んで済む話ではない。 
 
 国家事業の根幹を支える予算の編成ともなると、各省庁の幹部職員からレクチャーがなければ、関係閣僚会議の質疑に加われないような大臣が少なくない。官僚をうまく使うことも政治家の腕だが、勉強不足では官僚(官庁)の思うままになりかねない。 
 
×    ×    × 
 
 振り返ると、政権交代は自公政権への国民の政治不信が根底にあり、年金制度や後期医療保険制度などに対する有権者の将来不安と怒りが引き金となった。 
 
 では、交代後、民主党議員は「有権者の期待に応えてきた」と胸を張って言えるのか。自公政権の社会保障政策と、どこが違うのか、ちゃんと説明してきたのか。 
 
 外交もそうだが、今回の予算編成でも、場当たり的な対応が際立った。基礎年金の国庫負担率引き上げや子ども手当を上乗するための財源が見つからず、1年限りの埋蔵金に頼ったり、地方自治体の一部の反対を押し切って国の負担を自治体に肩代わりさせたりした。 
 
 一方、統一地方選挙への影響を懸念する民主党への配慮から医療保険や介護保険の利用者負担の一部引き上げなどを次々と見送った。これでは選挙が近づくたびに支援団体や族議員におもねて方針を転換し、“ばら撒き予算”を計上していた自公政権と同質ではないか。 
 
 この経済状況の下で少子高齢化が進めば、社会保障制度が立ち行かなくなることに多くの国民が気付いている。高い経済成長に支えられ、少ない負担で今まで通りの給付が受けられる「低負担の時代」が終わり、とっくに「中負担の時代」に入っている。 
 
 低所得者に配慮しつつ、社会保障の無駄やダブりをなくすなどして制度を見直す一方、足りない財源を国民や事業者が応分の負担をして賄う方法を国会で論議し、政治決断しなければならない。税制と社会保障制度の一体改革の必要性より、その中身を聞きたい。
 
 
--- 楢原多計志(共同通信社客員論説委員)

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