コラム

    • WHOのパンデミック対策、外部検証委員会が批判

    • 2011年03月22日2011:03:22:00:05:00
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

 

 2009年4月末にメキシコから発生したパンデミックインフルエンザ対策が(豚インフルエンザ、日本では新型インフルエンザ)、WHOにより過剰に煽られたとヨーロッパの政治家や批評家から批判されている。
 
 問題点として、WHOの顧問専門家達が製薬企業と密な関係を持ちながら、WHOのパンデミック対策や、パンデミック宣言に強い影響力を持ったことが上げられている。   WHOのチャン事務局長はそうした批判に対して、2010年春に外部専門家に依頼して、WHOのパンデミック対策を検証する委員会を設立した。             
 
 検証委員会は24カ国の専門家で構成され、委員長は米国の医学研究所(Institute of Medicine)のファインバーグ長官が起用された。
 
 ほぼ1年近くの検証後、委員会は報告書の草稿案を先日発表した。
 
 その中で、これまでヨーロッパで批判されてきた多くの問題点が、WHOの不手際として指摘され、さらに本格的パンデミックが将来発生したとき、現在のWHOの態勢では防ぐことは不可能であると警告された。
 
 
 指摘された不手際は以下の通りである。
 
  1. パンデミックの定義--ウイルスの広がりからの定義ではなく、病原性の深刻度を加味すべきとされる
  2. WHOの顧問委員会構成メンバーの名前が秘密とされてきたが、多くの委員が企業と利益相反の立場にあり、中には製薬企業との共同研究を行っていた専門家もいた。そうした専門家達がワクチンやタミフルの備蓄を勧めるパンデミック・ガイドラインを作成していたが、WHOはそれら委員達の利益相反の立場を公表していなかった。
  3. ウエブ上で記載されていたパンデミック定義が、パンデミック宣言前に説明なく、突然宣言に都合良い内容に書き換えられた。(当初は病原性の重症度が定義の中心となっていたが、書き換えられた定義は、ウイルスの拡大程度が中心となり、病原性程度は省かれた)。
  4. WHOから提供される正確な情報量が少なかった。
 
 
 一方WHOがパンデミック宣言をして各国が大量のワクチンを購入する結果になったが、その大半が使用されることはなかった。
 
 このことに対して、委員会はWHOの非とは判断しなかった。
 
 ヨーロッパにおける批判として、製薬企業が巨額の利潤を得るためにWHOのパンデミック宣言に大きな影響を及ぼしたとされている。
 
 
 委員会の検証結果は、ヨーロッパ議会、ドイツの”シュピーゲル誌”、および英国の医師会雑誌(BMJ)が批判した多くの問題点を認める結果となった。
 
 そしてさらに委員会は、現在のWHOの指導力では、将来起きえる世界で数千万人死亡する可能性のあるパンデミック対策が、世界各国で十分講じられないだろうと警告している。
 
 
 この草稿案の発表は、AP通信が世界に配信、そしてニューヨーク・タイムズも長大な論説を掲載した。
 
 一方、日本の報道では、日本経済新聞が取り上げているが、内容は表層的で短く、海外報道のように検証委員会が指摘している真実は告げられていない。
 
 真実が日本語で報道されないと、日本国民は何も知らないまま、危険な大地を集団で大手を振って歩くことになる。
 
 各報道のタイトルは以下の通りである。
(※各記事へのリンクは、3/18現在。AP配信のニュースはABCが報道したもの。日経のニュースは本記事が既に削除のためキャプチャ画像)
 
AP通信
 (WHOの豚インフルエンザのパンデミック対策の不備が指摘)
 
ニューヨーク・タイムズ
 (WHOの豚インフルエンザ対策が批判)
  
Boston Globe
 (検証委員会、WHOの豚インフルエンザ対策を批判)
 
日本経済新聞
 
 
--- 外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

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