コラム

    • 不気味なエジプトにおけるH5N1鳥インフルエンザの人への広がり

    • 2011年06月07日2011:06:07:00:05:00
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

 

 今年に入ってからエジプトではH5N1鳥インフルエンザに24人が感染し、そのうち7人が死亡している。致死率は29%であるが、世界平均の60%に比較すると非常に低い。 
 
 さらに発病者の約4割弱が乳幼児であり、そして何と全員が治癒している。 
 
 H5N1鳥インフルエンザの感染者が軽症化してくると、ウイルスの人への適合化が進んでいることが示唆され、近い将来ウイルスが人のインフルエンザウイルスとなる可能性が高くなる。 
 
  
 エジプトでは、H5N1鳥インフルエンザウイルスは鶏の間に土着している。 
 
 家庭の多くでは食料源として、または収入源として鶏を自宅で飼育している。その世帯数は500万を超える。 
 
 鶏の飼育は主に主婦や娘達が担当している事から、エジプトにおけるH5N1鳥インフルエンザの感染は、若い女性に多かった。 
 
 しかし一昨年頃から乳幼児での感染が目立ちだしてきた。 
 
 乳幼児が感染する理由は、死亡した鶏、または感染した鶏への接触とされている。 
 
  
 それは不思議な事実であるが、発病した乳幼児の周辺では母親も含めて発病した成人例はない。 
 
 なぜエジプトでは1歳以下の乳児も含めて感染者の多くは乳幼児なのだろうか。 
 
 さらに彼らの大多数は軽症から中等症で治癒している。 
 
  
 発病乳幼児の症状は、発熱と咳が主である。 
 
 早期に病院へ入院してタミフル等の抗インフルエンザ薬を服用しているが、筆者の推測では、そうした薬剤投与がなされなくても自然治癒している例もあるようだ。 
 
 すなわちエジプトでは、H5N1インフルエンザは乳幼児では軽症で回復する傾向が強いのである。 
 
 もちろん、ウイルスが人から人へ感染している兆候はない。全ての感染者は、鶏からの一方通行的感染とされている。 
 
 人から人へウイルスが感染するようになると、再びパンデミックインフルエンザの発生となるが、そのときは以前のような”柔な”パンデミックではなく、日本国内で数十万人以上の死者がでる大恐慌の訪れとなる。 
 
  
 他の国でも発病した乳幼児が軽症かというとそうでもない。 
 
 今年に入って、カンボジアで5例の発病者がでて全例死亡しているが、その中で3例が5歳以下、1例が1歳以下となっている。中には母親から感染した疑い例もある。 
 
 H5N1パンデミックインフルエンザの震源地になると危惧されてきているインドネシアでは、2月に2歳男児が死亡している。   
 
  
 こうして分析するとエジプトにおけるH5N1鳥インフルエンザの人への感染特性は、他の国のそれとは明らかに異なっている。 
 
 この疑問は2年前から世界的にも専門家の間で浮上してきていて、ニューヨーク・タイムズも取り上げたことがあるが、詳細に感染事例を調査した米国とエジプトの専門家チームがこの3月に論文を発表して、エジプトからパンデミックとなるウイルスが誕生する危険性を警告している。 
 
 彼らはエジプトにおける4例の感染者から、”エジプト-G”と命名した新しい株を分離し、その特性を報告している。 
 
 幸いなことに、現時点ではその株は人から人へ感染を起こすとは言われていない。 
 
  
 しかし筆者が懸念するのは、H5N1鳥インフルエンザウイルスに感染した乳幼児が、症状として発熱と咳、そして2~3日で軽症治癒していると、通常の感冒との鑑別が困難となることである。実際にエジプトの医師の談話としてそのような困難性も報道されている。 
 
  
 エジプトでは容易に乳幼児に感染するH5N1ウイルスが誕生しているのだろうか? 
 
 そのウイルスは成人には感染しにくいが、もし感染すると重症化して死亡する確率が高い。 
 
  
 疑問は尽きない。 
 
 結論はこの2~3年以内に出るはずと思われる。 
 
 結論が出る前に世界は、もう一度危険性の高いインフルエンザのパンデミック対策を見直す必要がある。 
 
 それは2009年に流行したH1N1パンデミックインフルエンザに対するWHOの対応を検証した外部委員会も、将来的に発生するパンデミックインフルエンザへの対策は不十分であると、WHOに対して警告を発していることからも理解出来る。 
 
  
 2009年のH1N1(2009)パンデミックの後遺症として、現在、世界的にパンデミック疲労、または無関心が広がっているが、H5N1ウイルスの人への危険性は以前よりも高くなっていることに一般社会は気づいていない。 
 
 
 今、筆者は真面目に危惧している。 
 
                  
 厚労省を初めとして日本医師会、マスメディアの関心が途絶える頃、大恐慌につながるパンデミックインフルエンザが発生することが怖い。 
 
 日々の世界のインフルエンザ情報は、筆者のウエブサイト『鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集』で、日に数時間要して発信されているので、参考にして欲しい。
 
 
--- 外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

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