コラム

    • 日本の医療サービス改善策

    • 2011年09月06日2011:09:06:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 某有名病院の院長と面談中、たまたま、話題がメディカルツーリズムに及んだ。

 
 すなわち、日本の医療は技術100点満点、言葉を含むサービス50点。医療に占める両者の割合をフィフティ・フィフティと仮定すると、日本の医療はトータルで75点。これに対し、この分野に国を挙げて力を注いでいるシンガポールやタイなどは両者ともに80点とか85点。いまのままでは、日本におけるメディカルツーリズムはうまくいきませんよ、とのご託宣。 
 
 
 わが国は今後ますます生産年齢人口の割合が減少する。加えて、若者の成長や発展に対する意欲は減退傾向にあり、また現在の外国人労働の受け入れ状況などを総合すると、医療分野のサービスの充実は望むべくもない、かに見える。
 
 メディカルツーリズムの成功の是非はともかく、サービスの改善の速度が遅い影響は日本人自身が受けるわけで、放置しておけない問題ではないか。何か発想の転換はないものかと考え、以下、提案を兼ねて問題提起する次第である。 
 
 

■医療を含む近代科学の生みの親はキリスト教 

 
 戦後の日本の医療の主たる流れはアメリカに学んだいわゆる西洋医学に基づく。西洋医学は宗教改革に並行して発展した科学技術の一環。ベースにはキリスト教の精神が流れていると理解せざるを得まい。 
 
 そこで、キリスト教と科学の関わりについて、俄か勉強してみた。 
 
 ものの本によると、おおよそ、以下の通り。キリスト教における唯一絶対の神GODは、世界を創造した。人間も創造した。神には設計図があり意図がある。人間が神を理解しようと思うと、神の設計図や神の意図を理解しなければならない。その可能性を与えるのが理性。この理性をもって自然の解明に取り組んだ結果生まれたのが科学(とくに自然科学)。言い換えれば、理性を通じて神と対話するやり方の一つが自然科学。科学は宗教の副産物といえる。 
 
 では、医療の底辺に流れているであろうキリスト教精神とは何か。隣人愛とのこと。つまり、人々の生活は苦しいし誰もが救われたいと願っている。しかし、人間は自分で自分を救えない。救うのは、唯一絶対の神のみだから。神は救われようと願うなら律法に従えと言われた。これは、しかし、難しい。そこで、神はこの世にイエス・キリストを送られ、律法に代わり愛を呼びかけさせられた。イエスが現れてから最後の審判までの間に、神は愛の呼びかけに人間がどう応えるか見ておいでになる、愛を実践する者を救いたいと待っておいでになる。ところで、愛とは何か。①心を込めてあなたの主である神を愛しなさい、②あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい、の二つ。 
 
 だから、欧米流の医療・福祉の現場では、隣人愛が原点にある、という。ところで、本当の隣人愛を実践した模範はだれか?あの“よきサマリア人”、だとのこと。 
 
 

■隣人愛にも限界がある?

 
 あるイギリスのキリスト教徒(ソーシャルワーカー)が言うには、ここに問題がある。 
 
 サマリア人が出てくるルカ伝では、隣人愛の対象になった旅人は、何も喋らず、何も行動せず、表に出てこない。そこに問題があるというわけ。その問題とは、サービス漬け、貰い得、援助に頼りすぎて働かなくなる人も現れる、という問題。キリスト教精神に基づくサービスに限界があるのではないかという疑問。 
 
 この人は仏教に解を見出そうとした。 
 
 仏教の説話では必ず被害者の努力が強調されているという。また、仏陀は死に臨み最後の言葉として「さあ、比丘らよ、汝たちに告げよう。諸行は壊れるべきものである。怠ることなく励みなさい」と。仏教では、助けられる側の自覚を促す、助けられる側の場まで入っていくのが基本であり、これによって、上記の限界を超えられるのではないか、と考えた。 
 
 

■仏教と医療 

 
 仏陀は行を続け悟りを開くためには、心身の健康の必要性を重視。そして、心身の癒しの道をインドの伝統医学であるアーユルヴェーダに求めたとのこと。 
 
 医の倫理に関し、「医戒」「看病人戒」「病人戒」について述べている。参考のため、「病人戒」を引用(摩訶僧祇律)。 
 
1.能く随病薬、隋病食を服す 
2.看病人の語に従う 
3.人が問うに病の増損を知る 
4.能く苦痛を忍ぶ 
5.精進して慧あること 
 
 仏陀が説かれた原始仏教に戻るわけにもいくまいが、しかし、患者に自覚を促し「怠ることなく励みなさい」と働きかける医療サービスの在り方は研究されていいのではないか。(自分勝手でそれでいて導かれたい心情の日本人には、全く受け入れられないかもしれないが・・・・・)
 
 

■まとめ

 
 医療・福祉の現場を医療提供側と患者との協働作業の場にしていくという発想はすでに動き始めているといえる。
 
 これを日本における医療サービスの基本的な在り方として意識的にとらえ、近代科学が追及した合理性・効率性を克服し、共生・循環型に変える発想の基本に据える試みを行ってみてはどうか。
 
 
 
---岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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