コラム

    • 寝たきり老人は人間の尊厳を損ない、日本の医療・介護を崩壊させる ~医療百論の読者のアドバイスを!!~

    • 2011年10月18日2011:10:18:00:05:00
      • 大浦武彦
        • 医療法人社団廣仁会 褥瘡・創傷治癒研究所 所長
        • 北海道大学 名誉教授

 

1.何故多い寝たきり老人と関節拘縮

 
 日本は今や世界一の長寿国であり、平均寿命は♀86.44才、♂79.59才(厚生労働省2009年データ)である。しかし、現在、長期療養の施設や在宅において褥瘡の治療をしている患者の80%の人が“寝たきり”であり、関節拘縮を持っている。
 
 著者は平成7年北海道大学を定年退職後、あるきっかけから医療の谷間にあった褥瘡に光をあてるため、日本褥瘡学会を立ち上げたが、それ以来ずっと心に引っかかっていたのは“寝たきりの患者”と関節拘縮患者の多さであり、また老人のQOLがこれでよいのかという疑問であった。初めのころは単純にPT・OTの数が少ないので、仕方がないと思っていたが、最近はかなり増加しているにもかかわらず、寝たきり患者も褥瘡も全く減らず、関節拘縮も相変わらず減少していない。介護施設では無気力のまま車椅子の上で口を開けて過ごしており、快適な生活とは思えない。
 
 一方、スウェーデンやオーストラリアでは寝たきり患者も関節拘縮もほとんどみないという話を聞き、思い切って昨年スウェーデンとオーストラリアに確かめに渡航した。行ってみてわかったことは、本当に寝たきり患者は見られず、関節拘縮患者もいなかった。施設内で車椅子や机を囲み談笑している姿を見てある意味でのショックを感じた。長い期間をみれば寝たきりをなくすのは老人のQOLを考えれば当然でしょうと言う。寝たきりをなくし、関節拘縮をなくすることが医療費の抑制につながるという。
 
 その後日本に帰り色々と調べてみると、日本でも厚労省始め、学会でそれなりの行政処置と努力が行われていることがわかった。本年8月、リハビリテーションの生みの親である澤村誠志先生にお聞きしたところ、PT・OTの教育はスウェーデンと同じか、それ以上の教育をしているとのことであった。しかし、それにもかかわらず、どうして日本では寝たきり患者が減らず、拘縮患者が多いのであろうか?
 
 

2.皆で協力すれば高齢者の動きが維持され改善が著しい!

 
 これまで著者は寝たきりに近い患者が関節拘縮を持っているとPT・OTに依頼するしか治すことはできないと思っていたが、現実にはリハビリテーションのみでは関節拘縮の回復はもとより立つ、歩くまでの回復はほとんど望めなかった。
 
 考えてみよう!PT・OTがかかわる時間は1日のうちたった30~40分、しかも場合によってはこれが1週間のうち2~3回しかないということであれば、リハビリテーションの人達だけではなかなか目的が達成できないことは自明の理である。
 
 実際の現場ではリハビリテーションを受けた後のポジショニングが悪いと1時間後にはすっかり元に戻ってしまっている。更にこれに加えて看護・介護のケアの悪さが輪をかけて悪化させている。
 
 もしチームの人みんなが掴まない、持ち上げない、身体の生理的機能を考えた移動、更に“立たせる、歩かせる”という目標に向かって、努力をすれば少なくとも1日のうち数十回、時間にしても数時間のトレーニングが行われることになり、目的が達成されやすいのである。その最初のステップはリハビリテーションの方が一人でやるのではなく、皆で協力できるチームづくりをすることである。皆で足底や膝に体重をかけさせ、足底に刺激を与えれば、関節拘縮も治ってくるし、これにより呼吸機能も回復し、便通もよくなり、食欲も出てくるのである。
 
 このようにチームで協力して治した症例や改善された症例報告が多数出てきているし、筆者自身も体験している。
 
 

3.このままでは崩壊する日本の介護・医療制度

 
 世界一の長寿と言いながらこのように寝たきりとなり、トイレにも行けず、一人で食べられず生ける屍のような状態で長生きして本当に幸福な老後と言えるのであろうか。最近は経管栄養を施されるようになり、これに輪をかけてよくない状況となっている。日本の老人病院や施設では目は虚ろ、手足は痩せ細り、関節は拘縮し、朝から晩まで寝巻姿で車椅子に座らせられており、日本の高齢者は不幸であるとつくづく思わされる。
 
 筆者はこれらの原因の大本である急性期病院でのあり方がまず問題であると思っている。急性期病院の医師は自分の専門分野から飛び出すことができず、リハビリテーションの超早期開始にふみきれないのではないか?またリハビリの人々は寝たきりを自分達だけで治せると思っているとすればおこがましい。自分達だけでなく、チームをつくり、チームを指導し、チームで治療すべきであると思う。また、厚労省もインセンティブとしてリハビリテーションの時間に点数をつけるのではなく、難しいかもしれないが、“成果”に点数をつけるようにしなければいけないと思う。
 
 健康長寿の国をつくるために、皆様のアドバイスとご協力を望むものである。
 
 
 
---大浦武彦(医療法人社団廣仁会褥瘡・創傷治癒研究所所長、北海道大学名誉教授)

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