コラム

    • 複式簿記の話(その1)

    • 2011年11月29日2011:11:29:11:03:25
      • 鈴木克己
        • 税理士

 

 今回から、会計の基礎技術である「簿記」をトピックとして取りあげたい。
 
 簿記という言葉を聞いて、多くの人が地味なイメージを持つのではないかと思う。
 
 しかしながら、現在の経済活動にとっては無くてはならない技術であり、その技術が現在の経済社会にもたらした恩恵は大きい。
 
 今回は、簿記の仕組み、歴史を簡単に整理する。
 
 

■簿記とは

 
 簿記とは、主に企業や家計、官庁などの活動を一定のルールに従って帳簿に記録・計算する技術をいう。記録・計算の方法によって単式簿記と複式簿記に区分される。
 
 単式簿記とは、現金の入金・出金のみを記録する簿記の方式をいう。イメージとしては家計簿である。現金の入金・出金を記録することで手元の現金の残高を把握したり、食費や被服費がいくらかかったかを把握する簿記の技術である。
 
 単式簿記では、現金の残高を把握することが目的の中心であり、その残高に至るまでの過程、たとえば食費や被服費がいくら発生したのかを把握するためには食費や被服費を改めて合計しなければならない(つまり、家計簿では決算書の作成に時間がかかる)。
 
 複式簿記とは、単式簿記の特徴である現金の増減という取引の結果に加え、現金の増減をもたらした原因(どのような取引に起因して現金が増減したのか)も合わせて把握していく簿記の技術である。
 
 複式簿記は経済取引を結果と原因という2つの側面から把握していくので、複式簿記で記録することにより、資産・負債の計算と売上・費用の計算が同時に行われ、最終的には一定期間の経済取引の結果を決算書という形で表現することが容易となる。
 
 先生方が普段、顧問税理士から報告を受けている会計情報は当然、複式簿記により記録されたものである。
 
 会計情報として精度が高いのは、当然、結果と原因の両面を把握できる複式簿記による記録である。そのため、複式簿記は、株主や債権者等利害関係者への情報開示が強く求められる企業会計に用いられている。 一方、単式簿記は、主に予算の執行状況の確認を目的とする公会計、すなわち、国及び地方公共団体の会計で用いられている。
 
 

■簿記の歴史

 
 簿記の起源は、15世紀末のイタリアにあるといわれる。
 
 ルカ・パチョーリという数学の教師が著したスンマという書籍に複式簿記に関する記述があり、その内容がほぼ現在の複式簿記そのものであることから、一般的には、ルカ・パチョーリが「複式簿記の父」と言われる。
 
 一方で、ルカ・パチョーリは、当時既に民間の商業取引で行われていた複式簿記の技術的な説明をまとめただけであるという説もある。
 
 その説に拠れば、複式簿記はある日突然確立したものではなく(ルカ・パチョーリが発見し、体系的に整理したという訳ではなく)、当時、商人の間で自然発生的に使われていた帳簿技術であったとされる。
 
 前述したように当時の複式簿記の技術は、ほとんどそのまま現在の複式簿記の技術であり、複式簿記による正確でわかりやすい帳簿技術が当時のヴェネツィアやフィレンツェなどの商業都市の発展に大きく寄与していたと言われている。
 
 筆者個人としては、後者の説、つまり、当時の商人の間で自然発生的に複式簿記の技術が確立されていったという説の方が正しいのではないかと考えている(会計・税務に携わる人間として、商人たちの独創が当時、世界一の繁栄をイタリアにもたらしたと考えたいという思いもある)。
 
 16世紀以降、コロンブスのアメリカ発見やヴァスコ・ダ・ガマによるインド航路発見などを契機に大航海時代に突入する。オランダによる東インド会社の設立など商業の大規模化が進み、それに伴って複式簿記の技術がヨーロッパ全体に広がり、発達していく。
 
 この頃から現在の株式会社の仕組みの基礎が少しずつ確立していく。“投資家”という概念の登場である。
 
 投資家という概念は、投資先、すなわち、会社の経営状態を正確に把握する必要があり、反対に投資を受ける会社側も投資家に対して正確な経営状態を開示する必要がある。
 
 そのため、投資家と会社の両者にとっての共通言語が必要とされ、そのことが複式簿記による帳簿作成及び現在の決算に相当する開示技術の発達を後押しすることになる。
 
 大げさな言い方をすれば、現在の資本主義社会は複式簿記の技術がもたらしたといえるかもしれない。
 
 次回では、現在における複式簿記について整理したい。
 
 
 
--- 鈴木克己(税理士)

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