コラム

    • 並々ならぬ覚悟

    • 2012年01月31日2012:01:31:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 

 2011年は「独裁者の終わり」を告げる年であった。幕開けは、チュニジアの独裁者ベン・アリ大統領の逃亡、ついでエジプト独裁者ムバラク退任、リビア独裁者カダフィ大佐殺害、年の最後に北朝鮮金正日総書記の死亡。
 
 
 独裁者の終わりは別にして、できるだけ安らかに最期を迎えたいというのは、万人共通の願い。ところが、現代医療の進歩により延命措置がとられることで苦痛を強要されたり、“生きながらえ”させられる患者は少なくない。
 
 「尊厳死」は、まことにままならない。
 
 振り返ってみると、91年には東海大学、96年には京都府の国保京北病院で積極的安楽死が行われたとして社会問題化した。東海大学事件では裁判を通じて積極的安楽死が許容される4条件が確立した。
 
 90年代前半までは、「患者の死亡は医療の敗北」とみなす風潮が強かった。しかし、悪戦苦闘の医療行為は患者の延命に寄与せず、代わって、患者の自己決定を重視する医師と患者の関係が求められるようになった。90年代後半から、治癒が期待できないがん患者には疼痛緩和、ホスピスへの紹介、自宅での看取りなどの緩和医療が注目されてきた。
 
 2000年代に入り、川崎協同病院や射水市民病院で人工呼吸などの延命治療の中止(消極的安楽死)が問題になった。
 
 例えば、川崎協同病院事件では、患者の回復可能性はないと判断した主治医が気管内チューブを抜き、まもなく死亡。抜管については、家族の要請もあったという。しかし、3年半経過してから、事件化し、主治医は殺人罪で逮捕、起訴、09年に最高裁判決。懲役1年6か月、執行猶予3年。
 
 家族の要請があった上での延命治療の中止が「殺人」になってしまった。そのうえ、厚労省は、11年9月になって、この医師につき医業停止2年の行政処分を決定。
 
 
 07年4月、厚生労働省は終末期医療の指針を発表したが、終末期の定義や延命治療中止要件には踏み込まなかった。最高裁も判決の中で延命治療の中止要件を示さなかった。責任回避としか言いようがない。高齢化の進展するなか終末期の入院患者は増える一方。医療資源の適正配分、良質な医療の迅速提供、無駄の排除などの社会的要請の深まる中で、医師や病院の苦悩は増すばかり。感情論やあいまいな死生観を振り回す議論は止めにして、無駄な延命治療の中止について早急に基準作りと法整備が必要に思える。
 
 
 2000年、アジアにおいて初めて、台湾でホスピス法が制定。
 
 欧米では、ベルギー・オランダ・スイス・ルクセンブルグで法律が制定され、また、アメリカでは97年オレゴン州で医師の自殺ほう助を認めたのに次ぎ、08年ワシントン州でも同様の法律が住民投票の結果成立。
 
 もちろん、欧米でも「人を殺す」ようなことはしたくないわけだが、日本との違いを考えるうえで考慮すべきは国民と医師の自律。日本では、自分の死は自分で決めるという意識は弱く、家族任せが特徴的。また、日本の医師は国のお墨付きを求めることを優先。「医学的に治る見込みのない患者に不必要な苦痛を与えることは、医師のモラルに反する」とする米国の医師との違いは鮮明だ。
 
 
 わが国でも、しかし、高齢となり自ら死を決意し断食行を繰り返した人がいる。(『死にたい老人』木谷恭介 冬幻舎新書)でも、身体上の障害や精神的逃避が原因となり断食行は挫折。また、宗教学者の山折哲雄さんは『「始末」ということ』(角川学芸出版)の中で、自分が最期を迎えるときには、断食でいこうと思う、といわれている。
 
 木谷さんは、断食行に入るには悟りが必要らしい。悟り抜きで「行」に入ると逃げ道を作り出してしまう、とも。
 
 山折さんは、人生は川のように流れているもの。点の集合による線で考える。死は点で捉えるものでなく、生からの移行で考える。老いる覚悟、病気になる覚悟、死ぬ覚悟と並々ならぬ覚悟をもって自分で選び進めていく”覚悟”がいる、といわれていると思われる。
 
 
 死ぬのは怖いし難しい。軟弱な筆者には、とくに難しく思える。せめてもの自分流の心得をしたためておく。
 
1.死を生からの一連の流れとして受け止めるようにする。少なくとも忌み嫌わない。
 
2.自分なりに死の準備をする。覚悟を込めて年初、遺書をしたためておく。
 
3.各種の迷惑回避のため、いざというときのネットワークを確立しておく。
 
4.死に場所を決めておく。筆者は自宅にしたいが、この場合、死に至る過程で必要な対応は外部から供給してもらえるようにあらかじめ手配しておく。延命治療については、自己決定力のあるうちに避けることを明確にし、伝達もしておく。
 
 
 
--- 岡光序治 (会社経営、元厚生省勤務)

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