コラム

    • 「話し合い解散」の乱暴さ

    • 2012年03月20日2012:03:20:12:18:16
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

 永田町周辺をうろついていると、政権を握る民主党と野党第1党である自民党による「話し合い解散」があるのかないのかをいつも聞かれる。消費税率引き上げをめぐって野田政権が行き詰まっているためだ。

 
 だが、「話し合い解散」は消費税率引き上げ関連法案の成立が前提だ。自民党もこれまで財政再建のための消費税率引き上げを訴えてきており、「関連法案に反対すれば『反対のための反対』と批判される。消費税率引き上げを民主党にやらせて解散総選挙に臨む方が有利だ」(中堅議員)との思惑がある。同党の落選議員のほとんどが早期解散を切望していることも、「話し合い解散」待望論を後押ししている。
 
 しかし、内閣支持率が「危険水域」とされる3割未満に下落し、国民に見放されつつある野田政権が、政府・与党内ですら十分にコンセンサスが得られていない消費税率引き上げを、それも野党第1党との「談合」によって強行していいのかどうか考えていただきたい。
 
 消費税率引き上げ関連法案は平成27年度までに税率を現行の5%から10%へ段階的に引き上げる内容だ。「社会保障改革との一体改革」と位置づけられたことで国民の理解はこれまでより深まっており、2月に実施されたマスコミ各社の世論調査では賛成が40%台後半、反対が50%前後と拮抗している。
 
 一方、内閣支持率の下落傾向には歯止めがかかっておらず、2月調査では前月調査を10ポイント程度下回り、30%割れに追い込まれた。また、消費税率引き上げの前提として野田佳彦首相が公約した「無駄の削減」「身を切る努力」についても9割近くが「評価しない」などと不満を示している。
 
 参院で与野党が逆転しているねじれ状況の中では、憲法で衆院議決の優位が定められている予算案や条約の承認案件などを除いて、野党側の賛成を取り付けなくては成立し得ない。消費税率引き上げ法案も同様であり、就任当初から消費税率引き上げに意欲を示してきた野田首相が自民党などとの与野党協議に期待感をあらわにしていたのはこのためだ。
 
 だが、政府・与党側は「消費税率引き上げに踏み切ったことで破綻した民主党マニフェスト(政権公約)」の撤回に抵抗するなど、面子にこだわったこともあって与野党協議は絵に描いたもちに終わった。
 
 こうした状況を受けて、自らが国会への法案提出期限と位置づけた3月末を約1カ月後に控えた2月25日、野田首相は谷垣氏との極秘会談を行った。民主党内での最終的な法案とりまとめ作業に向けて「その先」に一定のめどをつける狙いがあったものとみられる。
 
 両者は会談そのものを否定しており、何が話し合われたかははっきりしていないが、橋下徹大阪市長ら「大阪維新の会」の国政進出や石原慎太郎東京都知事らによる保守新党結成も話題になったとの見方や、解散総選挙のあとの「大連立」の可能性も模索されたという解説もある。
 
 野田首相は3月12日の参院予算委員会で「話し合い解散は絶対にないのか」と聞かれ、「(衆院の)解散については具体的に言うべきではないが、やらなければならないことをしっかりやり抜いたうえで、適切な時期に判断するということに尽きる」と答弁した。「話し合い解散」の可能性を完全否定しなかったと受け止められている。
 
 でも、ちょっと待ってほしい。有権者の支持を失いつつある首相と党内基盤さえ揺らいできている野党党首が、税金の引き上げという国権の最高機関である国会に託されるべき重要政策の可否と衆院解散を決めていいのか。会談が秘密裏であるだけに「談合」のそしりをも免れない。
 
 「話し合い解散」があるのかどうかだけに終始している与野党双方の国会議員もマスコミも、「話し合い解散」をやっていいのかどうかをもっと真剣に考えるべきだ。あまりに乱暴な政策遂行は民主主義に反するのではないか。
 
 
 
---關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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