コラム

    • 狭き門

    • 2012年04月03日2012:04:03:00:10:00
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 

 11.3%、37.9%―。政府間のEPA(経済連携協定)に基づいた看護師試験と初の介護福祉士試験での外国人候補者(受験者)の合格率。マスコミの論調(特集や社説)は「依然として“狭き門”だ」と例によってワンパターンの批判を繰り返しているが、介護現場の受け止め方はちょっと違う。
 
 

■もっと増やせ

 
 「(介護福祉士試験では)難しい漢字に仮名をつけるなどの配慮が功を奏したともいえる」「外国人活用に向け、一歩前進」と、どちらかと言えば、やや好意的なのが日本経済新聞。日本人労働者の減少を憂い、「小手先の対応ではなく、受け入れ拡大を含めもっと大胆な見直しが必要だ」と主張する。日本企業の国際競争力再建ため貿易自由化の推進と安価な労働力を求めてやまない経済界の意向を強く反映し、分かりやすい。
 
 一方、他の全国紙は、やや情緒的だ。「試験は“一発勝負”。出身国で身につけた知識があっても日本で資格が取れなければ帰国せざるを得ない」「『今度こそは』と挑んだが、数点足りなかった」(朝日)、「実習生たちは母国では大学など高等教育を履修し介護福祉士の資格を得ているプロである。もっと謙虚になって彼らから学ぶくらいの気持ちが必要だ」(毎日)。
 
 日経、朝日、毎日とも、日本語による試験問題へのさらなる配慮を求めている点では一致している。要は、「医療も介護も人手不足なんだから、もっと配慮し、外国人を増やせ!」というのだ。
 
 

■逆差別だ

 
 政府の対応はどうか。滞在期間を一定期間延ばして受験回数を増やしたり、試験問題中の難しい漢字にふりがなをつけたり、病名に英語表記を加えたり…。次回から外国人候補者の試験時間を延長することも検討しているというが、日経の指摘通り、どうみても、小手先の対応だ。
 
 今でも「インドネシアやフィリピンとの経済連携の一環として、いわば“特例措置”として受け入れている」「医療や介護では日本語によるコミュニケーションが成立しなければ、医療安全や適切なケアが担保できない」「外国人候補者に配慮しすぎれば、日本人候補者を受験差別することになりかねない」(厚生労働省幹部職員)と受け入れに慎重な姿勢を崩していない。どっちが正しい?
 
 

■熱気はどこへ

 
 現場はどうか。外国人労働者の受け入れに特に熱心だったのが、特別養護老人ホームや老人保健施設などを介護保険施設。ところが、いまや熱気が冷めつつあるようにみえる。
 
 インドネシア人介護福祉士候補者の受け入れ状況(厚労省データ)をみると、2009年は85施設だったが、10年34施設、11年29施設と減り続けている。原因は施設によって様々だが、首都圏の特養ホーム施設長は「受け入れをやめた施設に共通して言えることは、予想以上に、研修が施設に大きな負担となっていることだ」と指摘する。
 
 最も負担に感じているのは、外国人候補者が受験するために必要な教育や研修の費用の多くを自費で賄わなければならないこと。「介護保険制度では正規の介護職員とみなされないため介護報酬ではカバーできない」という。「こちらが持ち出しまでして受け入れる理由はない」と言い切る施設長もいるという。
 
 介護職員からも負担を訴える声が聞こえてくる。インドネシア人の研修を受け持っている介護福祉士は「とても真面目で熱心だか、日本語がなかなか上達せず、1人きりになりがち。周りが気疲れしている」と本音を漏らす。介護職員の絶対数が足りないことも周囲の負担を重くしている。
 
 厚労省は2015年には70万人以上が足りなくなると予測している。日本人であろうが、外国人だろうが、必要な医療や介護の職場に、必要な人が集まらないという現実。根本的に解決しないまま、経済連携で始まった外国人看護師介護士受け入れ制度。日本製品輸出促進との抱き合わせ。しかも海外に“安価な労働力”を期待しての策では先がない。日本の実情を知ったからか、自国が経済成長に入ったためか、インドネシアとフィリピンでは応募者が減っていると報じられている。実に分かりやすい。
 
 
 
---楢原多計志(共同通信社客員論説委員)

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