コラム

    • 腸を考える

    • 2012年05月08日2012:05:08:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 

 約4万件の大腸内視鏡検査で無事故の医師との話。
 
 通例の便の潜血反応の検査は大腸がんの早期発見のためには不確かなのでこれに代わるものとして、オナラ=屁の臭いを検査し、臭いに潜む血液の臭いをキャッチしたい。腸内のわずかな出血でも放屁の際、屁に混じるはずだから血液の臭いは混じるはずでこれをキャッチし腸内の出血前提に検査を行えば、大腸がんの早期発見につながる、という趣旨。
 
 発想のユニークさに感心したが、課題達成の見当は皆無に等しく、うーんと唸ったきりに終わった。
 
 しかし、せっかくの問題提起だから、全くの素人ながら関係書などに当たった。面白いと感じた部分を紹介する。
 
 

■屁とは?

 
 屁は肛門から排出される気体。平均的な大人で普通1日0.5~1.5ℓの量を5回から20回放つ。
 
 そのメカニズムは、小腸上部で消化吸収されなかった食物残渣が小腸の下部や大腸で腸内細菌によって分解され、発酵してガスを発生。ガスのほとんどは腸管から吸収されるが、吸収し切れないものが肛門から排出。
 
 気体成分。ガスの90%は体外から口や鼻を通して入ってくるもので、10%は体内の微生物により造られる。だから、成分の70%は窒素、酸素、メタン、二酸化炭素、水素。20%は血液中のガスが腸へ出てきたもの。10%が食物の滓が分解されてできたガス。微量だが臭いの元となる硫化水素、インドール、スカトールなどの成分を含む。
 
 その他、腸内細菌が1回当り数千個から数万個放出される。
 
 

■腸の役割

 
 小腸と大腸は、消化・吸収・排泄をつかさどる。腎臓・肝臓などは蓄積した老廃物を処理する器官であるが、もっとも多くの老廃物を処理するのは、消化管の最終器官である大腸。
 
 口から肛門までの構造=口→食道→胃→小腸(十二指腸→空腸→回腸)→大腸(盲腸→上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→直腸)→肛門。小腸の長さは6~7メートル、大腸は1.5~2メートル。
 
 食べ物は口から咽頭を経て食道に入り、胃に送られる。胃では胃液(酸性。主に塩酸)と混ざり合い撹拌されて食べ物は粥状になる。次に十二指腸(腸内はアルカリ性)で、胆汁と膵液の働きで栄養素の大半が吸収されやすい形に分解され、小腸を通過する間にほとんどの栄養素と一部の水分が吸収される。この残渣が便の素材。大腸では分解・発酵などの過程を経て、最終的に便を作り、ある程度蓄えられると排泄される。
 
 腸には、消化・吸収・排泄以外にも免疫・解毒の機能がある。生体における免疫機能で重要な役割を担うのがリンパ球。リンパ球のうち60%以上が腸管に集中しており、免疫抗体の60%が腸管で作られているといわれている。そのため、腸管は人体最大の免疫器官とされる。腸管免疫系の大きな特徴は、①生体にとって危険な病原性細菌やウイルスを排除する、②食品や腸内細菌などの安全なものに対しては、寛容で、排除しない、という2点。
 
 そして、この機能は「腸内環境」に左右され、腸内環境は腸内細菌が保っている。腸内部のひだの中に、約100種類、100兆個の細菌が存在。腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類、善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%で、バランスのとれた状態とされている。
 
 

■二つの腸能力

 
 一つは、腸が内容物を化学的に認識し適切な反応を起こすこと。二つは、食物塊を必ず口から肛門の方向に運ぶこと(逆流はない)。
 
 すなわち、腸に食物が運ばれてくると、その化学成分をいち早く認識し、すい臓、肝臓、胆のうなどに指令を発し、適切な反応を引き起こす。また、食物と一緒に有害な毒素が入ってくると、これに気づき腸の壁自身に命じて多量の液体(腸液)を分泌し毒物を体外に排出してしまう(これが下痢)。さらに、酸性の胃液が腸に入ってくると、アルカリ性の膵液や胆汁を招き入れて中和。
 
 それから、腸の蠕動運動。食物の塊が腸を刺激すると、必ず口に近い側の腸壁が収縮し、肛門側が緩んで、食物塊を肛門に向かって運搬しようとする(腸の法則)。
 
 これらの能力は、腸独自の神経ネットワークによるもの。腸の運動は副交感神経が大きな役割を担っており、もちろん脳の視床下部がコントロールするものの、腸にも約1億個の神経細胞があり、腸管神経系と言われる独自のネットワークを形成し、脳の指示がなくても腸は判断するようになっている。だから、腸は「第2の脳」と呼ばれる。
 
 

■発生学的には、腸はあらゆる臓器の生みの親

 
 動物進化の系統樹においては、もっとも原始的な動物として腔腸動物(ヒドラ、イソ)があり、これをルーツとして二つの幹に分かれ、一方の最先端に昆虫が、他方の最先端に哺乳類がいる。
 
 腔腸動物は口と肛門も分かれておらず、入口から体内に入った食べ物を消化して入口から排泄するという、腸を主体とする単純な構造物。そして、腸はさまざまな臓器に進化。栄養分を蓄える細胞が分離して「肝臓」となり、血中の糖分を調整するホルモンを分泌する細胞が分離して「膵臓」を作ったなど。酸素を吸収する細胞が「肺」になり、腸の入口、つまり口にある神経細胞の集合が「脳」に進化したといわれている。
 
 人間の腸の上皮の中にはピラミッド状の基底果粒細胞が、上皮の下には星形のニューロンが、いずれもヒドラの時代と大して変わらない姿で働いているとのこと。ヒドラが使っている信号物質も人間のそれとほとんど変わらないとも。これらの細胞と信号物質は、ヒドラから5億年の生物進化の時間を超えて人間に伝えられているということになる。
 
 
 
--- 岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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