コラム

    • どこに行けばよいのか?

    • 2012年06月05日2012:06:05:00:00:05
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 

■過半数が「NO!」

 
 日ごろ、政府や地方自治体が公表する資料を何気なく読んでいるが、記憶に残るものはほとんどない。当事者には悪いが、無駄なものも結構ある。ところが、先日、社会保障審議会介護給付費分科会の配布資料に目を通しているうち、「何だ!」と思った。それも約1年前に一度公表された資料だ。
 
 医療経済研究機構がまとめた「特別養護老人ホームにおける入所申込みの実態に関する調査研究」。厚生労働省の2010年度老人保健健康増進事業の1つで、特養入所待機者の実態を知ることが目的だ。「どうせ、厚労省から丸投げされた委託調査だから、中身もたいしたことはないだろう」と高をくくっていた。
 
 ところが、「医療処置等が必要な申込者への対応」に関する調査結果に目をやると、ひっかかった。もし、「吸入、吸引」が必要な人から入所の申し込みがあった場合、施設側はどう対応するか―という質問に対し、「お断りすることがある」と「原則としてお断りしている」の合計が58.4%、「経鼻経腸栄養等」では56.4%に上っていたからだ。半数超が「NO!」だ。
 
 どう考えたらよいのか。仮に、私に、吸入・吸引を必要とするが、医療機関への入院には至らない独り身の親がいたとする。加齢とともに1人暮らしや家族介護が難しくなった場合、まず、頭に浮かぶのか、有料老人ホームか、特養、老人保健施設、介護療養型療養病床くらいだ。
 
 預貯金や年金受給などで老後の生活資金に余裕があれば、住環境や交通の至便が良く、周辺環境にも優れた有料老人ホームを探す。次いでケア付き高齢者住宅か。しかし、経済的に不安があれば、当然、特養に目が行く。それで「NO!」と言われたら、どうする。
 
 

■介護職の消えない不安

 
 この調査研究の“へそ”(報道で最も注目された点)は、医療処置等への対応ではなく、厚労省が発表した入所申込者総数42.1万人のうち、ただちに入所が必要にもかかわらず、入所できない人は1割程度の4万人だという点だ。あとの申込みには緊急性がなく、とりあえず申し込んだ人が一定割合いる―などと指摘している。
 
 では、経管栄養などが必要な申込者は、「NO!」と言われたら、どうするのだろうか。そもそも4万人の中に含まれているのか、いないのか。入院まで至らないものの、医療処置が必要な要介護者の行き先はどこなのか。
 
 調査研究は、まとめの中で「経管栄養などの医療処置が必要な場合、施設の対応能力によって受け入れを制限せざるを得ない」「胃ろうなどの対応を含め、地域の中で医療機関・介護施設間での認識の共有、連携が必要」と結んでいる。
 
 よけいなお世話だろうが、「情報の共有」「連携の強化」は無能すぎる役人の常套句。調査機関がそんな役人言葉を真似ることはない。それより、医療処置が必要な申込者の行方を徹底的に調べてほしい。
 
 いま、特養では、介護職員が“医師の指導の下”で、看護師らから簡単な医療行為を学ぶ研修が行われており、実践配置され始めた。厚労省は介護報酬を加算して鼓舞しているが、研修後も介護職員の不安はなかなか消えない。特養の常勤医、必須だ。
 
 
 
 
--- 楢原多計志(共同通信社 客員論説委員)

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