コラム

    • 漢字・平仮名・片仮名

    • 2012年08月21日2012:08:21:00:00:05
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 

■人類の誕生

 
 人類は700万年前に誕生、500万~600万年をアフリカ大陸で過ごす。約400万年前に直立姿勢を取り始め、約250万年前、体型の大型化と脳容量の拡大が始まっている。50万年前の頭蓋骨は、現生人類のそれによく似ている、とされる。50万年前の人類は、火と石器を使用していたとわかっている。
 
 人類の歴史は約5万年前に大きく変化し始める。形状のそろった石器、ダチョウの卵の殻でできたビーズ状の装身具などが出土している。その頃の人類が生物学的にも行動学的にも現代人と変わらぬ人たちであったことは疑いなさそうである。
 
 10万年前から5万年前にかけて、われわれの祖先に画期的な変化が起きている。何がその引き金となったかであるが、人類の脳に容量の拡大を伴わない機能的変化が起こったこと、人類の喉頭が発語可能な構造になったことにより、現代的な言語の使用を可能にしたことだと唱える学者がいる。
 
 

■文字の誕生

 
 『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイヤモンド、草思社)によると、歴史上、独自に発明された文字システムとして認められている例は、メソポタミア地方のシュメール人が紀元前3000年頃作り出したものや、紀元前600年頃にメキシコ先住民が作り出したものである、とのこと。また、紀元前3000年頃エジプト人が作り出したものや、紀元前1300年頃に中国人が作り出したものも独自に考案された文字システムと推測されている、という。
 
 コミュニケーションの目的で人間が発する一連の音素を文字で表そうとした人は、言語学的法則を自分で見つけ出さねばならなかった。表記対象が音素であれ、音節であれ、単語であれ、その発話を記述可能な単位要素の並びにまで分解できなければならない、そのうえで、単位要素として取り出した音を記号で表す方法を考案しなければならなかった。実際の発音と視覚的記号を対応させ、それをシステム化しなければならない。
 
 シュメール人は、数千年をかけて文字システムを完成させている、という。そもそも、文字が使用されるようになるには、その社会にとって文字が有用でなければならない。また、文字の読み書きを専門とする人々を食べさせていけるだけの社会でなければならない。
 
 登場したての頃の文字は、複数の用法があったり、構造が複雑であったりして人間の発話を記述するシステムとしては不完全であった。また、使う者の層が王宮や寺院に仕えていた書記だけであり、使い道も限定されていた。すなわち、書記がつけていた帳簿であり、納入された物品、支払いを受けた労働者の氏名、配布農作物などについての事務的な記録である。
 
 文字の読み書きを専門としない、いわゆる一般の人々が文字を使い始めたのは、後世になって、文字が単純化されるとともに表現力が豊かになってからのことである。
 
 

■日本社会における文字

 
 日本列島の社会には中国大陸、朝鮮半島から漢字が入ってきた。律令国家という新しい国家ができ、この国家はすべての行政を文書で行うことにした。中国から文明を引き入れその媒介として漢字を使用した。そして、漢字を万葉仮名として用いるという形で、日本の文字はだんだんにできてくるわけである。
 
 われわれは、普通、漢字と平仮名と片仮名という3種類の文字を日常的に使っており、3種類の文字の組み合わせで7種類の文字表現をしている。(7種類の文字表現を持っている民族は世界でも珍しいはず)
 
 律令国家以後、王朝国家、鎌倉幕府、室町幕府も一貫して文書主義を踏襲し、江戸幕府は徹底した文書主義をとっている。そして、公的な世界では漢字を主として使っている。
 
 片仮名の用途は、口頭で語られることばを表現する場合に使われていた、とのこと。(『日本の歴史をよみなおす』網野善彦、ちくま学芸文庫)口頭で語られることばが文書にされる場合は、しばしば神仏とのかかわりを持つ場合が多い(起請文、願文、告文など)。また、寺院で経典を読み下すときの訓点として使われ始めたとも。
 
 平仮名は、「女文字」といわれ、まずは女性の世界で用いられはじめ、それを男性が取り込むような形で普及していった、とされる。
 
 現在残っている文書の世界では、平仮名、片仮名まじりの文書が出てくるのは、10世紀くらいから。13世紀後半になると、文書全体の20%くらいが仮名まじり、室町時代―15世紀になると、50%から70%くらいまで仮名まじり、しかも平仮名まじりが圧倒的多数となる、という。文字の普及はもっぱら平仮名の普及という形で進行していった様子。
 
 明治になると、とたんに片仮名がふえはじめる。法律と軍隊用語はもっぱら片仮名が用いられ、初等教育にも片仮名が最初に教えられた。しかし、一般庶民の日常世界では平仮名が支配的。
 
 

■文字世界の変動

 
 最近の文字の世界では大きな変動が始まっているように思える。裁判における文書主義のなかでCDやテープが証拠として一部採用され始めていることが象徴的。思いや思想などを伝える手段としての道具が多様化し、文字世界に自ずと影響している。経済のグローバル化のもと、使われる共通用語が英語とあって、ビジネスの世界では英語が意思伝達手段となりつつもある。
 
 
 
--- 岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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