コラム

    • 原発の「タダメシ3兄弟」を許すな ―◎○●―

    • 2013年02月12日2013:02:12:11:41:14
      • 杉林痒
        • ジャーナリスト

原発が止まって久しくなるため、いろいろな矛盾が表面化している。その中でも電気料金の値上げで消費者感情を逆撫でするのが、発電していないのに電気料金が支払われることだろう。今回は、原発の「タダメシ3兄弟」について考えたい。

 
 
◎長男は、日本原電 日本原子力発電は2012年9期中間決算で762億円の売上高をあげた。当期利益は209億円で半期としては過去最高だった。日本原電は1957年に9電力と重電会社などが設立した原発専業の電力会社。日本初の商業炉として1966年に稼働した茨城県の東海原発1号機は、すでに廃炉になった。いまは、3基の原発を持つが、2011年5月に福井県の敦賀原発2号機が止まり、全て止まったままになっている。
 
敦賀原発1号機は2011年1月に定期点検で止まり、茨城県の東海原発2号機は同年3月の東日本大震災で被災して止まった。敦賀1号機は1970年に稼働した老朽原発。同2号機は、原子力規制委員会が「直下に活断層がある可能性が高い」と指摘して、再稼働はかなり困難だ。
 
それでも、この中間期の売上高は前年同期の9割を確保した。このままいけば、通期で1000億円を越えることは確実だ。なぜ、こんな巨額の売上をあげられるのか。日本原電の有価証券報告書によれば、これは基本料金なのだという。要するに、日本原電は何も売らずに普段の売上高の9割が受け取れるような「基本料金」が設定されているということだ。
 
この基本料金を払い続けているのは、東京電力、関西電力、中部電力、北陸電力、東北電力の5社。東京電力は今期も1200億円の当期損失を見込んでおり、3期連続赤字になる。それも、国の原子力損害賠償支援機構の支援を受けながらだ。そして、すでに賠償額は5兆円では足りないと表明している。国民が税金や電気料金の値上げで支えている会社が、対価のない支出を続けることには大きな疑問がある。
 
 
○次男は、北陸電力 北陸電力は、石川県の志賀原発の電力の半分以上を関西電力と中部電力に売っているが、2011年3月から止まったままだ。関電が今回の値上げ申請で明らかにした計画では、電力の供給を受けないのに、北陸電力と日本原電から合計466億円(年間)を「基本料金」として支払う。その金額は、原発事故前の8割にもなる。
 
事故前の実績などから計算すると、北陸電力は関西電力と中部電力から計450億円程度を受け取る一方で、日本原電に200億円余りを支払う。電力のやりとりはないのに、「契約」にもとづいて金のやりとりだけが行われるのだ。関西、中部に余った原発の電力を売っている北陸電力が、日本原電から買っていること自体に疑問がある。まさに電力会社同士のしがらみが、関西、中部の利用者につけとして回っている構図だ。
 
 
●三男は、日本原燃 使用済み核燃料を処理するといいながら、いつまでたっても工場が完成しない日本原燃に、原発を持つ9電力は年間計3000億円近くを払い続けている。
 
その結果、処理できない使用済み核燃料が日本中の原発のプールにたまり続けている。青森県にある再処理工場のプールに運ばれている使用済み燃料はわずか3000トン弱。1.4トンの使用済み核燃料が日本中に点在しているのだ。福島第一原発4号機の使用済み燃料プールが、事故で危機的な状況に陥り、一時は首都圏にも放射能が飛び散る「最悪のシナリオ」が想定されていたことを思い出してほしい。
 
日本原燃六ケ所再処理工場は、97年の完成予定がいつまでたっても竣工していない。ところが、2006年に「アクティブ試験」を始めたことを理由に料金をとり続けている。
 
 
問題はこの「3兄弟」だけではない。東電の福島第一原発は、事故になった1~4号機が廃炉になっただけで、5、6号機は使えることになっている。その維持費は、通常の止まっている原発の費用ではすまないはずだ。現場周辺はいまだに放射能が濃く、近寄るだけでも大変だ。福島県は、第一原発だけでなく、第二原発も廃炉にすることを求めている。
 
3兄弟が不自然に見えるのは、それぞれの電力会社の外(北陸電力の原発は関電から見ると外部)にあって、発電していないのに資金を供給していることが明白だからにすぎない。東電の中の原発も実態は変わらない。電力会社は火力発電所の燃料費が増えたことを値上げの理由にするが、それは論点をずらした説明でしかない。火力は少なくとも発電をしているから費用がかかっているのだ。
 
値上げを求める電力会社には、正直な説明から始めてもらいたい。
 
 
 
---
杉林痒(ジャーナリスト)

コラムニスト一覧
月別アーカイブ