コラム

    • 要介護高齢者に対する退院支援の現状と課題 -その2(全3回)-

    • 2013年06月11日2013:06:11:09:05:00
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに

 
 入院医療費の適正化、医療提供体制の効率化の観点から、平均在院日数の短縮化が推進されている。こうしたなか、円滑な退院を支援する「退院支援」の機能強化が求められている。
 
 前回は「入院を取り巻く状況と制度改正の動向」について解説した。今回は、医療機関の退院支援体制や介護支援専門員との連携上の課題の整理を行う。
 
 

■一般病床における退院支援部門の設置状況

 
 医療経済研究機構が、100床以上の一般病床を対象に行った2007年調査によると、回答した453病院のうち、退院支援部門を設置している病院の割合は69.3%、また、配置されたスタッフ(複数回答)は「MSW」87.9%、「看護師」64.6%、「事務員」57.0%、「医師」39.5%となっている。
 
 この結果から、①一般病床における退院支援は、看護師とMSWが中心となっていること、②リハビリテーション(リハ)職は退院支援部署にはほとんど配置されていないことがわかる。
 
 

■退院支援プロセスの現状

 
 兵庫県の介護支援専門員を対象に行った自宅退院事例調査をもとに、退院支援プロセスの現状を整理する。
 
1)退院前訪問指導の実施状況
 
 退院前訪問指導の実施率を入院病床の種類別にみると、「一般病床」16.0%、「回復期リハ病床」48.8%、「療養病床」35.6%であった。ここで、退院前訪問指導に参加した病院スタッフの職種をみると、一般病床では「看護師」65.9%、「MSW」51.2%、「理学療法士(PT)」46.3%の順、回復期リハ病床では「PT」89.3%、「作業療法士(OT)」61.9%、「MSW」47.6%、「看護師」35.7%の順、療養病床では「PT」76.0%、「看護師」56.0%、「MSW」28.0%の順であった。一般病床の場合は看護師が、回復期リハ病床や療養病床ではリハ職が中心に訪問指導を行っているのがわかる。
 
 さて、前号で紹介したように、自宅退院要介護高齢者の約7割が、一般病床からの直接退院である。したがって、「一般病床からの自宅退院」に対する支援を強化することが政策上重要となるが、同病床からの自宅退院要介護者の16%にしか退院前訪問指導が実施されていなかった(このことは、自宅の療養環境や自宅環境下でのADLの状況などを、病院スタッフは直接的には把握出来ていないことを意味する)。これは、①一般病床の場合、平均在院日数も短く、スタッフも多忙なため、自宅訪問にスタッフを割くことができない(マンパワー上の問題)、②自宅訪問を複数スタッフで行うよりも、院内で看護やリハを提供する方が報酬上のメリットが大きい(経営上の問題)などが原因と考えられる。
 
2)退院前合同ケアカンファレンス(退院前CC)の実施状況
 
 介護支援専門員が参加した退院前CCの開催率を病床種類別にみると、「一般病床」54.9%、「回復期リハ病床」73.8%、「療養病床」78.1%であった。
 
 ここで、退院前CCへの病院スタッフの参加率を病床種類別にみると、一般病床では「看護師」88.3%、「MSW」63.7%、「医師」32.0%の順、回復期リハ病床では「MSW」79.5%、「看護師」77.2%、「PT」76.4%の順、療養病床では「看護師」87.7%、「MSW」64.9%、「PT」49.1%の順であった。一般病床では、他の病床に比べ、病院リハ職の参加率が低い。
 
 次に、在宅ケア関係者の参加率をみると、一般病床では「訪問看護師」28.8%、「介護職」24.6%、回復期リハ病床では「訪問看護師」17.3%、「介護職」16.5%、療養病床では「介護職」33.3%、「訪問看護師」19.3%、「PT」14.0%の順であった。ちなみに、かかりつけ医の参加率は1~2%程度、PTの参加率は、一般病床、回復期リハ病床では5%強と非常に低位であった(図1)。
3)退院前CCでのリハ継続の必要性に関する指導の実施状況
 
 退院後のリハ継続の必要性に対する、リハ職による介護支援専門員への指導・助言の実施率を病床種類別にみると、「一般病床」33.2%、「回復期リハ病床」79.2%、「療養病床」51.4%と、一般病床では他の病床に比べて、リハ継続に対する指導実施率が低かった。
 
 

■まとめ~要介護高齢者に対する退院支援の現状~

 
既存調査結果をもとに、退院支援体制及びプロセスの現状のポイントを以下にまとめる。
 
・一般病床の約7割に退院支援部門が設置されていた。
・退院支援部門は、看護師やMSW、医師を中心に運営されているが、リハ職はほとんど配置されていなかった。
・一般病床退院患者に対する退院前訪問指導の実施率は1割強であった。
・一般病床退院患者の約4割に退院前CCが実施されていなかった。
・一般病床の退院前CCは病院の看護師、MSWを中心に運営されていたが、病院リハ職の参加率は3割程度と低かった(病院リハ職への、会議参加要請が少ない可能性あり)。
・全ての病床において、退院前CCへのかかりつけ医やリハ職の参加率が非常に低位であった。
・一般病床では他の病床に比べて、退院後のリハ継続に対する介護支援専門員への指導実施率が低かった。
 
 

■退院事例調査から見えてきた課題と対策~一般病床からの自宅退院に対する支援の強化~

 
 急性期病床の場合、平均在院日数も短く、スタッフも多忙なため、退院支援に十分な時間やスタッフを割く余裕がないと思われる。平均在院日数の短縮化がさらに進めば、これら傾向が強まるだけでなく、入院中の看護やリハの提供、退院患者指導などが完結しないままの退院が増加する可能性は高い。そのため、退院前後における看護やリハの継続性を如何に図るかが、今後の重要テーマとなる。これを実現するためには、①病院の看護と訪問看護師、病院のリハ職と在宅サービスに従事するリハ職の連携強化(申し送り機能の強化)、②入院早期での介護支援専門員から病院への入院時情報提供の促進(生活情報の提供)、③介護支援専門員から病院への退院後の状況に関する情報のフィードバック(病院の退院支援の質向上への貢献)などを進め、退院支援の質を高めつつ、一般病床が安心して退院させられる環境を、在宅ケア関係者主導で構築していく必要があると考える。
 
 次回は、退院患者に対するケアマネジメントの課題の整理と、退院支援プロセスにおける課題のまとめを行う。
 
 
【参考文献】
1.川越雅弘,備酒伸彦,森山美知子:要介護高齢者に対する退院支援プロセスへのリハビリテーション職種の関与状況―急性期病床,回復期リハビリテーション病床,療養病床間の比較-,理学療法科学,26(3),pp.387-392,2011.
2.医療経済研究機構(2007).退院準備から在宅ケアを結ぶ支援(リエゾンシステム)のあり方に関する研究報告書.平成18年度老人保健健康増進等事業による研究報告書.
 
 
 
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川越雅弘(国立社会保障人口問題研究所)

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