コラム

    • 財政安定さえすればそれでいいのか ―国保保険者論

    • 2013年07月02日2013:07:02:09:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

■福岡県行橋市の例

 
この自治体の人口は7万2千人、高齢者人口1万7千人、要介護認定率16.5%(全国平均18.1%)(平成25年1月末現在)。
 
市内6つの中学校区毎に地域包括支援センターを置き、各センターに社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーの3職種を配置。「日常生活圏域ニーズ調査」を毎年、3,000人程度抽出して実施。この調査でハイリスクとされた者向けに介護予防事業を、また、市内85ヵ所の「いきいきサロン」において楽らくトレーニング教室などを開催し地域住民を対象に自主的な介護予防活動を実施。
 
こうした仕組み作りを行った結果「なるべく介護保険をつかわないように」という意識が住民に芽生えつつあるという。
 
介護保険料基準月額は、4,000円。福岡県平均5,165円、全国平均4,972円。
 
これは、介護保険の事例だが、国保においても同様に健康作りの地域設定を行いレセプトデータ等を活用することでもっと容易に疾病予防や健康管理などを行うことができるし、介護保険と連動して実施することも可能である。
 
 

■国保の保険者は都道府県に、という流れ?

 
公的医療保険制度の財政基盤の安定化で一番問題になるのが、国保。国保財政救済のために、これまで退職者医療、老人保健、また、後期高齢者医療制度と逐次、制度作りが行われ、高額の医療費については県単位で共同事業の形で財政調整が行われている(近時、財政調整の範囲をすべての医療費に拡大しようという動きになりつつある)。
 
一方、地域住民の受療活動は、大体、県内で行われているため、受益と負担の相応性の観点からも県単位で共同体か保険者になる、というのは、それなりの合理性があるという主張もなされている。
 
このような動向からすると、国保の保険者は都道府県に、という方向性が見えるわけで、財政安定が最優先され、被保険者へのサービスの密度が一層稀薄になりそうである。
 
 

■保険者が果たすべき機能として、どんなことが議論されているか?

 
厚生労働省は、4月30日付で、医療保険者等に対し、「保険者機能のあり方と評価に関する調査研究報告書」を送付した。これは、平成24年度の国の委託事業として研究班がまとめたもの。この報告書では、保険者の役割を①被保険者の適用、②保険料の設定・徴収、③保険給付、④審査・支払、⑤保健事業等を通じた被保険者の健康管理、⑥医療の質や効率性を向上させるための医療提供側への働きかけ、の6項目に整理している。
 
また、有識者による提言・主張からみた保険者の役割が述べられており、各論者によって重点の置き方や整理の仕方が異なると指摘しつつも「保険者を加入者の利益を最大化するエージェント(代理人)として捉え、被保険者の適用、保険給付の実施、保険料の適正な設定・徴収、審査支払といった保険者の基本的な役割・機能に加え、広く加入者の健康に責任を持つ主体として、保険者がその役割・機能を適切に発揮することが重要であるとする点は共通している」としている。
 
しかし、保険者の広域化のなかで加入者の健康への責任を保険者はどう行うのかは、論じられなかったようだ。
 
 

■国保の保険者は市町村が原則だが、わが国の市町村はどのように形づくられてきたのだろうか?

 
江戸時代の村は、そこに住む人が共同して生きていくための場、「村落共同体」と呼べるものであった。それは、一つの法人的な性格を持ち、土地、建物をも所有し、また、年貢も個人でなく村単位で納められていた。
 
1888(明治21)年、市制町村制という新しい地方制度ができ、いくつかの村が合併し大きな村になり、さらに町や市へと拡大。ちなみに滋賀県の例でいうと(たまたま手元に資料があるので)、明治20年代に小学校区を編成するために四、五村単位毎に合併、昭和30年前後に中学校区を編成することを主な目的として合併が行われ、財政基盤の拡大などのために平成の合併が進められた。
 
国保の保険者を市町村にしたのは、国・県・市町村と行政組織を並べると、住民にとって一番身近な基礎的行政組織は市町村だから、というのがその理由である。保険者としての役割・機能を考え、それを最も適切に発揮できる組織の在り方に関する議論は、ほとんど無かったように思われる。
 
昭和36年、国民皆保険の達成という政策目標が先にあり、被用者保険のほかに一般住民のための地域保険を作らねばならず、その受け皿として基礎的自治体である市町村が保険者に選ばれたということのようだ。
 
 

■健康作りのための「まちづくり」の発想を持とう!

 
医療の進歩とともに高齢社会を迎え、疾病の多くは生活習慣病が占めるようになり、医療提供側と協働して患者・住民は自分の健康作りに参加し、納得し、自ら作る発想が不可欠になってきている。
 
健康作りを実践し易い「まちづくり」を市民が参加し、協働し、主導しながら行い、保険制度はこれをバックアップするという仕組みに変えていく必要がある。
 
冒頭に挙げた行橋市の例のように、中学校区毎に拠点の施設を置き有資格者を配置し、必要な情報と手段などを提供し、市民と協働して健康作りを行う方向性は、一つの回答になるのではないか。
 
受益と負担の相応性の観点からは、保険料の内訳を所得割、均等割、地域割とし、中学校区毎に地域割を定めることが一つの手段になるのではないか(保険料総額を所得割・均等割・地域割と3等分し、当該中学校区の一人当たり医療費を当該保険者の全体平均のそれと比べその高低に応じ地域割料率のレベルを決める。)。
 
もちろん、保険者は、当該地域住民で構成する議論の場に情報を公開し、その中学校区の地域保険料率の積算内訳を示し、どうすれば低く抑えることができるようになるのかなどを議論し、納得を得て、その料率を設定する。こうして「小さな自治」を実践する。
 
つまり、財政安定のためには広域化しつつも、被保険者の疾病予防や健康増進などのサービスのために中学校区毎の管理区域(小さな自治区)を設定し、必要な専門職を配置し、健診情報とレセプト情報をベースに個々人の健康作りを行える体制を整え、制度の“見える化”のためにその区域における地域割保険料を設定・徴収するのである。
 
 
※このコラムは杉林痒氏の「国民健康保険と限界集落の悩み」(5月28日掲載)に対する回答です。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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