コラム

    • 従業員の不法行為について雇用主が負う責任の限界事例について

    • 2014年03月18日2014:03:18:08:00:00
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

1.東京地裁平成25年9月25日判決

 
今回は、社内での不法行為について、会社に対して損害賠償義務を認めなかった裁判例を報告したい。
 
社内での不法行為については、会社が使用者責任等の損害賠償義務を追及されるケースが多いが、本件はそれが否定されたケースであり、事例研究として有効であると思われる。
 
 

2.事案

 
本件は、A社に勤務していたB(女性)が、同じくA社に勤務していたCに職場に設置されたロッカー室での着替えを盗撮されたとして、使用者責任(民法715条1項)あるいは盗撮行為を防止すべき雇用契約上の義務違反(民法415条)に基づき、A社を被告として損害賠償を求めて提訴した事案である。
 
 

3.争点1「事業の執行について」

 
民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と定めている。
 
裁判において争点となるのは、この条文のうち、「事業の執行について」という文言である。
 
本件においても、盗撮行為が「事業の執行につき」なされたものと言えるかが争点となった。
 
判例上、「事業の執行につき」とは、「被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含する」と判断されており、この見解は「外形標準説」と言われている。
 
判例がこの基準を採用している理由は、加害行為が被用者の本来の職務と相当の関連性を有すること、被用者が権限外の加害行為を行うことが客観的に容易な状態に置かれていることが挙げられている。
 
もっとも、このような理由に基づく外形標準説が妥当するのは不法行為が取引行為である場合であり、本件のように、不法行為が事実行為である場合は妥当しない。
 
そこで、判例は、「会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」であるか否かという基準を採用した。
 
本件において、裁判所は上記外形標準説と密接関連行為か否かという両方の基準に配慮した判断をした。
 
すなわち、前者については、本件行為は業務用のビデオカメラを使用しているものの、Bに気づかれないよう隠匿したカメラで隠し撮りを行うという態様で、Cの職務上の権限を利用したものとはいえないから、A社の事業の範囲ではなく、Cの職務の範囲でもなく、その外形を備える行為でもないので、「事業の執行につき」行われたと認めることはできない、と判断した。
 
後者については、秘密漏洩の可能性があるとしてA社において盗撮現場となったロッカー室内を秘密録音していた経緯があることから、BがCの盗撮行為を職務密接関連行為であると主張したが、これも秘密録音から盗撮行為への発展性が認められないこと、両者に時間的間隔があるために職務密接関連行為であることも否定された。
 
 

4.争点2「盗撮防止義務違反の存否」

 
A社に対しては、不法行為責任の他に、雇用契約上の義務違反も追及された。それは、A社に盗撮を防止するための措置を講じる義務があり、その義務に違反したと言えるか、という形であった。
 
この争点に関して裁判所は、「Cにおいては、Bにはもちろん他のA社社員にも知られぬよう(盗撮を)行うものであり、A社においてかかる盗撮行為を予測して、その防止のため女子更衣室を設けたり、ビデオカメラの保管を厳重に行ったりする義務があるとはいえず、本件盗撮行為が発生したことについてA社に防止義務があるとは認められない。」「A社の備品を業務以外に使用しないことは、A社の従業員として当然の責務であるから、A社がCに改めてこれを注意指導する必要があるとはいえず、注意指導をしなかったことと本件盗撮行為との間に相当因果関係があるとはいえない」と判断し、盗撮防止義務はA社とBの雇用契約上認められないと判断した。
 
 

5.おわりに

 
本件は、従業員の社内における不法行為に対して、使用者である会社がどのような場合に責任を負うかについて考察する機会を与える好事例として紹介させていただいた。
 
 
 
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尾畑亜紀子(弁護士)

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