コラム

    • なぜ増える厚生年金基金の天下り

    • 2014年05月27日2014:05:27:08:05:00
      • 杉林痒
        • ジャーナリスト

厚生年金基金という企業年金がある。従業員と企業から掛け金を集めて株式などで運用し、老後に年金が支払われる。低金利が続いているため、ご多分にもれず、苦しい運営を続けている。
 
企業年金は私企業が運営するものなので、個々の企業の問題だ。しかし、厚年基金が問題なのは、国の積立金も預かって運用する「代行」をしていて、運用の失敗で国の積立金(代行資産)まで維持できなくなっている(代行割れ)基金が多数あることだ。
 
厚年基金は今年4月で534あるが、そのうち、124基金で代行割れが起きている。いま残っている基金は経営体力の弱い中小企業が業界ごとに集まったものがほとんどだ。代行割れは、運用難に加えて、基金に加入している企業の産業が衰退しているため、深刻化している。
 
株などの運用は、いい時もあれば悪い時もあるので、長期間で考えて経済成長があれば成果が出るだろう。しかし、年金を支える従業員が減っているのに受給者が増えると、運用の悪化に対応できなくなる可能性が高い。なぜならば、積立金が減っている時にも年金の支給は必要だからだ。そのため、積立金が運用で減った以上に少なくなり、次に運用が良くなった時にも、その恩恵を十分に得ることができなくなる。
 
加入企業が成長産業ならまだよいが、衰退していると、年金のために穴埋めの資金を出すことが難しい。それどころか、企業が倒産してしまうこともある。会社が倒産しても、その会社で働いていた年金受給者がいなくなるわけではない。穴埋め負担は残った企業にしわ寄せされ、ただでさえ苦しい企業の経営をさらに圧迫する。
 
ここに厚年基金があると、加入企業は国民の財産である代行資産の穴埋めが義務づけられている。普通の企業年金だけなら、穴埋めを後回しにしたり、よほど苦しければやめたりすることもできる。しかし、代行割れ資産の穴埋めからは逃げることができない。衰退産業の会社に厚年基金があると、衰退に追い打ちをかけることになる。
 
こうして追い詰められた基金の中には起死回生を狙って「バクチ」を打つ基金も出てくる。それが3年前に発覚したAIJ投資顧問の事件であり、昨年秋に資産が「ゼロ」になったプラザアセットマネジメントの問題だ。
 
プラザアセットは、ライフセトルメントという生命保険を利用した金融商品を厚生年金基金などに販売して、計約300億円の損失を出した。これは、生命保険をかけている人から契約を買い取り、本人に代わって保険料を払っていく商品だ。契約者が亡くなると、その生命保険が受け取れる。亡くならないうちに保険料が払えなくなると保険金を受け取る権利も失ってしまう。へたをすると保険金殺人も起きかねないのだが、米国ではこれが金融商品になっている。日本では認められていないこの金融商品に、日本の年金基金からお金を集めて投資するファンドがプラザアセットの商品だった。それが、昨年秋、突然に「ゼロ」になったのだが、その原因ははっきりしていない。
 
こうした怪しい投資に基金が走る背景には、厚生労働省からの天下りがある。
 
厚生労働省によると、基金への天下りは、役員では2009年に466人いたが、2013年には390人に減った。ところが、職員は2009年の180人から2012年には316人に増えた。2013年の職員数はまだでていないというが、役員が目立つためか、職員が増える傾向にあるようだ。基金数は減ったのに、天下りの合計人数は増えている。中には、役員をやめて顧問になり、給料をもらい続けている天下りもいるから、一般職員の天下りが増えているとは言い切れない。
 
基金の運用はこうした天下りが責任者になっていることがある。AIJもプラザも、こうした天下り同士のネットワークで販売された例が多数あるという。なかには、天下りの常務理事がAIJとプラザの両方を投資先に選んだ基金があるから目が当てられない。そもそも、運用について体系的に学ぶこともなく、天下り同士の個人的つながりで投資先を決めることが信じられない。
 
AIJの問題が表面化した時に、天下りの問題はクローズアップされた。実際に、その後、天下りの受け入れをやめて信託銀行出身者などを運用担当者にしている基金もある。その一方で、全体としては人数が増えているのはなぜなのだろうか。
 
今後、厚生年金基金は原則として廃止される。すでに、76基金が代行割れのまま解散することを決めている。加入企業は、少なくとも代行資産の不足分の穴埋めをしなければならない。それで、ようやく従業員の厚生年金が支払われる。会社にしてみれば、従業員の老後のために少しでも年金を増やしたいと考えて始めた厚年基金だったが、追加の負担をしても、当たり前の厚生年金が出るだけだ。
 
かつて、厚年基金は大企業も作っていて、いまの3倍以上の基金があった。しかし、大企業は、2002年に厚年基金の代行返上が認められると先を争うように返上をした。中小企業は10年以上遅れて、大きな傷を負うことになった。対応が遅れた責任は厚労省にある。ところが、厚労省は天下りをやめるどころか増やしている。厚労省には、一日も早く天下りを根絶する責任がある。
 
 
 
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杉林痒(ジャーナリスト)

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