コラム

    • WHO、エボラ出血熱を公衆衛生上の緊急事態と宣言

    • 2014年08月19日2014:08:19:09:45:14
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

2014年8月8日、WHOのマーガレット・チャン事務局長は西アフリカにおけるエボラ出血熱を、その拡大を抑えるために緊急支援を要する、国際的公衆衛生上の緊急事態であると宣言した。
 
チャン事務局長は、エボラの歴史上最大で最長の流行が続き拡大していて、流行地では医療資源が乏しく、国際社会に緊急援助を求めているとしている。
 
「今日まで流行している地域は、自国での流行の拡大を抑えるだけの力を持っていない。私は国際社会にできるだけ迅速なサポートをお願いしたい」
 
現在の流行地は西アフリカに集中している。最初は本年3月にギニアで始まり(一説では昨年12月)、それ以降シエラレオネ、およびリベリアに流行が拡大し、最近はナイジェリアでも感染者が発生しだしている。有効な確認された治療法やワクチンはない。致死率は約50%以上と高い。
 
ウイルスは1976年にスーダンの発病者から分離されたが、その自然宿主はコウモリと推定されているが断定までにはいたってない。猿やゴリラにも感染し、その致死率は高い。
 
その後コンゴ共和国やウガンダ、スーダンなどで発生しているが、今回の流行は最大規模となっている。
 
8月13日現在、WHOによる統計では感染疑いがある人と感染者は、ギニア、リベリア、シエラレオネ、およびナイジェリア−−の4カ国で1,975人、死者は1,069人とされる(本年3月の流行以後の数)
 
感染者はウイルスの21日間(最大)の潜伏期を経て発病する。そのことは症状はそれ以前に必ずしも現れないことを意味する。発病者の体液、肉、体表面に接触することで高熱、体内または体外への出血が起きる。嘔吐や下痢も生じるが、その中には大量のウイルスが混入している。呼吸器感染ではないから飛沫感染でうつることはなく、通常は接触感染である。
 
チャン事務局長は、必ずしも全ての国、または大多数の国で感染者は発生しないかも知れないが、この緊急事態宣言は、国際的団結の必要性を求めるものだ、と説明している。
 
WHOの緊急事態宣言発令は2009年の豚インフルエンザのパンデミック、および本年5月のポリオがある。
 
以下、今日まで得られてきている知見をまとめた。
 
◆拡大は続いており、今後ケニアへ感染が広がると、そこから航空機で世界へ感染者が出て行くことが懸念されている。
 
◆エボラは接触感染でうつるので、患者の早期発見と隔離を十分に行う限り拡大はしない。発病者からの唾液による飛沫感染の可能性はあり得る。
 
◆感染源は患者の血液と体液であるから、先進国では感染予防がしやすいことから大きな流行に至ることはあり得ない。米国CDCもWHOもアフリカでの流行から世界へ流行する可能性は"extraordinary small"と表現。
 
◆感染地域を旅行してきた場合、検疫で留められる。
 日本国内では発病者に無防備で触れることは通常あり得ないので、発病者がアフリカから入ってきても、そこから感染者が周辺に多数出る可能性はない。
 
◆潜伏期間は2~21日とされているが、エボラの場合、発病前には周囲への感染は起こらないと考えられていて、発病しても症状が軽い段階では感染する可能性は低いとされる。感染には体内のウイルス量が関係している。血液や汗、糞便などにウイルスが存在している。呼吸器からの飛沫感染がないことが、インフルエンザやMERSのように周辺に容易に感染を広げない理由と考えられる。そのため発病者の迅速隔離等の適切な対応で感染拡大が防止できる。
 
◆潜伏期間中に出国し、航空機内で発症し機内で感染を広げる可能性はあり得るが、空気感染、飛沫感染はないことから、他搭乗者と接触をしない限り、感染者は出ない。発病した搭乗者に対しては、キャビンクルーがその対応に十分気をつける必要はある。発病者を動かすのではなく、周辺の搭乗者を移動させて一定の空間を作ることが重要である。発病者に接触するキャビンクルーは、感染防御服、ゴーグル、グローブを用いて感染予想に努めるとともに、患者との接触は最低限とする。
 
◆治療薬は実験的段階のモノクローナル抗体ZMappと、日本の富山化学が開発したインフルエンザ治療薬アビガンが効果を持つ可能性が指摘され、米国で緊急に承認予定。ZMappは2人の米国人とスペインの神父に使用されたが、スペイン人神父は死亡した。75歳という高齢が影響していた可能性はある。現在他にリベリアで3人の発病者に投与されている。
 
◆8月12日にWHOの医療倫理委員会は、人での臨床試験を行っていない実験的エボラ治療薬の使用を認める決定をした。これにより数種類の動物実験段階の治療薬が使われ出す可能性がある。
 
◆カナダ政府は実験的段階にあるエボラワクチンの西アフリカへの提供を発表した。
 
◆中国政府は14日、エボラ迅速キットの製造が行われていることを発表し、必要ならアフリカへの提供を申し出ている。
 
◆エボラ出血熱の感染拡大の理由は、アフリカの限局した小国での発生ということで、先進国はこれまであまり関心を示してこなかった。非常に乏しい医療資源と住民の欠如した衛生観念、慣習に従った死者の埋葬方法などが、流行拡大阻止の難しさとなっている。特に医師やナースの不足、さらに感染対策専門家の不在などが現在の対策上の大きな問題となっている。
 
◆経済的支援だけでなく、公衆衛生上の支援がこれまでアフリカに対して十分なされてこなかったことが、現在のエボラ流行の本質と考えられる。
 
 
 
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外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

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