コラム

    • 認知症高齢者/認知症ケアの現状と課題 -その1(全2回)-

    • 2014年09月16日2014:09:16:09:37:30
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに

 
現在、地域包括ケアシステムの構築が、重要な政策課題となっている。
 
同システムは、①住宅、②医療(特に、在宅医療、退院支援)、③介護、④生活支援、⑤予防で構成されるため、保険者である市町村には、これら多領域にわたる課題を把握した上で、課題解決に向けた対策を検討するといった「地域マネジメント力」がこれから求められることになるが、特に、重要となる課題が、①認知症支援策の充実、②医療との連携、③高齢者の居住に係る施策との連携、④生活支援サービスの充実である。
 
本稿では、これら重要課題のうち、「認知症」に焦点をあて、認知症高齢者/認知症ケアの現状と課題について言及する。第1回目は、まず、認知症高齢者の現状(認知症の出現率(=人口に占める認知症の割合)、特性、所在地)を整理する。なお、本稿における「認知症」とは、厚生労働省の基準に準じて、認知症高齢者の日常生活自立度がランクⅡ以上とする。
 
 

■認知症高齢者の出現率(近畿地区A市の場合)

 
認知症支援策やサービス提供体制を検討するためには、認知症高齢者数の将来推計が必須となるが、これを行うためには、性別年齢階級別にみた認知症の出現率が必要となる。
 
厚生労働省は、2025年までの認知症高齢者数の推計値(470万人)は公開しているものの、そのベースとなった性別年齢階級別にみた出現率は開示されていない。そこで、小職が、介護保険事業計画策定に関わっているA市の人口及び認定データをもとに、試算を行った。その結果、A市の65歳以上人口に占める認知症高齢者の割合は10.2%で、これを性別にみると、「男性」6.9%、「女性」12.7%と女性の方が高いこと、女性の認知症出現率を年齢階級別にみると、「65-69歳」1.6%、「70-74歳」3.3%、「75-79歳」9.2%、「80-84歳」20.3%、「85-89歳」37.8%、「90-94歳」57.1%、「95歳以上」72.8%と、80歳から出現率が急上昇していることがわかった(図1)。
 
 

■認知症高齢者の特性 ―認知症高齢者と認知症高齢者以外との比較―

 
A市の平成25年9月の介護サービス受給者は4,395人で、うち認知症高齢者(以下、認知症群)は2,500人(56.9%)、認知症高齢者以外(以下、非認知症群)は1,895人(43.1%)であった。
 
ここで、女性の割合をみると、「認知症群」71.4%、「非認知症群」66.3%と、認知症群で女性の割合が有意に高かった。
次に、要介護度をみると、認知症群では「要介護3~5」が59.7%を占めるのに対し、非認知症群では「要支援1~要介護1」が62.3%を占めていた(表1)。
 
 

■認知症高齢者の所在地

 
次に、所在地をみると、認知症群では、「在宅」66.8%、「特養」18.2%、「老健」7.6%、「グループホーム(以下、GH)」4.4%に対し、非認知症群では在宅が9割以上を占めていた(表2)。
 
ここで、在宅療養率を要介護度別にみると、非認知症群では、要介護4でも8割を超えていたのに対し、認知症群では、要介護3から低下し、要介護4~5では5割を下回っていた(図2)。
 
 
 
 

■おわりに

 
A市のデータ分析から、
1) 65歳以上の認知症出現率は10.2%で、その割合は女性の方が高かった
2) 認知症の出現率は、男女とも80歳から急上昇していた
3) 認知症群は、要介護3以上が約6割を占めていた
4) 非認知症群では9割以上が在宅で生活しているのに対し、認知症群では26.2%が介護保険施設に、7.1%がGHや特定施設に入っていた
5) 非認知症群では、要介護4でも8割以上が在宅で生活しているのに対し、認知症群では、要介護4~5の在宅療養率は5割を下回っていた
などがわかった。
 
国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2010~2025年間で、75~84歳以上人口は39.1%、85歳以上人口は92.5%増加すると見込まれている。認知症の出現率は、年齢が高いほど高くなっているため、出現率の高い85歳以上人口が急増することにより、認知症者が今後急増すると考えられる。また、現時点でも、全認定者の半数以上が認知症という事実と突き合わせると、認知症施策の充実は急務の課題であることが分かる。
 
また、今回の分析から、認知症群は、要介護3以上が過半数を占め、かつ、要介護4以上では特養や老健がその受け皿となっていることがわかった。
 
今後、後期高齢者が急増するなか、介護保険施設の整備量はその伸びを下回ると予想される。増加する重度要介護の認知症高齢者をどの様なサービスで処遇していくのか、できるのかを検証しながら、介護保険事業計画が適切に策定される必要がある。
 
次回は、認知症ケアに関する課題について整理したい。
 
 
 
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川越雅弘(国立社会保障人口問題研究所)

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