コラム

    • 「医療」は〝自治体消滅〟を救うか?

    • 2014年09月23日2014:09:23:08:00:00
      • 河合雅司
        • 産経新聞 論説委員

 
安倍改造内閣が発足し、安倍晋三首相は「地方創生」を新たな政策の柱に掲げた。
 
このまま東京一極集中を許したのでは日本は“破滅”の道を進む。ところが、有識者による「日本創成会議」の分科会が公表した「2040年までに全国の自治体の半数が将来的な『消滅』の危機にさらされる」という推計のインパクトが余程強かったのか、自治体の中には「危機感」を通り越して「諦めムード」が漂っているところも少なくないという。
 
「いまさら」との印象もあるが、政府が地方の生き残りに目を向け、頑張る自治体の応援に乗り出すことにしたのは、大きな一歩だといえよう。
とはいえ、「地方創生」という言葉のイメージは、受け止める側によって大きな開きがあるようだ。
 
「地方の活性化には、公共事業費を増額することだ」といった景気刺激策として捉える人たちが相変わらず少なくない。町おこしイベントの企画構想も相次いでいる。「地方がうまく行かないのは、分権が遅れているからだ」との意見も強い。
 
こうした景気刺激も地方分権も重要な視点ではある。だが、もはや日本の人口減少は一過性の景気浮揚や地方分権だけで何とかなるレベルにはない。国家を一から作り直さなければならない段階に突入していることを忘れてはならない。
 
地方を「消滅」の危機から救うため、政府内ではさまざまな構想が練られているが、各省とも「コンパクトな街づくりが避けられない」との認識では一致している。全国に拠点となる都市を設け、周辺自治体からの人口を集約することで人口20万~30万人規模の都市圏を維持しようというのだ。すべての自治体や集落が生き残ることは難しい以上、上手に集約し、社会のサイズを縮小していくことが求められる。
 
だが、人口20万~30万人を維持しようと思えば、街としての「魅力」が必要となる。しかも若い世代が定住しなければ持続しない。最も重要なのは若者の職場の確保である。
 
アイデアは花盛りだ。民間シンクタンクなどからは、農業分野などでの起業、地元企業の海外展開、国際観光都市へのイメージ戦略、大学を中心としたアカデミックな街づくりのアイデアや、ユニークな子育て支援策についての提言がなされている。
 
ただ、若者の雇用確保策を考える一方で、激増する高齢者の暮らしも守らなければならないところに、人口減少問題の難しさがある。
 
そこで注目を集めるのが「医療」である。医療機関、とりわけ地域の中核をなす病院は多くの雇用を生むからだ。医師や看護師などはもちろん、医薬品や物品の納入業者、患者を送迎するタクシー業者、自動販売機業を含めた飲食業者など関係業種の裾野は広い。医療機関を中心とした街づくりをすれば、若者の雇用創出と高齢者問題を同時に解決できるとの発想だ。
 
国土交通省の「国土のグランドデザイン」によれば、三大都市圏を除く500人規模の町には、飲食店、郵便局とともに診療所が必ずと言ってよいほど存在する。どんな暮らしを選ぶにせよ、医療機関が不可欠ということだ。こうした状況に、政府内からは「医療機関がなければ都市生活は成り立たないのだから、発想を逆転させて、地域の拠点病院を中心にコンパクトな街づくりを考えるほうが現実的だ」との声が出ている。
 
これに呼応するように、厚労省も医療機関を中心とした街づくり構想を言い始めた。
 
厚労省は都道府県を中心として、地域の医療需要の将来予測や疾病構造の変化を踏まえた病床機能の再編を促すほか、レセプト(診療報酬明細書)データの分析によって都道府県ごとに医療費抑制目標値を設定する方針を打ち出している。
 
これまでの厚労省の医療制度改革の説明は、どちらかといえば、膨張する医療費の抑制を強調してきた。しかし、最近の厚労省幹部の説明には「医療介護を含めたまちづくり」、「新しいまちづくりを促進する仕組みの構築」といった言葉が目立つ。人口20~30万人レベルで地域において、救急病院など基幹病院を中心とした医療機関ネットワークの構築の必要性をうたう説明資料まで見られる。
 
政府内では「『地方創生』の看板を掛けなければ、来年度予算の獲得は難しい」との雰囲気が強まっている。「バスに乗り遅れるな」との側面もあるのだろう。だが、そこには厚労省の焦りも見え隠れする。
 
厚労省は病院完結型医療から地域完結型へと医療の在り方の大転換を打ち出し、住み慣れた地域で安心して暮らせるようにすると宣言したものの、高齢者の一人暮らしや高齢夫婦のみの世帯が多く、在宅医療や在宅介護に対する国民の不安や不満は依然強い。
 
「地域包括ケアシステム」の整備に力を入れようとしている矢先に、人口激減地域で民間病院の過当競争に伴う倒産が相次いだのでは、「在宅医療」構想は根底から見直しを迫られる。それ以前に、日常の診察にあたる病院が倒産してしまつたのでは、そのまま地域の崩壊に直結しかねない。
 
厚労省は、地域医療の在り方について「競争よりも協調」の必要性を掲げてもいる。公立病院を含め、すべての医療機関が自分たちの地域の医療をどうして行くのか理念を共有しなければ、人口減少時代を乗り越えられないとの説明だ。厚労省にしてみれば、「医療費抑制のため」というより「地方創生」という国策の後押しがあったほうが、病院機能再編について医師や地元住民の理解を得やすい。「医療」を中心とした街づくりは、まさに“願ったり叶ったり”というところだろう。
 
ただ、政府内の「医療」を中心とした街づくりに関する思惑は一枚岩とは言い難い。本格的な高齢社会を迎え医療提供体制が崩壊することを懸念する厚労省に対し、医療を「成長産業」と見て地域活性化の起爆剤ととらえる声は小さくない。
 
高齢者の暮らしを支えるには、医療だけでなく、病院へ通うためのコミュニティバスなど公共交通や高齢者住宅、商業施設といった様々なサービスも整えなければならないとの考え方だ。医療法人改革で「非営利ホールディングカンパニー型法人」の導入を図り、医療周辺ビジネスと出資関係を持ちやすくしようという思惑も政府内にはある。
 
地域の拠点となる病院の敷地内や隣接地に、高齢者住宅を整備したり、フィットネスクラブやカルチャーセンター、大型書店、ショッピングモールを建設したりして、巨大な高齢者タウンを造ろうというアイデアも浮上している。
 
このあたりになると、もはや地域の医療提供体制をどうしていくかという話とは論点が異なる。急激に人口移動が進めば、医療機関の地域バランスが崩れ、病院機能の再編をむしろ妨げることにもなりかねない。
 
若者を惹きつけ、人口規模を維持できなければ医療機関どころか、地域そのものが「消滅」してしまう。とはいえ、地域の医療提供体制を再編なくしては激増する高齢患者に対応はできない。
 
両者を同時に実現するのは難しい。何を守り抜き、何を諦めるのか。「医療」を中心とした街づくりに限らず、「地方創生」を成功させられるかどうかは、安倍政権の取捨選択の判断にかかっていると言えそうだ。
 
 
 
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河合雅司(ジャーナリスト)

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