コラム

    • 医療法の一部を改正する法律案

    • 2015年04月28日2015:04:28:08:00:04
      • 板持英俊
        • 税理士

概要

 
政府は平成27年4月3日に医療法の一部を改正する法律案等(以下「本法律案」とする)を閣議決定した。本法律案は、現在第189回国会に提出され審議中である。
 
本法律案では、地域医療連携推進法人の認定制度、医療法人の分割制度が明文化されたほか、一定規模以上の医療法人についてはその財務諸表について法定監査が規定された。本稿では、主な改正項目について速報として整理する。
 
 
 

1 地域医療連携推進法人制度

 
首相の諮問機関である産業競争力会議において、従前、「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」として議論されていたものが、「地域医療連携推進法人制度」と名称を変えて、本法律案に織込まれた。
 
(1)都道府県知事の認定
一般社団法人で以下の要件等を満たすものについては、都道府県知事から地域医療連携推進法人の認定を受けることができる。
 
【主な認定要件】
①医療連携推進業務を行うことを主たる目的とするものであること
②社員は原則各1個の議決権を有するものであること
③営利を目的とする団体又はその役員と利害関係を有する者等を社員並びに役員としないものであること
④地域の関係者を構成員とする評議会を設置し、医療連携推進方針等の重要事項の決定について社員総会及び理事会において意見を述べることができるものとされていること
⑤参加法人が予算、事業計画その他重要な事項の決定を行うにあたり予め地域医療連携推進法人に意見を求めなければならないとされていること
⑥医療連携推進業務を行うにあたり社員・理事・監事等に対し特別の利益を与えないものであること 等
 
(2)参加法人
参加法人は医療計画に定める構想区域において病院等を開設する医療法人等の非営利法人とする。また、医療連携推進方針において介護事業その他地域包括ケアシステムの構築に資する事業の連携を推進する旨を記載した場合は、当該事業等を行う法人を参加法人とすることができる。
 
(3)その他
地域医療連携推進法人は医療連携推進事業と関連する事業を行う事業主に対して出資を行うことができる。
 
 

2 医療法人制度の見直し

 
(1)医療法人の経営の透明性確保及びガバナンスの強化
医療法人は、毎会計年度終了後、事業報告書等に加えて、関係事業者との取引状況の報告書を提出しなければならない。なお、関係事業者とは理事長の配偶者がその代表であることその他の当該医療法人又はその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者をいう。
 
(2)社員名簿の備付け
社団たる医療法人は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
 
(3)医療法人の財務諸表に対する法定監査
医療法人のうち一定の基準(事業活動等を勘案して厚生労働省令で定める基準)を満たす医療法人は厚生労働省令に定めるところにより、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならない。
 
また、上記基準を満たす医療法人は、財務諸表について公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならない。
 
(4)医療法人の分割等
医療法人(社会医療法人等を除く)が都道府県知事の認可を受けて実施する分割について規定が整備された。
 
(5)社会医療法人の認定等に関する事項
①二以上の都道府県において病院等を開設している場合
二以上の都道府県において病院等を開設している場合において、医療の提供が一体的に行われているものとして厚生労働省令で定める基準に適合するものについては、当該病院等の所在地の都道府県で認定を行うことができるようになった。
 
②社会医療法人の認定取消について
社会医療法人の認定を取り消された医療法人であって、一定の要件に該当するものは救急医療等確保事業に係る業務の継続的な実施に関する計画を作成し都道府県知事の認定を受けた時は、収益業務を継続して行うことができる。
 
 

3 医療法人の理事長要件の緩和

 
国家戦略特別区域会議が国家戦略特別区域医療法人運営柔軟化事業を定めた区域計画について、内閣総理大臣に認定申請し、その認定を受けた時は当該認定の日以後は、都道府県知事は当該事業に係る医療法人から医師又は歯科医師以外の理事のうちから理事長を選出する認可申請があった場合においては、当該申請が医療法人の運営の柔軟性を高め適切な医療を提供するために必要なものとして、政令で定める基準に適合すると認めるときは当該認可をするものとする。
 
非医師理事長の医療法人は特区外ではどのような取扱いになるのだろうか。
 
 

4 おわりに

 
昨年、出資持分の定めのない医療法人への移行促進制度(認定医療法人制度及び納税猶予制度)が創設され、出資持分の定めのない医療法人への組織変更を検討する医療法人も少なくない。
 
今後も出資持分の定めのない医療法人への移行件数の増加が見込まれる。その要因としては、本法律案の中でも「地域医療連携推進法人制度」や「医療法人の分割」は出資持分の定めのない医療法人を前提とした制度設計となっており、移行を後押しすると考えられる。
 
本法律案は、政省令で補足される部分が多いため、政省令の公表を待たなければ制度の詳細は分からない。しかしながら、本法律案の中には医療機関経営への影響が大きい項目も含まれており、正確な内容把握と迅速な対応が必要となる。
 
 
 
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板持英俊(税理士)

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