コラム

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    • 2015年05月05日2015:05:05:22:39:08
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

生活保護には至らないが、日々の暮らしに困っている生活困窮者を支援する新制度が4月から全国で始まった。
 
公的年金や雇用保険などの社会保障システムの狭間に陥っている人が確実に増えており、新たな支援対策が避けられない。だが、生活保護給付費の削減が新制度の最終目的では本末転倒だ。
 
 

▽最低水準

 
厚生労働省によると、2015年1月時点の生活保護受給者数は約217万人。給付総額は約3兆8千億円(本年度予算ベース)に達している。一方、生活保護を受けていないが、生活再建など暮らし向きのことで福祉事務所に相談した人が11年度推計で約40万人。これに相談に訪れない年収200万円以下の低所得者らを加えると、生活困窮者は生活保護者数の数倍はいる――という指摘もある。
 
背景として、貧困層がますます拡大していることが挙げられている。昨年7月、厚労省がまとめた日本の相対的貧困率(可処分所得の中央価の半分に満たない世帯割合)は16.1%。ОECD(経済協力開発機構)加盟34か国の中で4番目に高い。子供の貧困はより深刻だ。ひとり親世帯の貧困率は最悪の水準にある。進学率を1つとっても貧困の連鎖が続いていることが分かる。
 
また独身女性の約3人に1人が貧困状態にある。男性と比べ所得の低い非正規社員として働いているケースが多く、給与額は男性の6割程度にとどまっている。また若者の間でも非正規社員として継続して働くケースが増えている。社会から孤立してしまうニートや引きこもり、DV被害者など支援が必要な人々が大勢いる。政府は「見えにくい貧困」とたびたび説明するが、「見たくない貧困」というのが真相だろう。
 
 

▽権利性

 
生活困窮者自立支援制度には2つの目的がある。1つは就労によって家計を安定させること。2つ目が社会から孤立しないよう地域で支えることだ。全国に約900カ所ある福祉事務所を核に地方自治体が窓口となり、自立支援の相談を開始した。
 
具体的には、住宅を失った人に家賃相当の住宅確保給付金を支給するほか、職業訓練などの就労準備支援、緊急に宿泊場所や衣食を支給する一時生活支援、生活アドバイスする家計相談支援、子供の進学相談などを行う学習支援、事業者とともに行う中間的就労支援などの事業に取り組むという。
 
新制度には課題も多い。まず、相談に対応できる職員を確保できるかどうかだ。厚労省は自治体に相談窓口を1つして対応する「ワン・ストップ」の対応を促すが、家計相談から、衣食住の確保、職業訓練の紹介、医療・介護・年金など社会保険、子どもの教育まで多種多様の相談に応じるには、相応の知識と経験のある職員の配置が必要だ。財源難の中で人材の養成は簡単ではない。
 
日本弁護士会が懸念しているのが、支援事業が生活保護の利用を拒む手段になる使われ兼ねないことだ。また「新制度には生活保護費のような不服申し立て制度がなく、国民の権利性が薄い」とも指摘する。
 
社会保険の狭間を埋めることによって、結果として、“最後のセーフティーネット”である生活保護受給者と給付費が減ることに異論は少ない。しかし、生活保護費給付費の削減が究極・絶対の目的であってはならない。
 
格差拡大と貧困が同時進行している。今の社会経済システムに問題があることは確か。特に生活困窮者の自立には企業の関わり(特に就労・雇用)が重要だ。最近、株価対策のつもりか、利益確保や生産性向上には執着するが、雇用拡大や労働者の待遇改善、地域貢献には冷ややかな経営者が少なくない。最低賃金の水準が主要先進国レベルに追いつかないのは、労働生産性が低いというだけではなく、経営者の社会的責務に対する意識の欠落や忌避も要因の一つだ。
 
新制度の成否は、企業に対し、雇用拡大など社会的な責務を自覚させ、実行させることができるか――にかかっている。
 
 
 
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楢原多計志(共同通信客員論説委員)

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