コラム

    • 意識改革

    • 2015年08月18日2015:08:18:08:08:14
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

7月上旬、介護関係団体が出版社に抗議した。
 
中高生向けの教科書に「介護職は重労働で低賃金」と記述されたが、根拠がない上、介護職の社会的評価を貶めている──と抗議し、修正を求めた。実態はどうなのか。
 
 

◆真摯に検討

 
抗議したのは、全国社会福祉法人経営者協議会(経営協)、全国老人福祉施設協議会、全国老人保健施設協会など6団体。抗議先は教育出版と実教出版の2社。
 
原因となった教育出版の『中学社会 公民』には、介護保険制度が抱える課題を取り上げられ、介護職員の人手不足について「介護の仕事が重労働で低賃金」との趣旨の記述がある。また実教出版の高校生向けの『最新 現代社会』には写真説明の中に「介護現場は重労働で賃金も高くない」とある。
 
経営協の役員(社会福祉法人理事長)は「何をもって重労働で低賃金と決めつけるのか、根拠が乏しく、マスコミ報道が作り上げたイメージに便乗して書かれてはたまらない」「子供たちにマイナスイメージを与え、介護への道を閉ざすことになりかねない」「介護職の働く意欲を削いでしまう」などと憤る。役員によると、抗議を受けた2社とも修正要求に「真摯に検討したい」と答えたという。
 
 

◆事実は事実

 
ところが、波紋が広がっている。読売新聞が介護団体の抗議についてアンケートしたところ、支持する意見か約24%だったのに対し、否定的な意見が約76%を占めたという(7月16日現在)。
 
事実関係が明らかになった直後のアンケートは、とかく否定的な意見が多くなる傾向がみられる──との専門家の指摘があるが、中間的な集計とはいえ、これほど大差が付いた背景には、やはり介護団体の行動に疑問を抱く声が強いことが明らかだろう。
 
横浜にある特養で働くベテラン介護福祉士は「悔しいが、事実は事実。修正の必要はないのでは・・・」と力なく答えた。
 
厚生労働省のデータをみると、勤続年数などを考慮しても、介護職の平均賃金水準が高いとは言い難い。本年度の介護報酬改定がマイナス基調であるにもかかわらず、「介護職員処遇改善加算」が引き上げられた大きいな理由は「介護人材の確保」と「賃金水準の引き上げ」だったことを忘れては困る。
 
 

◆杜撰な審査

 
もっとも、2社の記述には問題がある。「重労働」「低賃金」を裏付けるデータが示されていない。これでは「イメージで書いた」との抗議に反論できない。中高生向けの教科書であることを考慮すれば、信ぴょう性の高いデータが必要不可欠だ。介護問題を取り上げた意義も薄らいでしまう。文部科学省の検定は杜撰すぎる。
 
抗議した介護団体側にも問題がある。「重労働の改善」や「処遇の改善」をいつまでも行政任せや保険財源依存にしておくのか。特に公共性の高い社会福祉法人の責任者は人材確保と処遇改善について根本的な意識改革を迫られている。
 
社会福祉法人制度改革を柱とする社会福祉法等の一部改正案が、衆院厚生労働委員会で可決され、今国会の成立が確実視されている。同族組織からの脱却、経営や会計処理の透明性、地域貢献活動の義務など社福への注文が山積みになっている。求められているのは、介護職員の処遇改善だけではない。
 
 
 
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楢原多計志(共同通信 客員論説委員)

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