コラム

    • 交通不便

    • 2016年06月28日2016:06:28:09:44:44
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

仕事で東京に2週間ほど滞在したことがある。ホテルから仕事場まではバス移動のため、ホテル最寄りのバス停から職場までのバス時刻をメモしようとバス停にいくと、平日の朝は3分間隔の運行時刻が記載されていた。これならメモする必要もない。待ってもたかが知れているのである。
 
他方、私の知る限り北海道、とりわけ郡部ではバスの運行間隔30分程度は普通である。場合によれば、学生通学と高齢者の病院通院のための朝夕のみの運行というところもある。だから、当地ではバス発車時刻を知らずに停留所に行くなどは考えられない。
 
かつてはバスや電車が住民の主たる移動手段であったが、自動車の普及により、その利用者は激減した。この状況を免れているのは東京を中心とする首都圏や大阪などの大都市を有する地域に限られ、それ以外は、多かれ少なかれ北海道と似た状況であると思われる。
 
公共交通機関の利用者減の帰結は、コスト削減のための間引き運行であり、これにより不便さがいっそう増して、さらなる自動車への依存を高めたことは周知のことである。そして、北海道に関して言えば、事業者の経営努力にもかかわらずバス会社やJRは慢性的な赤字体質である。
 
自動車運転免許を持たない者、特に学生や高齢者にとっては重要な移動手段である「公共」交通機関は、その名の通り、公的責任において確保、維持しなければならない。そのため、国と北海道は、この間、道内25社、167路線に補助金を支出してきており、本年度はそれぞれ13億6千万円を交付する計画が内定していた。ところが、この補助金を減額する可能性があると国土交通省が北海道やバス会社に通知してきた。
 
この新聞報道に接し、地域再生法、「まち・ひと・しごと創生法」という単語が頭をよぎり、あるいは、「まち・ひと・しごと創生本部」が鳴り物入りで発足したとのニュースを思い出した。そういえば、そんな法律、出来事があったと。しかし、これらの法律が疲弊した地方の実情を好転させるのにどれほどの有効性、実効性を持つのかは、勉強不足のせいで私には不分明である。
 
もっとも、地域再生法、「まち・ひと・しごと創生法」は基本法的性格であり、直接的、具体的な影響をうけることは考えにくいとされる[註1]。基本的性格、つまりスローガン的な法律は他にもある。また、上記法律の履行に際して予算措置を講ずることで、一部、法目的を実践するための事業が行われている[註2]。
 
しかし、今、地方都市にとって、地域再生はスローガンどころではない。死活問題である。それにもかかわらず、地方に暮らす私たちは地方再生を実感しているとは言いがたい。そして、もっとも再生を必要とする地域に暮らす人々ほど、再生の感触が弱いのではないだろうか。
 
地方再生のレベルはなにも創造的で新規性に富んでいる必要はない。住民にとって必要な地方再生策はバスの補助金を減らさない、学校の統廃合を数字だけを見て行わないなど、地に足の着いたレベルである。住民目線を欠いた地方再生とならないよう、地方都市住民として、あるいは納税者として今後の動向を注視したい。
 
 
[註1] 其田茂樹 「『地方創生』は政策目的か」『自治総研』通巻439号(2015年)56頁。
[註2] 上掲論文58~61頁。
 
 
---
片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

コラムニスト一覧
月別アーカイブ