コラム

    • 資本主義は破綻したのか?

    • 2016年07月19日2016:07:19:09:56:03
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

◆弱者の支援は誰だってしたくない!?

 
英国のEU離脱が決まったとき、プーチン・ロシア大統領は記者団に離脱の要因を「経済が弱い国とその国民を食わせ、支援するなんて、誰だってしたくないのだ」と解説してみせたとのこと。
 
また、米国では、エリート階級と労働者階級とが乖離し同じ米国人としての行動様式や価値をほとんど共有していない、というのが現実らしい。エリートは、自らの特殊な世界に籠り、市井の米国人から孤立する反面、国の命運にはより大きな影響力を行使しようとしている、とか。労働者(とりわけ白人)は、もはや共和党も民主党もエリートのための党になったのではないか、自分たちは党に裏切られたのではないか、という怒りを抱き、その怒りが政治的救済者の出現を渇望させ、トランプ現象となっていると解説する者もいる。
 
ところで、日本では、急増する高齢者(社会的弱者?)の支援のために国家予算の1/3以上を使い、この点からは弱者救済をしているかに見えるが、その財源のほとんどは国の「借金」で賄われ、付けを先延ばししているだけの政治的大衆迎合措置で、国民は赤の他人のためにサービスに相応するすべてを負担しているわけではない。
 
 

◆資本主義は破綻したのか?

 
資本家が、ヒト・モノ・カネ・情報を集め、価値を創造し、新たな利益を生み出すという仕組みの下では、必ず、富は偏在する。だから、再分配機能をビルトインし社会的公平を保つ。このシステムが働いてこそ、資本主義が経済社会システムとして存在する理由がある、と信じる。
 
ところが、上記のごとき社会現象が各所で生じるということは、経済のグローバル化で各国ともグローバルスタンダードに従わざるを得ず、結果として類似の動きをすることなってしまうことが背景にあると考えられるが、現在の資本主義が再分配機能を失うことによって、その経済社会システムとしての存在が問われていると言えるのではないか?(そうかといって、中国やロシアの現状を見ると、直ちに彼らがいう社会主義に賛成できるものでもない。)
 
戦後70年、世界は大きく変わろうとしているに違いない。
 
グローバルに手をつなぎ、それぞれの良さや強みを発揮し協働して全体的に人々の生活を豊かにしていこう、という考えを捨て、他人には無関心、自分さえ良ければ、という思いをベースに、力のある国及びその国民が他を顧みる力を失うに比例して内向きなナショナリズム・保護主義に傾いてきている、のではないか。
 
 

◆日本はどうすればいいのか?

 
日本の問題は、アベノミクスの3本の矢のうちの「大胆な金融政策」である。
 
QQE(Quantitative-Qualitative Easing=量的、質的金融緩和)の目的は、日銀の当座預金の残高を増やすこと。残高を増やすために日銀は、大量の国債を銀行から買い入れる。そのため、日銀にある民間銀行の当座預金にはどんどんお金がたまり、この大量の資金が企業の設備投資などに回り、景気が良くなる、というロジック。
 
日銀は、輪転機を回して紙幣を印刷し国債を買っている。赤字国債が大量に発行され、日銀は紙幣を印刷して買い入れ、結果、ファイナンスしている。日銀券は国債と違って償還の必要はないし、利払いの義務もない。財務省が頼るのもわかる気がする。
 
しかし、いつかはQQEを解除しなくてはならない。解除に当たっては、常識的には、日銀は保有国債を売却して、その分だけベースマネーを回収するか、残高を維持する代わりに準備預金に対する付利の水準を引き上げることになる。債務に伴う負担が必ず発生する。苦しいが金融緩和の出口を議論しなければならない。
 
もし、ベースマネーの増加がデフレ脱却までの一時的なものではなく恒久的なものだと予想されることになると、日本の国債を保有するヘッジファンドなどは直ちに行動を起こす。そして、債券安が引き金となって株安、円安のトリプル安となり、物価水準の急激な上昇など深刻な経済的混乱が引き起こることになろう。
 
こんな事態は、避けなければならない。
 
 

◆財政赤字の解決は、歳入増・歳出減しかない

 
日本は決して豊かな国ではない。2014年時点で、国民の平均所得は世界で18位、1人当たりの名目GDPは27位。
 
身の丈に合ったことしかできないという原則に戻る。財政赤字は歳入増・歳出減でしか解決できないことも政治責任として明らかにいうべきだ。
 
所得税の累進課税率を引き上げる(金持ちの海外への税逃れには国際的に対処する)。消費税率も引き上げる。並行して、社会保障レベルを身の丈に合った程度に引き下げる(国家として、その身の丈に合った給付しか提供しえない真実を国民に分かってもらう努力を重ねた上で)。
 
忘れてならないことは、我慢ともったいない精神を社会として涵養すること。
 
具体的には、16歳以上の国民は男女とも全員に(体力的に無理なケースは個別に判定し免除)、1年のうち一定期間、介護業務に従事することを義務付ける。介護が嫌なら、農業に従事。そして、生涯通算、一定年数の従事義務を例外なく課す。
 
戦後70年の総決算とは自覚にある。日本の実力を国家として認識し国民に分からせること。そして、自分で自分の食い扶持は作るなり稼ぐなりするという古代から今日に至る自明の理「天は自ら助くものを佑く」を基本に据えることを提案したい。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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