コラム

    • ジカウイルス感染症がSTDの性格を保有することが確認

    • 2016年08月09日2016:08:09:08:52:01
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

◆女性から男性への感染事例

 
ニューヨーク市において、ジカウイルス流行地で感染した女性から男性へ、性行為によってウイルスが感染したことが確認された。7月16日付のニューヨークタイムズが、CDCとニューヨーク市による報告を詳細に伝えている。
 
この数ヶ月間、ジカウイルスが性行為で感染する危険性について注視されてきた。しかし、この事例までは、男性の精液からパートナーとしての女性、または男性へ感染するとしか考えられていなかった。
 
それが今回の事例で、ウイルスは男性からも女性からも性行為で感染することが確認された。すなわち、ジカウイルスはSTD(性感染症)の病原体の仲間入りをしたことになる。
 
「これは女性から男性へジカウイルスが感染したことを確認した初の報告である。」7月16日、CDCとニューヨーク市保健衛生研究所が発表した。
 
今回確認された事実は、これまで想定していた感染経路に対する考えを改める必要性を提起する。女性から男性にジカウイルスが感染する事実が明らかになったことに、専門家たちは驚きを隠せないようだ。
 
これまでの啓発内容を大幅に改める必要性が出てきた。
 
 

◆ジカウイルスの病原性とリスク

 
ジカウイルスのヒトへの病原性に関して、多くは未だ分かっていない。早急に明確にすべき課題となっている。感染者の80%は無症状で、症状を呈しても治療を必要としないほどの軽症とされる。
 
しかし、感染妊婦に対するジカウイルスのリスクは深刻だ。ウイルスは胎児の発達過程にある神経組織に感染し、小頭症と呼ばれる発達異常を起こす。誕生時に異常が認められなくても、出生後に神経症状が現れることもある。
 
7月中旬の時点で、米国で1,130例のジカウイルス感染者がこれまで確認されており、そのうち320例が妊婦である。全てが流行地においてネッタイシマカを介する等の経路で感染しており、帰国後発病した輸入感染症である。中に帰国した感染者との性行為で感染した例が15例含まれているが、それは氷山の一角と推定されている。
 
「ジカウイルス感染症を知れば知るほど、我々はこの感染症の深刻性に気づくことになっている」と、CDCのフリーデン長官は語った。
 
その時点で米国では、7例のジカウイルス感染妊婦の分娩異常が確認され、5例が死産、または流産している。2例が発達異常乳児とされる。
 
障害児の一生のケアに要する費用は、およそ10億円とされる。「障害児は歩行できないだろうし、自活するのも無理である」と、フリーデン長官はコメントしている。
 
 

◆ニューヨーク事例の詳細

 
今回のニューヨークで確認された事例は、ジカウイルス感染を自覚しないまま、女性から感染した男性が、さらに他の人々にウイルスを感染してゆく“感染リング”を形成する可能性があることを暗示している。
 
今回の報告内容によると、男性は国外に最近出たことはないが、海外から帰国した女性とコンドームなしに膣内性行為を一度行ったとされる。
 
女性は20代とされ、ジカウイルス流行国から帰国し、その日にパートナーとセックスした。
 
女性は空港で頭痛と腹痛を呈していて、翌日にジカウイルス感染症の典型的症状を呈した。すなわち発熱、倦怠感、発疹、背部痛、四肢の腫脹。
 
また、生理の症状もいつもより重症だったとされる。
 
女性を診察した医師は、血液と尿を州保健局に送った。
 
その結果、ウイルスが検出されたが、抗体は検出されなかった。すなわち帰国時は、感染後間もない時期で、まだ抗体産生が行われていなかったと考えられる。(抗体産生は感染4~5日後に始まる)。
 
性行為7日後に女性のパートナーだった男性が発病した。発熱、発疹、関節痛、結膜炎を呈した。報告によると、男性は発病1週間前以降蚊に刺されたことはなく、また他のパートナーとの性行為もなかった。
 
女性からのウイルス感染が生理中の血液を介したのか、膣液を介したのか不明である。もしウイルスが膣液を介して感染するとなると、どの程度の期間ウイルスが膣液に存在するのか問題となる。霊長類での研究では、感染後7日程度膣液に存在していることが確認されている。
 
 

◆ウイルスの残存期間

 
一方、ジカウイルスに感染した男性の精液中に長期間ウイルスが存在する可能性が、フランスの研究者によって医学雑誌『Lancet』に発表された。
 
エボラウイルスの場合、半年近く回復した男性の精液中にウイルスは生きて潜んでいる。そのためエボラ回復者は少なくとも半年間は禁欲、またはコンドームを使用した安全な性行為が要求されている。
 
ジカウイルスに関しては、これまで精液中に残存していた最長期間は2ヶ月だったが、今回フランスの研究チームが発表したのは3ヶ月間である。
 
要するにどの程度の期間、感染したジカウイルスが精液中に存在しているのか、未だによく分かっていないということだ。今回明らかにされたのは、少なくとも3ヶ月間は存在している可能性があるということである。ジカウイルス感染症状を呈した場合だけでなく、無症状の場合でもありえる可能性は高い。
 
今回、米国のリオ五輪チームについて(選手、役員、パートナーなど)、帰国前のウイルス保有または抗体保有状態、そして帰国1週後にも同様のことが、CDCにより分析されることになっている。血液、唾液、精液、膣液などである。
 
その結果、かなりの謎が解ける可能性がある。
 
それとは別に、感染した男性の精液中のウイルスの有無を隔週ごとに調べる研究が米国で開始されている。
 
 

◆今後の展望

 
精液中に半年近くもウイルスが潜んでおり、それも無症候性の場合でも起こりえるとなると、ジカウイルスは人類を窮地に追い込むことになる。
 
南半球、季節によっては北半球でも、蚊を介してSTDを引き起こすウイルスが行き交う可能性が出てくる。ウイルスが妊婦達に感染し、異常胎児が発生する危険性が続くのである。
 
ところで、日本からのリオ五輪選手団についてはどのような対策が立てられているのだろうか? 帰国前に血液中ウイルス存在の有無、または抗体の有無、ウイルス陽性の場合は精液中のウイルスチェックが必要となる。
 
少なくとも入国時には調べてほしい。
 
 
追記:7月31日、米国のマイアミでジカウイルス保有蚊が発生し、地域で感染者が増えだしていることか確認された。休暇シーズンに入る英国は、フロリダへの渡航に十分気をつけるよう国民に呼びかけるとともに、妊婦の渡航は原則禁止とした。
 
 
【参考資料】
 
"Late sexual transmission of Zika virus related to persistence in the semen", The Lancet, Vol.387, No.10037, p2501, 18 June 2016.
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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