コラム

    • 改正医療法関連政省令の解説

    • 2016年08月16日2016:08:16:09:45:35
      • 板持英俊
        • 税理士

1.はじめに

 
第189回通常国会において「医療法の一部を改正する法律」が成立したことに伴い、平成28年3月25日に「医療法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成28年政令第81号)、「医療法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」(平成28年政令第82号)、及び医療法施行規則の一部を改正する省令」(平成28年厚生労働省令第40号)(以下「医療法関連政省令」)が公布された。
 
この医療法関連政省令において、改正医療法の施行時期について下記のように定められた。
 
【改正医療法の主な項目と施行時期】
(1)地域医療連携推進法人制度・・・・・・平成29年4月2日
(2)医療法人の分割・・・・・・・・・・・平成28年9月1日
(3)医療法人の経営の透明性の確保・・・・平成29年4月2日
(4)ガバナンスの強化・・・・・・・・・・平成28年9月1日
 
本稿では、公布された医療法関連政省令の中から「医療法人の経営の透明性の確保」、「ガバナンスの強化」について解説する。
 
 

2.改正の経緯

 
「医療法人の経営の透明性の確保」及び「ガバナンスの強化」については、厚生労働省が示した「質の高い効率的な医療提供体制」の整備に向けて、同省の諮問会議等において、医療機関の非営利性、効率性、透明性の確保の観点から議論が行われてきた。
 
加えて、医療法人が法令等を厳格に遵守し、健全かつ適切な業務運営を行うため、主に以下の項目について制度の創設及び見直しが議論された。
 
 ・社会的に影響が大きい一定規模以上の医療法人について、外部監査を義務
 ・メディカルサービス法人(以下「MS法人」)と医療法人との関係の適正化など医療法人が法令等遵守体制を構築するための方策
 ・医療法人における役員の責任明確化
 
 

3.医療法人の経営の透明性の確保

 
前述の議論を経て、「会計基準の適用及び外部監査」、「MS法人等と医療法人との取引関係の報告制度」が設けられた。
 
(1)会計基準の適用及び外部監査
以下の一定規模以上の医療法人又は社会医療法人は、厚生労働省令で定める医療法人会計基準に基づいて貸借対照表及び損益計算書を作成するとともに、公認会計士等による外部監査が義務化された。
 
①適用時期
 平成29年4月2日施行 (同日以後開始する会計年度より適用)
 
②適用対象法人
 (イ)貸借対照表の負債合計金額が50億以上又は損益計算書の事業収益の合計額が70億以上の医療法人
 (ロ)貸借対照表の負債合計金額が20億以上又は損益計算書の事業収益の合計額が10億以上の社会医療法人
 (ハ)社会医療法人債発行法人である社会医療法人
 
(2)計算書類の公告
以下の一定規模以上の医療法人又は社会医療法人に計算書類(貸借対照表及び損益計算書)の公告が義務付けられた。
 
①適用時期
 平成29年4月2日施行 (同日以後開始する会計年度より適用)
 
②適用対象法人
 (イ)貸借対照表の負債合計金額が50億以上又は損益計算書の事業収益の合計額が70億以上の医療法人
 (ロ)社会医療法人
 
③公告の方法
 ②の医療法人又は社会医療法人は以下のいずれかの方法で公告をしなければなりません。
 (イ)官報に記載する方法
 (ロ)日刊新聞紙に掲載する方法
 (ハ)電子公告
 
(3)MS法人等と医療法人との取引関係の報告
医療法人は、以下に規定する関係事業者との一定の取引(下記③参照)の状況に関する報告書を作成し、事業報告書と併せて都道府県に提出しなければなりません。
 
①適用時期
 平成29年4月2日施行 (同日以後開始する会計年度より適用)
 
②関係事業者
 (イ)当該医療法人の役員又はその近親者(配偶者又は二親等内の親族)
 (ロ)当該医療法人の役員又はその近親者が代表者である法人
 (ハ)当該医療法人の役員又はその近親者が株主総会若しくは社員総会等又は取締役会若しくは理事会等の議決権の過半数を占めている法人
 (二)他の法人の役員が当該医療法人の社員総会等の議決権の過半数を占めている場合における当該他の法人
 (ホ)(ハ)の法人の役員が他の法人の株主総会等の議決権の過半数を占めている場合における他の法人
 
③該当する関係事業者との取引
 (イ)事業収益総額又は事業費用総額の10%かつ1千万円を超える経常取引
 (ロ)事業外収益総額又は事業外費用総額の10%かつ1千万円を超える経常外取引
 (ハ)1千万円を超える特別取引(特別利益、特別損失)
 (ニ)総資産の1%かつ1千万円を超える資金貸借、有形固定資産売買、有価証券売買、事業譲渡等の取引
 
 

4.ガバナンスの強化――医療法人の役員等の責任

 
(1)医療法人と役員等の関係
医療法人の理事、監事及び評議員(以下「役員等」)と医療法人は委任の関係にあることから、役員等は医療法人に対して、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負っている。 
 
そのため、当該義務を怠った事等により医療法人に損害が生じた場合には、医療法人に対して損害賠償しなければならない。しかし、医療法人に対する役員等の責任をあまり厳しく問い過ぎると、損害賠償のリスクを恐れるあまりに経営が委縮してしまい、医療法人の利益を損なう可能性があるため、次の責任を減免する規定が定められた。
 
 イ.総社員又は総評議員の同意による全部免除
総社員又は総評議員(以下「社員等」)の同意により、役員等が責任を負う金額の全部を免除することができます。この全部免除は、役員等が任務を怠った事等について、故意又は重大な過失がある場合であっても適用される。
 ロ.社員総会又は評議員会の決議による一部免除
社員総会又は評議員会の決議により、役員等が責任を負う金額のうち、一部(最低責任限度額※を超える金額)を免除することができる。この一部免除は、役員等が職務について善意かつ重大な過失がない場合に限定して適用される。
 ハ.理事会の決議による一部免除
理事会の決議により、役員等が責任を負う金額のうち、一部(最低責任限度額※を超える金額)を免除することができる。この一部免除は、役員等が職務について善意でありかつ重大な過失がない場合において、役員等の責任の原因となった事項等を勘案して、特に必要と認めるときに限り適用される。 
 二.責任限定契約の締結による一部免除
理事長、業務執行理事(医療法人の業務を執行する理事)又は使用人兼務理事(医療法人の職員)以外の役員等(以下「非理事長理事等」)は、あらかじめ責任を限定する契約を医療法人と締結することができる。非理事長理事等は、その職務について善意でありかつ重大な過失がない場合には、あらかじめ医療法人が定めた一定の金額と、最低責任限度額(※)とを比べて、どちらか高い金額を責任の限度とする責任限定契約を締結することができる。  
 
(※)最低責任限度額
(イ)理事長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・年間報酬等に相当する額の6倍
(ロ)理事長以外の業務執行理事、使用人兼務理事・・・年間報酬等に相当する額の4倍
(ハ)非理事長理事等・・・・・・・・・・・・・・・・年間報酬等に相当する額の2倍
 
(2)理事の競業取引、利益相反取引の制限
医療法人の理事に対する監督の強化の観点から、理事が医療法人の利益と相反する取引を行う場合(利益相反取引)や競業取引を行う場合には、理事会の承認と、事後の理事会への報告が必要である。利益相反取引や競業取引により医療法人に損害が生じた場合には、理事は医療法人に対して損害賠償責任を負うため注意が必要だ。また、従来は理事長が利益相反取引を行う場合には、都道府県への特別代理人選任の申請手続きが必要だったが、理事の理事会の承認手続等が規定されたことにより、特別代理人の制度は廃止される。
 ■利益相反取引の例・・・医療法人の理事が所有する土地を医療法人へ譲渡する行為等
 ■競業取引の例・・・医療法人の理事が近隣でクリニックを開設する行為等
 
(3)理事の報酬等の決定
医療法人から受ける財産上の利益(報酬、賞与その他職務の執行の対価として、理事の報酬等)について、定款等において報酬等の金額を定めることになる。定款等において報酬等の金額を定めないときは、社員総会又は評議員会(以下「社員総会等)で理事の報酬等を決議する。
 
社員総会等では理事全体の報酬等の総額を決議することで足り、理事会において社員総会等で決議された報酬等の総額の範囲内で各理事の報酬等について決議する。また、報酬等の総額の上限を超えない限り、毎事業年度の社員総会等の決議は不要である。
 
 

5.おわりに

 
医療法の改正に伴い、医療法人経営はこれまで以上にガラス張りの経営が求められる。
 
特に、医療法人のガバナンスについては、子細な規定が設けられ、理事、監事の責任が明確化した。そのため、法人内の体制見直しが必須となるが、見方を変えれば、制度変更は内部体制を強固にする良い機会とも考えられる。
 
 
 
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板持英俊(税理士)

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