コラム

    • 誰をご指名?

    • 2016年11月15日2016:11:15:09:47:56
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

方向として規制緩和に賛成だ。社会保障の分野でも緩めるべき障壁が少なくないからだ。お上の”縛り”は最小最低にとどめるべきだろう。
 
だが、公正取引委員会(公取委)が緩和の一策として訪問介護サービスで「指名料」を徴収したらどうか──と言い出したのには驚いた。
 
 

◆何が言いたい?

 
9月12日、公取委が「介護分野に関する調査報告書」を公表した。介護が自由競争を促進する上で抱える喫緊の政策課題として(1)参入規制(2)補助制度・税制等(3)介護サービス・価格の弾力化(混合介護の弾力化)(4)情報公開・第三者評価の4点を挙げた。
 
(1)参入規制については、活発な競争を促進するため株式会社などが社会福祉法人と対等な立場で参入できるようにし、地方自治体は指定管理者制度を活用する際、選定の透明性を図るべきだ──などとした。
 
(2)補助制度・税制等では、社会福祉法人を優遇せず、法人の形態を問わず、公平にすべきだ──と改善を求めた。
 
(3)混合介護では、事業者の創意工夫を促し、多様化を図るとともに、制度の解釈を透明化し、事業者の予見可能性や透明性を高めるべきだ──と指摘した。
 
(4)情報効果・第三者評価では、より利用者が求める情報を公開し、より積極的に第三者評価を受審し、公開すべきだ──で結んだ。
 
個人的な感想だが、報告書には公取委による独自調査によって新事実の発見(例えば、独禁法に触れる恐れがあるとか)が書かれているわけでも、適切な指摘や対策を提案するわけでもない。政府の経済諮問会議や規制改革会議(現在の規制改革推進会議)でさんざん指摘されていたものばかり。
 
ホチキスで止めたような調査結果のために時間をかけ、調査会社に委託費を払い、公表する公取委の姿勢や考えが分からない。そんなに暇か? そんなに金が余っているのか?
 
 

◆夫のパンツ

 
失笑したのが、(3)の「混合介護の弾力化」の具体例(2例)だ。1つは〈保険内外のサービスの同時一体的な提供〉として、「保険内のサービスの提供時間内に利用者の食事の支度に併せて、帰宅が遅くなる同居家族の食事の支度も行うことで、低利用金かつ効率的なにサービスを提供できるようになる可能性がある」という。
 
何を宣っている。以前、多くのヘルパーが所定時間内にやっていたことだ。介護保険の建前は要介護者への食事の支度に限られているが、現実は違っていた。妻がケアを受けている場合、ヘルパーは「余分に作りましたから、ご主人にも食べていただきましょう」と言っていたように。それが普通だった。
 
問題は、介護給付費をケチろうと、介護報酬改定で訪問介護の所定時間を削り、ヘルパーの好意や善意を封じた結果、できなくなった。やらなくなった。「時間がないから、夫のパンツを摘み出し、妻のパンツだけ洗濯機に入れて回せ!」と迫ったのは誰だ。
 
 

◆カネしだい

 
2例目はもっとすごい。〈サービスの質に応じた料金徴収〉として「利用者が特定の訪問介護員によるサービスを希望する場合に、指名料を徴収した上で派遣することが可能となる」。その理由が「利用者の利便性が向上するととともに、事業者の収入増加をもたらし、介護職員の処遇改善につながる可能性もある」ときた。本気か?
 
「指名料」の多寡で収入が違ってくる──こんな処遇改善で介護人材が集まるとは到底思えない。だったら医師や看護師はどうする。カネさえあれば、ヘルパーも医者も看護師も、選び放題。「ケアも命もカネしだい」の社会保障でいいのか。
 
財政当局のように給付費を削る算段を打ち出すなら、たとえ「難癖」と言われても、それなりの調査と分析が必要だ。暇やカネがあっても、知恵がないと、こんな報告書しか書けない。
 
 
 
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楢原多計志(関東学院大学 非常勤講師)

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