コラム

    • 平成29年度 税制改正要望

    • 2016年11月22日2016:11:22:16:07:18
      • 板持英俊
        • 税理士

1.はじめに

 
平成28年8月31日に、各省庁から税制改正要望が公表された。この税制改正要望や、昨年以前に議論され継続審議となっている項目について与党税制調査会において議論を行い年末の税制改正大綱が取りまとめられる。
 
つまり、年末の税制改正大綱にこの税制改正要望の項目が採用される可能性があり、その意味で毎年注目される。
 
なお、例年通りならば、税制改正の今後のスケジュールは下記になるものと考えられる。
 
【税制改正スケジュール】
 ①税制改正要望  各省庁から税制改正要望事項が公表される  平成28年8月末
 ②税制改正大綱  与党税制調査会において税制改正大綱が発表される  平成28年12月中旬
 ③閣議決定  税制改正大綱の内容について閣議決定し税制改正法案として国会に提出され審議される  平成29年1月下旬
 ④税制改正法案成立  法案審議の結果、可決成立されれば法律として施行される  平成29年3月下旬
 ⑤改正税法施行  通常は新年度から施行される(項目によって適用時期は異なる)  平成29年4月
 
本稿では、税制改正要望のうち医療機関に影響が大きいと考えられる以下の項目について解説する。
(1)医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等(相続税、贈与税)
(2)中小企業投資促進税制の拡充(法人税、所得税)
(3)中小企業等経営強化法に係る固定資産税の特例の拡充(固定資産税)
(4)非上場株式の評価方式に関する見直し(相続税・贈与税)
 
 

2.要望事項の内容

 
(1)医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等(相続税、贈与税)
 
①要望の背景
本制度は、持分なし医療法人への移行の意思決定をし、移行に向けて取り組んでいる持分あり医療法人において、出資者の死亡による相続税または出資持分の放棄に伴う残存出資者へのみなし贈与税によって移行への取り組みが停滞しないようにする制度である。
 
持分の定めのある医療法人の持分を相続・遺贈により取得した場合等にその医療法人が医療法上の厚生労働大臣の認定を受けた医療法人であるときは、これらの相続税等の納税が移行計画の認定から最大3年間猶予等される。ただ、現行法では、移行計画の認定期間は平成26年10月1日から平成29年9月30日までの3年間とされている。
 
要望では、移行計画の大臣認定件数が増加傾向にあること(平成26年11件、平成27年26件)を挙げ期間延長を求めている。
 
また、本制度は、移行に際し関係者の合意が必要であり、場合によっては時間がかかるケースも想定されるため、その様なケースに対応することも期間延長の理由として述べられている。
 
②要望内容
医療法上の持分なし医療法人への移行計画の認定期間(現行平成29年9月30日まで)の延長を前提として、「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置」の適用期間を延長することが検討されている。
 
さらに、持分なし医療法人へ移行する際に、出資持分の放棄により医療法人へ移転する経済的利益について、医療法人に対して贈与税が課税される場合がある。前述の移行計画の認定を受けた医療法人については、円滑な移行促進のために医療法人への贈与税を非課税等とするよう、厚生労働省は要望している。
 
(2)中小企業投資促進税制の拡充(法人税、所得税)
 
①要望の背景
医療機関を含む中小企業(以下「中小企業」とする)は地域における経済発展及び雇用創出に重要な役割を担っており、地域において中小企業の成長は不可欠である。中小企業の成長を底上げするには、その事業に不可欠な設備やIT化等への投資を加速させ生産性の向上を図ることが重要と考えられる。 
 
大企業と比較して財務基盤が脆弱な中小企業においては、積極的な事業展開への意欲や技術力等を有していても、十分な資金を充当できず機動的な設備投資等が遅れるケースも少なくない。
 
特に、産業全体の7割超を占めるサービス業(医業もこのサービス業に含まれる)は、地域経済の雇用を多く担っており、サービス業において生産性が向上すれば、雇用の確保、給与水準の維持、ひいては地域経済の維持・拡大に繋がる。
 
平成26年の現行制度の利用実績は約6万件だが、利用業種のほとんどが製造業、建設業であり、サービス業は全体の15%となっている。この様な背景を基にサービス業における、本制度の活用促進を図るべく、改正が検討されている。
 
②要望の内容
本制度は、中小企業における生産性向上等を図るため、一定の設備投資を行った場合に、税額控除(7%、上乗せ措置は10%)又は特別償却(30%、上乗せ措置は即時償却)の適用を認める制度である。
 
現行制度ではその対象資産が機械装置と一部の器具備品・ソフトウェア等に限られており、建物付属設備や器具備品の設備投資が大きい医療機関を含むサービス業等の本制度の利用は限定的だった。対象設備に建物附属設備の追加及び、現行においても対象設備である器具備品の対象範囲を拡充することで医療機関等のサービス業の設備投資を支援することが検討されている。
 
(3)中小企業等経営強化法に係る固定資産税の特例の拡充(固定資産税)
 
①要望の背景
本制度は、認定経営力向上計画に基づいて中小企業者等が取得する生産性を高める一定の設備について、経営力向上計画を作成して、主務大臣の認定を受けた場合に、3年間固定資産税を2分の1に軽減する制度である。
 
現行制度ではその対象資産が機械装置に限られており、比較的建物付属設備や器具備品の設備投資が大きい医療機関を含むサービス業等はその恩恵を受けることができない。
 
②要望の内容
中小企業投資促進税制同様に対象設備に生産性を高める器具備品・建物付属設備を追加することでサービス業の設備投資を支援することが検討されている。
 
(4)非上場株式の評価方式に関する見直し(相続税・贈与税)
 
①要望の背景
非上場株式の評価方式のうち類似業種比準価額は、事業内容の類似する上場会社の株価(類似業種の株価)をもとに利益金額・配当金額・純資産価額の3つの要素を考慮して評価額を算定する(医療法人は配当が禁止されているため、配当金額は考慮しない)。
 
上場企業の株価は景気変動等に応じて変動するのに対して、中小企業はその波及効果が業績等に反映するまでに時間がかかると言われている。
 
そのため、上場企業の株価の上昇に伴い、医療法人を含む非上場の企業の中には業績に大きな変化のない状況下にあっても、想定外に株価が高く評価されるケースがあり、円滑な事業承継に影響を及ぼす可能性が生じている。
 
②要望の内容
平成28年税制改正大綱においても、上記を背景に実態に即した評価への早期見直しが明記された。今回の改正要望においても昨年の議論を踏まえ、中小企業等の実力を適切に反映した評価への見直しが要望されている。
 
 

3.おわりに

 
税制改正要望は今後の議論を踏まえて、改正が必要と考えられる項目について、年末の税制改正大綱に採用される。この要望の中から新たな税制が生まれる可能性がある。そのため、税制改正要望の内容を確認し、仮に法律となった場合を想定して検討することで、迅速な意思決定を可能にすると考えられる。
 
 
 
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板持英俊(税理士)

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