コラム

    • 議会制民主主義は民意遮断のカラクリ時計だ

    • 2017年03月21日2017:03:21:06:07:30
      • 平沼直人
        • 弁護士、医学博士

◆政治における最たる欺瞞

 
代議制ないし間接民主制とも呼ばれる議会制民主主義について,ほとんどの人は疑いもなく民主的な制度だと考えている。
だが,それは間違いだ。
 
イギリスのEU離脱を決めた国民投票は,間接民主制が直接民主制に敗れた象徴的な出来事であった。
大方の予想を裏切るトランプ大統領の誕生は,全世界規模で進むポピュリズム(大衆迎合主義)による独裁制の幕開けとなり,議会制の終焉をもたらしかねない。
 
それらの背景にあって数的に多数を占める人々を動かしたのは,議会制民主主義という政治的な欺瞞に対する本能的な拒絶であろう。
 
「代表する者とされる者との接続を標榜する代議制の欺瞞」*が,そこに見え隠れしている。
 
 
 

◆ルソーの箴言(しんげん)

 

「自由なのは,議会の議員を選挙するあいだだけであり,議員の選挙が終われば人民はもはや奴隷であり,無にひとしいものになる。」*――ルソー『社会契約論』より
 
ジャン=ジャック・ルソーは,1712年,スイスのジュネーブにおいて,時計職人の息子として生まれた。
長じて徒弟に出されたが,出奔し,放浪した後,1743年,31歳でヴェネツィア駐在フランス大使の秘書となり,頭角を現した。
1761年,パリで哲学的な恋愛小説『新エロイーズ』を発売。18世紀最大のベストセラーとなる。
そして,1762年,50歳のとき,この『社会契約論』を刊行した。
しかし,同年に出版し後世に教育学の古典となる『エミール』で逮捕状が出され,スイスに逃走するが,同地では『社会契約論』も焚書となり,逮捕状が出された。再び彼の放浪の人生が始まる。
1778年,66歳で病死。
1789年7月14日,バスティーユ監獄が襲撃され,フランス革命が勃発。
1794年,革命政府は,パリのパルテオンにルソーの遺骸を移し,もう1人の啓蒙思想家であり終生反目し合ったかつての友人ヴォルテールの墓の隣に埋葬した。
 
ルソー(中山元訳)『社会契約論/ジュネーブ草稿』192頁・光文社文庫(2008年)。なお,同書巻末の年譜を参考にルソーの生涯を素描してみた。
 
 

◆権力は議会で眠っている

 
なぜ民意は届かないのだろうか?
 
民主主義が多数者による支配であるとすれば,政治に民意を反映すれば済むはずである。
しかし,それでは権力を握った少数者は権力そのものや富や名誉その他もろもろのものを身ぐるみ剥がされて持って行かれてしまう。
そこで,権力は,選挙・議会という民主的な装いを凝らした舞台を借りて,自らが議員となるか,あるいは黒幕(フィクサー)となって議会を操り,そうして民意を遮断した上で,自身の既得権を守るのだ。
ただそれだけのこと。簡単な仕掛けだ。
 
自由民主党は,1955年の保守合同以来,2度の短い期間を除き,与党であり続けている。
国民は“自由”と“民主”を漠然と似たり寄ったりのものと思い込んでいる。
が,政治学では,自由主義と民主主義は截然(せつぜん)と区別され,むしろ対立する概念ですらある。
多数者の専横から少数者を守ることが自由主義の根本理念である。
そこにきて“熟議民主主義”なるスローガンまで飛び出している。多数者の専制を懸念する姿勢はむしろ自由主義のものである。
そもそも参議院は良識の府と称して民意の遮断をレゾンデートル(存在理由)とさえしている。
 
民主主義には絶望的な印象を持っている。
それでも人々が民主主義を望むのであれば,可及的に民主的であるべきだ。
だから議会は比例代表制でなければならないだろう(小選挙区制は,民意を無理矢理2つの型に押し込めた上で大量の死票(しにひょう)を出す)。
比例代表制を採用したワイマール共和政の小党乱立がヒトラーという鬼子を産み落とした。我々はその歴史を知っていても。
 
 
 

◆不正選挙

 
そもそも選挙からして正しく行われているのか?
 
最近,不正選挙という言葉を時おり耳にする。
実弾(現ナマ)による買収やどこにでもありそうな饗応といった選挙運動の違反を意味するものではない。
ズバリ開票作業に対する疑念である。
スターリンが曰(のたまわ)ったそうである。「誰が投票するかは問題ではない。誰が開票するかだ!」
 
ネットを中心とするトンデモ話だとばかり笑ってはいられない。
過去数度にわたるアメリカ大統領選挙での電子投票機・集計システムによる不正操作の疑惑は,彼の国の選挙産業と共和党との蜜月を知れば知るほど真面目に取り上げなければならない問題だと分かるはずだ*。
 
国政でも身近な選挙でもいい,開票結果がなんだかおかしいと感じられたことはないだろうか?
 
 
 
 
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平沼直人(弁護士,医学博士)

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