コラム

    • 門前払い

    • 2017年04月11日2017:04:11:06:55:26
      • 楢原多計志
        • 関東学院大学 非常勤講師

 
政治家と役人が絶対にやってはならないことが2つある。カネ(賄賂)を受け取ること。『反省』という言葉を口にすること──。教育者だった叔父がよく言っていた。3月下旬、厚生労働省が都道府県などに送った特別養護老人ホーム入所に関する通知には呆れ果てた。 
 
 

◆全国的に横行か?

 
3月29日、厚労省は老健局高齢者支援課長名で都道府県、指定都市、中核市の介護保険主管部(局)長に対し、「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針の一部改正」を通知した。そこには要介護1、2の人(軽度者)でも例外的に特養に入所できる「特例入所」に関する改正点が新旧対照表などによって詳細に書かれていた。要は「手順などを教えるから、特養が故無くして入所希望者を門前払いしないよう指導してくれ」という内容だった。「全国的に横行しているようだ」と言われる門前払い。その原因をつくったのは誰だ。
 
特養の入所対象者は、前回の介護保険制度改正によって2015年4月1日から「原則、要介護3以上」の人に限定された。多数の特養待機者がいるにもかかわらず、大きな理由は1つ。給付費のかかる施設介護から安上がりな(誤認説もある)在宅介護へ移行させ、給付費全体の伸びを抑え込もうという現政権や経済団体、保険者の思惑と打算だ。
 
ところが、「原則3以上」に対する反発が根強かった上、特養には要介護1、2の入所者がいたこと、在宅介護が難しい要介護者などの待機者も大勢いた。強行すれば、「追い出し」「長期待機者」などと批判を浴びる。そこで厚労省は例外措置を設けて打開を図った。それが「特例入所」であり、2014年12月12日付で課長通知した。
 
「特例入所」の対象者は、要介護1、2の人で、かつ (1)日常生活が難しい認知症者 (2)同じく知的障害・精神障害者など (3)深刻な虐待被害者 (4)家族や地域からの支援が不十分な単身者──に該当する人。この場当たり的な措置が大きな誤算を招いた。
 
 

◆ノウハウも蓄積もない

 
「(1)の認知症者1つとっても認知症と診断できる医師が地域に少ない。(4)の支援の不十分な人に至っては基準があいまいな上、職員には選定のノウハウも蓄積もない」と東京都の特別区介護保険担当職員は愚痴る。
 
また特養の方も、「特例入所の希望者の入所選定は行政が中心にやってくれないと困る」(都内の特養施設長)」「現状でも認知症者が全入所者の9割を超えており、いくら報酬が加算されても、これ以上の認知症者対応は人材確保の面から難しい」(川崎市の社会福祉法人理事)と不満を口にする。
 
こうした結果、何が起きたか。市町村窓口は戸惑い、特養は特例入所者ではなく要介護3以上の中重度者を歓迎した。つまり、要介護1、2の門前払いが多発した。慌てて出したのが今回の通知だ。
 
 

◆15万7千人減

 
実は、特養の門前払いを危惧する意見は以前からあった。介護報酬の上限額は要介護度によって異なり、重度者の方が高い。問題行動があり、密度の濃いケアが必要な認知症の軽度者より重度者の方が経済的にもケア提供の面でも歓迎する特養が少なからず存在した。
 
相次ぐ基本報酬のマイナス改定に加え、その穴埋めのため認知症対応や重度者対応の加算を取ろうとすれば、その分、専門知識やケア技術を持つ介護スタッフを配置し、専門的な研修を受講させる必要もある。特養の経営は依然ほど楽ではなくなった。
 
だからと言って軽度者を門前払いにして良いはずがない。かつて「特養のライバル」と言われた介護サービス付き高齢者住宅は急増しているが、認知症対応ができる施設は限られている。在宅サービスは認知症ケアそのものが難しい。特養への期待は今でも強い。認知症者を拒むようでは「最後の砦」が泣く。
 
通知の2日前、厚労省は特養の待機者数(昨年4月1日時点)を発表した。36万6,139人、3年前より15万7,445人も減ったという。「1人で複数の特養に申し込んでいる場合、重複して数えないよう配慮した」などと言って担当者は胸を張ったが、特例入所を知り、申し込みを断念した軽度者が何人いたのかについては知るすべがないと言う。そこには「反省」「「自責」の破片もみられなかった。
 
 
 
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楢原多計志(関東学院大学 非常勤講師)

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