コラム

    • 『ブラックスワン』と日米経済

    • 2017年05月23日2017:05:23:06:46:38
      • 長谷川公敏
        • エコノミスト

可能性がほとんどないと見られていた英国のEU離脱決定(2016年6月23日)、米大統領選挙でのトランプ氏勝利(2016年11月9日)に金融市場は大きくネガティブに反応したが、反応は一時的で、今のところ両国の実体経済には影響がないようだ。
 
 

◆英国のブラックスワン

 
英国のEU離脱は、離脱交渉開始がまだまだ先で、離脱に伴う様々な条件なども決まっていないため、離脱による実体経済への影響は全く見通せない。金融面でも、欧州金融市場の中心がロンドンからフランクフルトに変わる可能性があるものの、離脱後の姿が見えないため金融機関は動きようがない。
 
 

◆米国のブラックスワン

 
トランプ氏は、大統領選挙中の言動から「仮に当選したら大変なことになる」と言われていた。当選後のトランプ氏の言動や政策は、大方の予想通り枚挙に暇がないほど不可解なものが多く、対ロシア疑惑、マスコミへの対応やコミーFBI長官の更迭などを見ると、トランプ氏は米国大統領としてふさわしくないのではないか、と思ってしまう。更に、対外関係でも前言を翻すことにためらいがなく、身内を政権内部に入れるなど公私混同も目立つ。
 
ただ、こうしたトランプ氏の言動や政策は「将来、実体経済に悪い影響があるかもしれない」が、現時点では実体経済にはほとんど影響を与えていないようだ。それどころか、打ち出された法人税減税やインフラ整備などの景気対策案は、裏付けが明確ではないにもかかわらず米株式市場で評価され、株価上昇につながっている。
 
 

◆米経済を支えているのはFRBだが・・・

 
足元が定まらない政治情勢の中で、米経済を支えているのはFRBの金融政策だが、FRBは昨年12月に安定的な経済成長や物価上昇が見えない中で利上げを開始、更に今年中には、リーマンショック後に量的金融緩和策で買入れた米国債などの売却を始める見込みだ。つまり、FRBは金融引き締めに転じたわけだ。
 
イエレン氏は2008年9月15日のリーマンショック直後の16日に利上げを主張、2014年のFRB議長就任後も度々利上げを示唆するなど、「物価(インフレ)の番人」である中央銀行の責任者らしい振る舞いが見られる。政治情勢が不安定な中、米経済をイエレン議長に託すのは何とも心もとない。
 
 

◆日本経済を支える日本銀行

 
日本経済も金融政策次第だ。日銀はこれまで、日本経済の大きな節目で度々誤った政策を実施したが、これらは「物価の番人」という思いが強い日銀総裁によるものだ。(注1)
 
中央銀行の性(さが)に囚われない黒田氏が日銀総裁の任にある限り、日本経済を失速させる可能性は低いのではないか。
 
 

◆日本経済の懸念材料は米政権の為替・通商政策と消費税率引き上げ

 
トランプ大統領は選挙中の主張とは異なり、為替操作国に認定しないなど、対中国政策は融和的だ。更に、「関係諸国へのインフラ投資」という経済活性化を名目にした中国の地政学的戦略、所謂「一帯一路」政策を「重要性を認める」として支持し、中国主催の「一帯一路」会議(国際協力フォーラム)に参加した。併せてトランプ政権は、オバマ政権では日本と歩調を合わせて参加しなかったAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加する可能性も出てきた。
 
こうしたことから、米国の保護主義的な通商政策の矛先は日本に向けられる可能性が高い。事実、米国は今年 4月の米中首脳会談で合意した「100日計画」で 米中の貿易協調をアピールする一方、対日強硬派で知られるライトハイザー氏をUSTR(米通商代表部)代表に任命している。
 
日本経済のもう一つの懸念材料は消費税率の引き上げだ。家計消費は未だ2014年4月の税率引き上げ前の水準を下回っており、日本経済にとって消費税率引き上げはダメージが大きいようだ(注2)。仮に2019年10月の消費税率引き上げが実施されれば、日本経済失速の可能性は高くなるだろう。
 
 
(注1)1990年3月と8月に「バブル崩壊」に追い打ちをかける追加利上げを実施。2000年8月に「中央銀行の独立性を誇示」するために、不況下で「ゼロ金利解除」を実施。2006年7月にデフレが進行している中で「早すぎる利上げ」を実施。
(注2)家計の消費は、消費税率引き上げ後、前年の水準を一度も上回った月がない。
 
 
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長谷川 公敏(エコノミスト)

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