コラム

    • 脱出王フーディーニとコティングリーの妖精写真事件――亡き人と語らうために

    • 2017年06月27日2017:06:27:12:19:20
      • 平沼直人
        • 弁護士、医学博士

◆木曜スペシャル 引田天功の大脱出

 
「ああ今夜は引田天功の大脱出だ! 早くお風呂に入らなきゃ」
 
あの頃の小学生はみな人気マジシャン引田天功(1934-1979)の脱出劇(イリュージョン)に夢中になった。“死のジェットコースター大脱出”,“油地獄・水面大炎上”など,1968年から1975年までNTVの木曜スペシャルで不定期に7回放送された。
 
屈強な男たちに縄できつく縛られ手錠を掛けられて箱の中に閉じ込められた挙句,あろうことか時限爆弾は爆破予告時刻の前なのに暴発してしまい,天功もろとも文字通りの大炎上である。それからは次々と見舞うアクシデントに天功の発するSOSも空しく,舞台となった日本ランドは阿鼻叫喚(あびきょうかん),ひときわ一谷伸江という女性タレントの甲高い叫び声がブラウン管の向こうで絶望的に響き渡る。
 
と,そこにいつもはダンディで遊び人風情な引田天功がドリフのコントよろしく髪は焼け焦げ顔を煤で汚して登場,脱出は大成功なのであった。
 
そんなある日,父が中古でワインレッドのジャガーを買って来て,聞けば,引田天功の愛車だったか,ないしはそれと同型だが日本に数台しかない貴重な車だとかいうことだった。当時のイギリス車だけあってオイル漏れがひどく,程なく売ってしまったが,「あの引田天功の」と考えるとワクワクした思い出が残っている。
 
引田天功の大脱出シリーズでオープニング映像に使われていたのが,十八番(おはこ)である水槽からの脱出術を観せるフーディーニの姿であったように記憶している。引田天功はフーディーニを師と仰ぎ,現代のフーディーニと名乗り呼ばれていた。
 
 

◆天才マジシャン フーディーニのもう1つの顔

 
ハリー・フーディーニ(Harry Houdini 1874-1926)は,現在でも,特にアメリカでは,奇術師の代名詞である。水責めや象を消す大掛かりなマジックなどで有名だが,各国警察に挑戦状を送り付け,まんまとその拘置所から脱出してみせたのは痛快だ。それとともに,そんな挑戦を受けた警察には古き良き時代の香りがする。
 
そのフーディーニが最愛の母の死によって流行していた降霊術に傾倒するが,手品師ゆえすぐにいかさまに気付いてしまい,亡き母に会いたい一心は裏切られ続けて,遂にインチキ霊媒師の手口を暴くサイキックハンターとなって活躍したのは,運命の皮肉としか言いようがない。
 
フーディーニは,楽屋を訪れた学生に腹を叩かせる芸を見せようとして不意打ちを喰らわされ死亡した。
 
フーディーニは,妻に,「死後の世界があるなら,必ず連絡する」と言い遺して,息を引き取った。
 
『フーディーニ!!!』(ケネス・シルバーマン,大田原眞澄・庄司宏子・高井宏子訳,アスペクト,1999)は,500頁を超すボリュームで,フーディーニの魅力を存分に伝えている。沢山の写真や資料が満載されている。もしも私のように彼に興味をお持ちいただけたのであれば,是非とも手に取ってご覧いただきたい一冊である。
 
 

◆映画“フェアリーテイル”

 
1917年ころのこと,イギリス(イングランド)のコティングリーという田舎まちで,いとこ同士の二人の少女,エルシーとフランシスが合計5枚の妖精の写真を撮ったことを,1920年の暮れ,ストランドという雑誌がクリスマス特集で報じた。世間では真贋(しんがん)をめぐって大論争となり,コティングリー妖精写真事件として,今日でも語り継がれている(*)。
 
 
この騒ぎを大きくした一因として,“シャーロック・ホームズ”シリーズの作者アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)が事件に深く関与し,写真は本物という立場をとったことが挙げられる。ドイルは,『妖精の出現』(井村君江訳,あんず堂,1998)なる書も著している。彼の父親は,妖精画家だった。そして,ドイルとフーディーニは心霊術を通じて親しい仲だった。
 
映画“フェアリーテイル”(Fairy Tale : A True Story , 1997)は,事実に忠実に事件全体を描きながら,エルシーの夭折(ようせつ)した弟をフィクションとして登場させることで,上質のファンタジーに仕上げている。観終わってあたたかい気持ちになれる作品でおススメである。
 
この映画の中でフーディーニは重要な役回りを演じている。史実としては定かでないが,ドイルを介して矛盾なくストーリーに組み込まれている。
 
エルシーとフランシスを招待した脱出ショーのあと,フーディーニは彼女たちに問い掛ける。「まだどうやってるか知りたい?」
 
そして,記者から「写真はホンモノと思うか」質問を受けて,彼女たちを両腕に抱きながら,こう答えるのである。
 
「私が許せないのは,子どもを失くした親の悲しみや苦しみに付け込んで,死んだ子と話をさせてやると持ち掛けて,金儲けをするような連中です。でも,彼女たちは違う。みんなを楽しくさせる。」
 
 

◆亡き人と語らう

 
死後の世界のフーディーニから妻に連絡は来なかったようだ。
 
わたしの父が先日亡くなった。
 
「お父さんに聞きたいことがあります。
 
あのお父さんが買ったワインレッドのジャガーは,引田天功の愛車だったのですか,それとも単に同じモデルだったということですか?
 
半分冗談ですが,そんな小さなことから,今流行りの哲学・思想とかレベルの高いことまで,僕と喃々(なんなん)としてください。そう,お父さんは昔からユングをよく勉強されていたけれど,最近アドラーがブームになったら,その波にもさっと乗って楽しんでましたね。
 
お元気だったころに,なぜだか,あるいは,どうしても,話せなかったこと,聞けなかったこともあります。
 
お父さん,いつかまたお会いしたいです。
 
そして,ふたりで少し語り合いませんか。」
 
 
 
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平沼直人(弁護士,医学博士)

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