コラム

    • 「最後のお願い」に安倍政権の限界が見えた?

    • 2017年07月11日2017:07:11:06:12:29
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

小池新党と安倍自民党が真正面からぶつかった東京都議選は、自民党の歴史的惨敗に終わった。一方、小池百合子知事が代表を務めていた地域政党「都民ファースト」は予想を大きく上回る55議席を獲得して都議会第1党となった。
 
安倍政権批判を繰り返してきた朝日新聞は「自民惨敗 過去最低」「『安倍1強』に大打撃」と大見出しで報じ、「安倍シンパ」とされる産経新聞ですら「自民、歴史的惨敗」という見出しを取らざるを得なかった。
 
こうなった原因はどこにあるのだろうか?
 
 

◆「丁寧な説明」はどこへ

 
自民党の安倍晋三総裁(首相)が街頭に立ったのは、投開票日前日(7月1日)の夕方の1回だけだった。それに先立つ2回は屋内での応援演説。「加計学園」による獣医学部新設や「森友学園」への国有地払下げといった安倍氏自身の関与が取りざたされる「疑惑」などについて、組織的な批判行動を起こされることを警戒したためだ。
 
会場に選んだのは、民主党からの政権奪還に成功した2012年12月の総選挙の際に麻生太郎氏(現・副総理兼財務相)とともに「最後のお願い」を行った秋葉原駅前だった。
 
縁起をかついだのと、有権者の半数以上を占める無党派層への浸透を可能にする「聖地」で、劣勢挽回をはかる狙いがあったのだろう。
 
安倍氏は演説の冒頭で、自らに対する「疑惑」報道や稲田朋美防衛相の「防衛省、自衛隊としても(自民党候補支持を)お願いする」発言、豊田真由子衆院議員(発覚後に自民党を離党)による秘書暴行・罵倒事件などを念頭に、「連日の報道により、『自民党は何やっているんだ、しっかりしろ』という厳しい言葉をいただいています。私も政権与党のリーダーとして、ご心配をおかけしていることに申し訳ない思いです」と述べ、一応は反省の姿勢を示した。
 
このあと、「疑惑」についての説明があるのかと思った有権者もいたことだろう。しかし、安倍氏の言葉は違った。
「でも、みなさん。私たちは負けるわけにはいかないんです。この東京を、日本をしっかりと守っていく責任があります」
政権担当使命論にあっさりとすり替えてしまった。
 
秘書を罵倒するヒステリックな音声まで流出し、ワイドショーの格好のネタになった「真由子さま」問題は、個人の適性・資質の問題だと片づけることもできる。だが、さきの国会終了を受けた記者会見で「丁寧に説明していく」と約束したはずの「疑惑」への言及はまったくなかった。
 
補助金詐欺容疑で家宅捜索を受けた学校法人前理事長の発言や、公的文書とはいえない「メモ」、組織的な天下りあっせんが原因で更迭された前文部科学事務次官の「一方的な指摘」(自民党関係者)だけを根拠に、「疑惑」がつくりあげられている――。
 
安倍氏がそう主張するなら、きちんと説明すればいい。マスコミ各社の世論調査でも説明不足との指摘が圧倒的だ。産経新聞社などの調査でも「加計学園」による獣医学部新設に関する政府説明が「十分だと思う」はわずか10・4%、「思わない」が84・8%にのぼった。「選挙演説で釈明するのは不利」という永田町の常識に安倍氏がこだわった結果といえる。
 
 

◆「やめろ」コールに「こんな人たち」

 
安倍氏はその後、東日本大震災被災地の復旧、安全保障関連法の成立をはじめ日米同盟戦略・外交安全保障政策の建て直しについて旧民主党政権を揶揄しながら言及。経済運営について、企業の倒産件数、高卒・大卒者の就職率、賃上げ率などを旧民主党政権時代と比較しながら自画自賛したうえで、働き過ぎを是正する「働き方改革」、給付型奨学金制度の創設など「人材への投資」などの政策遂行に取り組む考えを表明した。
 
旧民主党政権ができなかったことを安倍政権は実現しているとの自負は結構だ。だが、選挙演説はディベート(討論)の要素も必要とされる国会答弁とは根本から異なる。旧民主党を引き継ぐ民進党議員ではなく、国民を向いて訴えるべきだ。
 
この演説の間、安倍氏を批判するために集まったグループからは「帰れ」コールに続いて「やめろ」コールが・・・。
 
イラだった安倍氏は「あのように人が主張を訴える場所に来て、演説を邪魔するような行為を、私たち自民党は絶対にしません。私たちは政策を真面目に訴えていきたいんです。憎悪からは何も生まれない。相手を誹謗中傷したって何も生まれないんです。こんな人たちに負けるわけにはいかない。都政を任せるわけにはいかないではありませんか」と強調した。
 
「組織的な選挙妨害」(自民党関係者)との指摘もある。とはいえ、批判グループを「こんな人たち」と決めつけた発言を反安倍勢力は「逆ギレ」と断じる。
 
自民党支持者の中にも「ああいういい方はどうか」と失望感を抱いた人がいたのではないか。
 
「安倍1強」といわれながらも、週刊誌を含め安倍政権に批判的なマスコミや野党によって「印象操作」を重ねられてきた安倍氏に同情する向きもあろう。
 
しかし、たとえ、いわれなき批判であっても説明責任を果たそうと努力するのが、政権を担う者の宿命と言えるのではないか。
 
 

◆国民の信頼は取り戻せるのか

 
自民党の石破茂前地方再生担当相は都議選後の7月6日、自らの派閥の会合で、「疑惑」への安倍政権の対応について「立ち居振る舞いみたいなものに有権者はすごく敏感だ」と指摘したうえで、「われわれは国民、都民の方を向いて仕事していると思っているが、国民はそう思っていない。でなければ、あんな結果(都議選における歴史的惨敗)は起こらない」「要は、誰の方を向いて仕事をしているのか、本当に、国民、都民の方を向いてやっているのかということだ」と分析した。
 
政策的に正しいという信念があっても、国民に十分な説明を行い、理解を得たうえで遂行していく。そういう政治姿勢が不可欠だという意味だ。
 
国会で「安倍政権打倒」を旗印に「疑惑」追及に明け暮れ、テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正に対しては「監視社会につながる」「思想・内心まで取り締まりの対象とする違憲立法」といった一方的な批判を展開してきた民進党や共産党などではなく、国民を相手にした政治を行うべきではないか。
 
安倍氏自らも国会閉幕後の記者会見で、組織犯罪処罰法改正について「依然として、国民のみなさまの中に、不安や懸念を持たれる方がおられることは承知しております」と認めている。そのうえで、法の適正運用によって国民の理解は得られるとの認識を示したが、反対勢力にその論理は通用しない。
 
強い姿勢で「印象操作」はねつけ、自らの信じるところに従って政策遂行をはかる。こうした安倍氏の政権運営について「おごり」と決めつけるのは簡単だが、果たしてそれだけなのか。
 
安倍内閣支持率の低落と都議選における自民党の歴史的惨敗を目の当たりにして、自民党支持者からも「安倍政権は限界なのではないか」との声が出始めた。表立って聞こえてこないのは、「ポスト安倍」候補が見当たらないためだ。
 
とはいえ、国民の支持を失ったままでは、安倍氏自ら目標として掲げた2020年までの憲法改正がうたかたの夢に終わるだけでなく、政権維持もおぼつかなくなる。
 
安倍氏は本当に「初心」に帰ることができるのか。説明責任を果たせるのか。信頼回復のカギはそこにある。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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