コラム

    • 「出生数100万割れ」に鈍感な政治家たち

    • 2017年07月25日2017:07:25:13:42:17
      • 河合雅司
        • 産経新聞 論説委員

日本の政治家というのは、どうしてこうも呑気なのだろう。
 
厚生労働省の人口動統計月報年計によれば、昨年(2016年)の年間出生数は前年に比べて2万8,698人も減り、97万6,979人となった。今後、出産可能な女性の絶対数が減っていくことを考えれば、ますます下落していくことは避けられない。
 
100万人を割り込んだことだけでも〝日本消滅の危機〟であることは十分理解できるはずだ。首相が「非常事態」を宣言したってよさそうな局面なのに、それを求める声が上がることはなく、国会で大きな話題にされることはなかった。
 
「加計学園」の獣医学部新設計をめぐる問題などは国民の関心事であり、これを国会が取り上げることを批判するつもりはない。北朝鮮の核・ミサイル開発も我が国にとって極めて大きな脅威である。だが、出生数の下落というのは、核・ミサイルと並ぶ国家の危機だ。国の存続さえ危ぶまれる問題を正面から議論しようとしないのは与野党議員とも、あまりに鈍感だと言わざるを得ない。このまま少子化が続いたならば、どんな将来が待ち受けているのかという想像力が欠けているのだろう。
 
昨年の年間出生数を細かく分析してみると、さらに懸念される事実が明らかになる。母親の年齢を5歳ごとに区分してそれぞれの年代が何人出産したかを調べているが、これまで出産が多かった若い年代において減少傾向が強まっているのである。
 
具体的に数字を追いかけてみると、30代以下はどの年齢層も前年よりも出生数が減っている。最も減ったのが25~29歳の母親層で、1万1618人減であった。これを出生順位別にみると、第1子が6,385減、第2子は3,438人減、第3子以上は1,795人減だ。この年齢層は2014年にも前年比1万4,947人減っており、減少傾向はここ数年続いている。
 
25~29歳に次いで出生数を減らしたのが、30~34歳の9,958人減である。この年齢層も大きく減ったのは第1子で6,365人減だ。2人目、3人目ではなく、第1子をもたない人が増えているのである。
 
ちなみに、出生数の減少に拍車をかけたのが、団塊ジュニア世代を含む比較的女性人口の多い40~44歳で出生数が減ったことである。総数としては916人増となり、マイナスにはならなかったが、増加幅で見ると前年は2,952人増だから大きく縮んだ形だ。
 
この年齢層も第1子が減っている。17人増でぎりぎり増加とはなったが、前年は1,365人増だったので2桁も違う。団塊ジュニア世代が出産期から外れ始めたということである。
 
ただでさえ女性の絶対数が減っていくのに、若い世代に子供をつくらない風潮が広まれば、日本の少子化スピードはさらに速やくなる。それは、またも将来の母親になり得る女の赤ちゃんが減ることである。
 
内閣には、厚生労働相や少子化担当相、地方創生担当相といった人口減少問題や少子化対策を所掌する大臣がいるはずなのに、危機感は伝わってこないのはどうしたことか。
 
少子化対策は、いつも財源が課題となる。しかし、放置すれば国家は根底から揺らぐ。その対策は国家としての固い決意のもとに行うべきことである。青天井にとまでは言わないが、すべての国の事業に優先して歳入から相応の予算額を確保するのが当然であろう。
 
ところが、歴代政権は財源不足を理由に、お茶を濁すが如く中途半端な政策を続けてきた。いつ実現するか分からない消費税をたてにして、「政治家が引き上げを決断しないからできない」と言い訳のように繰り返している。
 
年間出生数が100万人を割る事態となってもなお、安倍政権がとろうとしていることといえば、「こども保険」や「教育国債」といった、とても〝王道〟とは言えない手法だ。何もしないよりはマシなのかもしれないが、国家の存亡につながる「静かなる有事」への対策を保険や国債に頼ってしまうことは、〝国家の姿勢〟として本当によいことなのだろうか。
 
政府が手をこまねいている間も、少子化はより悪い状況へと進んでいく。日本に時間があまり残されているわけではない。すでに日本人女性の3人に1人は高齢者である。2020年には女性の過半数が50歳以上となる。子供を出産可能な女性人口は年々、減り続けている。
 
とはいえ、2015年の国勢調査によれば、25~39歳の女性人口はまだ1,100万人近い。子供を産める女性それなりのボリュームであるうちに対策を講じなければ、効果は限定的となろう。この年齢層の女性人口は50年で半減してしまう。2065年の年間出生数は56万人弱になるとの見通しだ。ここまで減ってしまってから、手を付けようとしても間に合わない(このデータについては、拙著『未来の年表』(講談社現代新書)が詳しいので、そちらを参照して頂きたい)。
 
少子化対策については「すでに手遅れだ」といった悲観的な声もあるが、諦めてしまったのでは、この国は本当に無くなってしまう。遅くなればなるほど、打てる策も少なくなる。使い古されてきた言葉だが、今度こそ「真のラストチャンス」といった思いで、取り組むときだろう。
 
まず政府が行うべきは、なぜ若い年齢層の女性が子供を産まなくなったのかについて事情をよく調べ、対策に結びつけていくことである。
 
少子化はさまざまな要因が複雑に絡み合って起こる。各種の世論調査によれば、「経済的理由」を挙げる人が少なくないが、婚姻件数の減少も大きな要因だ。2016年は62万523組にとどまり戦後最少を更新した。総数の減少もさることながら、最近は結婚する人の高年齢化が進む傾向にある。
 
社人研の人口統計資料集によれば、2015年に妻となった51万2,892人のうち、40代以上は6万1,092人(再婚4万47人を含む)で、12%を占めた。婚姻件数には60代や70代になってから結婚した人も含まれており、統計に表れる以上に若い女性の婚姻は少なくなっているのである。
 
冒頭でも語ったように、少子化の流れを変えることは困難である。それがゆえに、対策は相当大胆なものでなければならない。筆者はかねてより第3子以上の子供に、1人あたり教育費などを対象した1,000万円規模の現物給付を提言してきた。これぐらいインパクトが強くなくては、「国家の意思」が伝わらないと考えるからだ。1,000万円規模の現物給付にとどまらず、子育て中の世帯に対しては税制面や、社会のあらゆるサービスを優遇するといった政策も講じるべきである。社会全体が子育てを全面的にバックアップしている姿勢が若い世代にメッセージとして広がることが重要なのである。
 
出生数の回復がなければ、社会はやがて続かなくなる。大胆な対策を一刻も早く打たなければ、日本の起死回生はない。
 
 
 
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河合雅司(産経新聞 論説委員)

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