コラム

    • 政治、経済、金融政策

    • 2017年09月05日2017:09:05:13:32:19
      • 長谷川公敏
        • エコノミスト

◆物価目標は重要か?

 
先日のジャクソンホールの会合で、イエレン米FRB議長、ドラギECB総裁は市場の大方の予想に違わず、今後の金融政策については言及しなかった。(注1)
 
ただ、FRBは前年比+2%の物価(CPIコア・以下同様)目標を達成していないものの、昨年12月に利上げに転じ、リーマンショック以降に「量的金融緩和」措置として購入した米国債等の売却も、年内には開始すると見られている。つまり、完全に「金融引締めモード」に転換したわけだ。(注2)
 
同様に、ECBも物価目標が到達されない中、近々金融引締めに転じる可能性が高い。
 
一方、同会合に出席した黒田日銀総裁は現地で記者会見し、「前年比+2%の物価目標」が達成されていないことや「景気動向が不安定」であることを理由に、引き続き金融緩和を継続するとしている。
 
ところで、日本だけではなく欧米各国の物価目標も達成されていないが、そもそも日銀にとって、「前年比+2%の物価目標」達成は重要なことなのだろうか。
 
日本銀行法第二条によると日銀の経済に対する役割は、「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」ことだ。日銀としては、「物価目標は重要だが、経済の健全な発展を促進するための手段に過ぎない」といえるだろう。
 
重要なのは経済だ。GDP統計や雇用情勢などの数値で見ると、黒田総裁就任以降の日本経済は、明らかに就任以前よりも順調に推移しているが家計消費は低迷しているなど、まだまだ不十分だ。ただ、日本よりは良いものの、米欧の景気回復も不十分なのだが・・・。
 
 

◆政治と経済

 
日本経済が順調なのは、黒田総裁就任の半年ほど前に発足した第二次安倍政権の経済政策が奏功したとの見方もある。政治は経済にどのような影響を与えるのだろうか。
 
英米で起きた2羽のブラックスワンの動向は、当初は当該国の命運を握っているように見えた。トランプ米大統領は当選後ほぼ1年経つにもかかわらず、相変わらず世界のリーダーとしての資質を疑うような言動を繰り返しており、ブレグジットは迷走している。だがブラックスワンは、今のところ金融市場のノイズ程度にしかなっていないようだ。
 
こうしてみると、先進国における政治と経済の関係は、少なくとも平時にはかなり希薄なようだ。ただ、日々変動する金融市場は政治の影響を受ける。とりわけゼロサムであるが故に投機的な為替市場は、地政学的リスクなどの様々な政治リスクが意識されると変動が大きくなり、長引けば経済に与える影響も無視できなくなる。(注3)
 
 

◆金融政策と経済

 
日銀短観で企業の業況判断、景気動向、企業金融判断を時系列でみると、業況判断は景気に先行し、業況判断は金融政策にリンクしていることが見て取れる。
 
結局、平時であれば「金融政策が経済動向に最も大きな影響を与える」といえるだろう。蛇足だが、1990年以降の日本経済の長期低迷の最大の要因は、どのような経済状況でも「金融引締めが是」であると信じている日本銀行の行動だった。
 
フェアに景気動向を判断する黒田日銀総裁は、来年4月に任期満了を迎える。同氏の続投も含めた後任人事がますます重要になってきた。
 
 
(注1)カンザスシティ連邦準備銀行が、ワイオミング州ジャクソンホールで、毎年8月に開催する経済シンポジウム。
(注2)中央銀行の政策担当者は、状況に応じて様々な発言をするものの、本音は「いつでも引き締めていたい」と思っているようだ。
(注3)先日、日本上空を北朝鮮のミサイルが横切った。「非常時の円買い」という意味不明の理屈で円が買われたが、変動は一時的だった。なお、東日本大震災発生時も、極めて不可解だが同様の理屈で発生直後に円が買われた。
 
 
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長谷川公敏(エコノミスト)

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