コラム

    • 「ハイテク・タウン」核に拠点型国家を目指せ

    • 2017年11月07日2017:11:07:10:12:54
      • 河合雅司
        • 産経新聞 論説委員

私が6月に出版した『未来の年表』(講談社現代新書)が、発売からわずか4カ月半で30万部を大きく突破した。1週間あたり2万部弱売れている計算である。出版元の講談社によれば、出版不況が言われる中で新書としては驚異的なことだという。
 
著者としては誠にありがたいことである。だが、有名作家やタレントの著書でもない書籍がこれほど多くの方々に読まれているというのは、それだけ人口減少問題に関心を持つ人が増えてきた証拠だともいえる。
 
この問題には、みんな漠然とした不安感を抱いていた。安倍晋三首相にもそんな危機感が募ったのか、鈍かった政府や国会内の議論をよそに、先の衆院選で少子高齢化を北朝鮮問題と並ぶ「国難」として位置づけた。衆院が「少子高齢問題の解決策」を問うて解散されたのは、憲政史上初めてのことである。
 
だだ、政権与党の自民、公明両党がその解決策として示したのが「教育・保育の無償化」であったのには、正直、拍子抜けした。国民が求めているのは、人口が激減する一方で、社会の年齢構成が著しく高齢者に偏ることへの対応であり、そうした状況に耐えうる大胆な社会の作り替えだ。もっとダイナミックな政策について具体的な道筋に語ることであった。
 
「国難」と大上段に構えてはみたものの、グランドデザインを描き切れていないということだろう。
 
まず認識しなければならないのは、人口減少も少子化も簡単には止められないという「不都合な真実」だ。過去の少子化の影響として、今後は子供を産める年齢の女性が激減していくからだ。われわれは縮小社会において、〝どうやって豊かさを維持していくか〟ということに、国を挙げて知恵を絞っていかざるを得ないのである。
 
少子高齢化はさまざまな形で、日本社会を歪めていく。国内市場は規模が小さくなるだけでなく、社会の年齢構成が極端に高齢者に偏るため、消費者の嗜好は変わり、消費量も少なくなる。昭和時代を成功に導いてきた「大量生産・大量販売」というモデルは、そう長くは続かない。代わって伸びてくるのが付加価値の高い〝こだわりの一品〟を提供するモデルだ。世界が必要として、かつ日本人でなければ作れないようなものを必要とする人々の元に直接届けていくことだ。
 
過去の成功体験にいつまでもしがみつき、「大量生産・大量販売」というモデルを維持しようと無理を重ねている人々がいまだ存在する。だが、同じエネルギーをかけるならば、社会の作り替えに振り向けていくべきであろう。
 
一方で、人口問題が難しいのは地域によって進み具合が大きく異なる点だ。少し前に〝地方消滅〟という言葉が大きな話題となったが、それは東京一極集中という成功モデルも破綻に向かわせる。東京圏は地方から若い世代を吸い寄せることで成長を続け、日本経済の推進エンジンとなってきた。ところが、ここにきて東京圏への日本人住民の流入に陰りが見え始めた。
 
吸い寄せるに十分な人数の若い世代が、地方にいなくなってきたということだろう。
 
「大量生産・大量販売」、「東京一極集中」という、これまでの成功モデルが人口減少時代にはうまく機能しない以上、古き価値観をうち捨てて新たな成功モデルを確立するしかない。
 
日本にはもう一つ大きな危機がある。これから80代以上の人口が増えることだ。それは、認知症とまでは診断はされないが、加齢に伴って判断力が衰える年齢層が激増することでもある。自治体への書類提出に戸惑ったり、家の中にあっては瓶のふたが開けられないといったような日常生活の些細なことに手間取ったりする人は増えてきている。
 
社会保障費の伸びの抑制が避けられない現状において、こうした人々への支援をすべて公費で賄うことは現実的ではない。とはいえ、こうした年齢層の暮らしぶりに何も対策を講じないのでは、買い物や通院をはじめ社会のさまざまなシーンで混乱が広がることだろう。
 
ではどうすればよいのか。こうした課題が山積する中で、日本の豊かさを維持しようと思えば、戦略的に縮み、身の丈にあったコミュニティー社会を築いていくしかない。「拠点型国家」を目指すことである。
 
「拠点型国家」とは、地域ごと拠点を設けて人々が集まり住む社会の構築である。人口が減り行く中で、地域ごとの「にぎわい」を維持し、行政サービスの集約化によって高齢者の暮らしを効果的に支えられるようにするのだ。
 
これまでは東京が最先端と決めてかかり、東京がつくったルールや基準にあてはまらなければ、「古い」、「遅れている」と考える人が少なくなかった。
 
人口が激減しし、東京圏が著しく高齢化する時代においては、「東京集中」と「拠点化」とをダブルトラックで進めていくことである。各拠点では、こうした成功モデルとは全く異なる〝新たな成功モデル〟を実現する。人口減少日本にあっては、全国各地に設ける拠点のイメージは、人口500人の村ならば、そこに住む500人の村人が豊かに暮らしていけるだけの収入を確保するといったものだ。そこには500人が食べていけるだけの産業があり、企画立案から販売、顧客との交渉まですべてのことを500人の能力において対応をしていくのだ。
 
とはいえ、現在バラバラの地区に住んでいる人々を「拠点」に集約化するのは簡単ではない。そこで、各拠点の核となる「スマートシティー」の建設を提言したい。
 
建設といっても更地に一からつくるということではない。まずは、地方都市の中心市街地の一角を特区とするのだ。その特区を日本の科学技術力を結集したハイテクエリアとして再生し、誰もが住んでみたくなる町とする。
 
例えば、そのエリア内では無人自動車しか認めない。人々は人工知能(AI)が管理する「スマートハウス」を住み、ハイテク機器を使った健康面の管理など、極めて便利な生活を満喫できるようにするのである。
 
先にも述べたように、これからは80代が増え続け、しかも1人暮らしが多数を占めるようになる。そこで、このスマートシティーの住民は、75歳以上の高齢世帯を対象にする。ハイテク技術を活用することで、高齢者が1日でも長く自立して暮らせるようにするのである。
 
だが、高齢者が入居できるようにするには、家賃水準に抑制しなければならない。ならば、ハイテク器機メーカーの実証実験の場として企業の協力をとりつけることだ。もちろん、住民にはあらかじめ説明しておく。メーカー側にとっては、実用化に向けたデータを収集でき、開発は一段と加速するメリットがある。それは日本の経済成長につながり、雇用も創出されよう。高齢者の自立時間が長くなれば、社会保障費の抑制効果も期待できる。
 
こうした「スマートシティー」を核として、その周囲に若い世代や働く世代が住む拠点都市を、政府が主導する形で実験的に何カ所か全国展開するのである。
 
こうした夢のある構想を示さなければ、「この国難に立ち向かおう」という国民的な機運は生まれてこない。
 
 
 
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河合雅司(産経新聞 論説委員)

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