コラム

    • 平成30年診療報酬改定を巡る駆け引きと今後の展開

    • 2017年12月26日2017:12:26:10:46:15
      • 佐藤敏信
        • 元厚生労働省勤務・久留米大学教授

平成30年診療報酬改定における、細かな点数設定等はこれからの話なので、医療関係者は今後の動向を見守っておられることと思う。しかし、政治的な駆け引きも含めて、前半戦すなわち改定にかかる根本的な方向や考え方については既に結論が出たと言える。
 
前半戦の特徴を一言で表すと、「異例づくし」ということになる。財務省から、厚生労働省をはじめとする関係者への「メッセージ」が財政審の建議であるとすると、その社会保障関係の資料からして異例だった。客観的なデータでお示しすると、表紙を含めて実に114枚。あまりの量に驚いて、前回改定直前のものを見たが、42枚。その前の改定は37枚だった。これだけでも財務省の意気込みが感じられようと言うものである。
 
そしてさらに驚いたのはその内訳である。これも客観的に「量」で示そう。医科が21枚はいいとして、調剤が24枚、薬価が10枚である。医療費全体の中でのシェアを考えても、財務省のこの調剤についての力点の置き方が知れようというものである。
 
 
実際の「記述」も強烈である。『(調剤)技術料部分の伸びが、入院医療費や外来医療費と比較して大きい』に始まり、人口当たり世界一の薬剤師数、コンビニエンスストアより多い調剤薬局などの記述が並ぶ。その上で、院外処方と院内処方のコスト差をグラフで示し、『薬局のどのような機能を評価して、院内処方と比べたコスト差が生じているのか明らかではない』と断じている。
 
次に、売上や内部留保の観点から、大手調剤チェーンの経営状況の好調ぶりを強調している。関連して大手調剤チェーンの不正等についてもスライド丸々一枚を費やしている。私も30年以上省庁で勤務したが、事件・事故は別として、政策を論じる場面で、実名を挙げて不正等を糾弾した例はあまり見ない。
 
さらに、薬剤師の業務の実態や調剤技術の進歩についても触れ、結論としては「調剤料のさらなる適正化(引き下げ)」を強調している。
 
付言しておくと、この資料公表から時期をおかずに、週刊東洋経済に「薬局の正体」なる特集が掲載された。内容は、先の資料と酷似しており、何らかの意図を感じずにはいられない。
 
 
それにしても、これほどに緻密で、しかも大部の資料を作成できた背景には、財務省が長年にわたって厚生労働省保険局その他へ若手職員を送り込み、その結果として幹部に医療や介護の事情通が増えたことも大いに影響しているだろう。
 
さて、財政審だけではなかった。医師サイドからも批判の声が上がった。それも厚生労働省の社会保障審議会医療部会の場である。12月6日の「2018年度診療報酬改定の基本方針(案)」について議論した際に、調剤報酬やセルフメディケーションの在り方を巡って議論が紛糾したというのである。これまで、医師会、歯科医師会、薬剤師会のいわゆる三師会の間では、考え方に多少の差があったとしても、政府への要望などの場面では一致団結し、互いを非難するなどということはしないというのが暗黙の了解だった。それがついに公的な場面で『院内処方や病棟内薬剤師業務に調剤財源を充てるべきだ』などの主張が出るまでに至ったのである。
 
驚きはそれだけにとどまらなかった。改定率の決定とその時期、そこに至るプロセスである。冒頭にも書いたが、前半戦の最大の山場は改定率と各項目への配分割合である。まずその時期が例年に比べて早かった。日経18日電子版からは、いわゆる厚労族などの頭越しに、首相と財務大臣、それに横倉日本医師会長とのほぼ三者間で決定したかのように読み取れる。
 
 
 
昭和の話をしても仕方がないが、以前なら大蔵原案の決定のタイミングを見ながら、それも暮れの押し詰まったところで、いわゆる「天の声」という儀式ともいえるほどの厳かさ、意地悪に言えば勿体のつけ方で決定されていたので、実にあっけなかったとも言える。当時とは登場人物やプロセスに差はあるものの、この記事、久々に生々しい内容で、財政審その他では大芝居を仕掛けた財務省も、最後の局面では、ここ数年何度も目にした「官邸一強」に押し切られたのかとも想像できる。
 
改定率の公表にも驚きはあった、実は財政審の資料を丁寧に読むと、慣例であった医科、歯科、調剤の比、1:1.1:0.3の比にも切り込むのではとの観測もできたのだが、結果は従来通りとなった。ところが、改定率の公表ペーパーの最後の2行が衝撃だった。『なお、上記のほか、いわゆる大型門前薬局に対する評価の適正化の措置を講ずる。』とある。この紙は、そもそも率を公表するものであり、配分のありようまで書くものではない。そこに具体的に書き込まれている。おそらくは財政審をはじめとする関係者からの強烈な指示があったものと推測される。大臣折衝のあとの厚生労働大臣の記者会見では、薬価調剤を中心にこの件に関しての丁寧な説明があったとも聞く。
 
さて、これからは後半戦である。改定率の公表ペーパーの「大型門前薬局に対する評価の適正化の措置を講ずる。」の部分は、個別の調剤技術料や加算にどう反映されていくのだろうか。ここまでの中医協資料を見る限り、納得できるような方向性が示されているとは思えない。指摘しておくと、先のビジネス誌はもちろん、ネット上の記事など、怒涛の調剤バッシング的報道が続いたことで、患者・国民は「実態」を知ってしまった。彼らが今後調剤薬局を選択する上で、どういう行動をとるのかを考えながら、その落としどころを探っていかねばなるまい。
 
実は急性期病院を巡る提案にも驚いている。現行の7対1病床問題について、財務省の指摘に上手に回答しながら、同時に現行の入院基本料が抱えている問題自体に、「業界」の反発を恐れず対応しようとする姿勢が窺えるからだ。先はまだ長いが、今回の改定は最後の最後まで驚きの連続なのではないか。
 
 
 
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佐藤敏信(久留米大学教授、元厚生労働省勤務)

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