コラム

    • 医師も労働者

    • 2018年01月30日2018:01:30:06:38:16
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

労働者について「労働を提供する代わりに労働に見合う賃金を受け取り、賃金を支払う経営者と対極にいる人」と教えられた。だが、いまも「労働者」と呼ばれるのを嫌う勤務医が少なからずいる──そんな思いがよぎる会議が続いている。
 
 

◆まるで労組のスローガン

 
1月15日、厚生労働省医政局長の諮問機関である「医師の働き方改革に関する検討会」が主に勤務医の労働時間を短縮するための緊急的な取り組みの骨子案をまとめた。
 
骨子案の大枠は、
(1)(勤務体制を見直したりして)労働時間管理の適正化に向けて取り組め、
(2)36協定を自己点検せよ、
(3)労働安全衛生法に定めた仕組み(衛生委員会の設置など)を活用せよ、
(4)医師の業務を他職種に移管して負担を減らせ、
(5)女性医師などを支援せよ、
(6)医療機関(診療科)の状況に応じて労働時間短縮に向けて取り組め──
ということ。
 
「緊急的」という割には、課題点を整理して並べただけ。かつて労使協調を旨とする大手労働組合が掲げていたスローガンにようで、切実感、切迫感がない。
 
 

◆「36協定」って?

 

例えば、(1)の労働時間管理 具体的な取り組み例として「ICカードやタイムレコーダー、上司が確認して医師の在院時間を的確に把握する」とある。部下の在院時間さえ把握していない上司がいる?それって、管理職として失格では?一般企業ではあり得ないだろう(まれにある。電通やNHKなどでは過剰残業を上司が黙認して問題になった)。
 
(2)36協定 協定があってもなくても、医師に所定の時間外労働時間数(残業時間)を超えないよう自己点検を促しているが、そもそも医師本人も医療機関も勤務医が労働基準法第36条の対象であることを知らないのでは?という疑念がわく。
 
(3)労働安全衛生法 「衛生委員会や産業医など既存の産業保健の仕組みが十分に活用されていない実態を踏まえ……」とある。一般企業でも形骸化が進んでいるのは確かだが、命と健康を守るべき医療機関がそんな状態でよいはずがない。
 
 

◆まっとうな要求

 
(4)業務移管 医師の業務を他の職種へ移して軽減する。可能な範囲で看護師などの医療スタッフや事務職員へ移し、医療に専念できるようにしたい。問題は移管先のスタッフが労働荷重にならないかどうかだ。どこの医療機関でも医療スタッフなどの不足が深刻化している。そんな状況下で安易に「業務の移管を」で済む問題ではない。特に医療行為に関わる業務の移管には研修や処遇改善が不可避だ。時間もカネもかかる。言いっ放しは許されない。
 
(5)女性医師などへの支援 女性医師が仕事と出産・育児を両立させるには配偶者の意識改革や保育所の整備など国レベル・地方自治体の対策がベースにならなければならない。医療機関にキャリアを阻害しないよう促すだけでは何も解決しない。
 
(6)医療機関の状況に応じた労働時間短縮 具体的な取り組みとして「勤務時間外に緊急でない患者の病状説明などの対応を行わない」「連続勤務時間数を考慮した退勤時刻の設定」「複数主治医制の導入」「医療機関・診療科の特性の踏まえた取り組み」などを例示している。至極真っ当な提案のようだが、担当医不足のため診療科を休止・閉鎖を余儀なくされている医療機関、それに残された医師はどう思うだろう?「医師不足」の実態を認めず、「医師の偏在」を声高に主張しているのはどこの誰だ?
 
医師も労働者だ。職業に貴賤はないから“全職同一賃金にすべきだ”とは言わないが、勤務医は給与や手当などの自分の処遇を愚痴るだけで終わらせず、過酷な勤務実態など職場環境の改善に声を上げるべきだ。労働者として当然の権利と要求だから。
 
 
 
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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