コラム

    • 「のんびり社会」への転換のときだ

    • 2018年02月20日2018:02:20:05:49:54
      • 河合雅司
        • 産経新聞 論説委員

かつて「夫婦と子供2人」が日本の標準的世帯モデルとされ、地方などでは3世代同居も珍しくなかった。
 
ところが、最近は、「広い自宅」に1人で暮らす高齢女性の姿が目立つ。その多くは、子供たちが成人して独立し、さらに夫も亡くなった人である。平均寿命が延び、「1人になってからの時間」が長くなったのだ。
 
生涯未婚率は上昇している。若い頃から独身だった人が高齢化すれば、さらに数字は大きくなろう。国立社会保障・人口問題研究所の推計では2015年の高齢者に占める1人暮らしの割合は男性14.0%、女性21.8%だが、2040年には20.8%、24.5%に上昇するという。
 
1人暮らしでなくとも「夫婦とも高齢者」という世帯も増える。世帯主が65歳以上という世帯が全世帯に占める割合は2040年には44.2%(2015年は36.0%)となる。高齢者の「高齢化」も進むため、65歳以上の世帯主に占める75歳以上の世帯主の割合も54.3%(同46.3%)に膨らむ。
 
誰しも加齢に伴い、若い頃に比べれば運動能力や判断力が衰えるものだ。80代にもなると日常生活に支障が出始めことが増え始める。子供世帯が近居していればよいが、遠く離れた都会に就職していたり、そもそも子供がいなかったりというケースでは、何かあってもすぐに駆けつけてくれる親族がいない。自動車の運転免許を持っていなかったり、返納してしまったりすると買い物に行くことさえ困難になる。
 
こうした高齢者にとって頼りになるのが、徒歩圏内にある地域密着型のスーパーマーケットだ。高齢者たちの集いの場になっている店舗もある。だが、小規模のスーパーは経営的に厳しい環境にさらされているところが少なくない。
 
コンビニエンスストアなど同じ地域内にある他の小売業との激しい競争にさらされる。さらに郊外の大型ショッピングセンターとも戦わなければならない。郊外の大型店の場合、巨大な駐車場を完備し、周辺にレストランや専門店などが進出して店舗集積地となっているところも多い。休日にもなると購買力のある若い世代が、まるでレジャーを楽しむように集まってくる。こうした傾向のあおりを受け、地域密着型スーパーはますます高齢客中心となっていく。高齢者の場合、食も細くなり、そんなに多くの消費を期待できるわけではない。高齢者の集いの場となっている店舗ほど、客数の伸びに比して売り上げは伸び悩むというジレンマに陥りやすい。
 
地域密着店の中には、「移動式スーパー」として活路を見出しているところもあるが、こちらも苦戦続きだ。買い物弱者対策としてNPO法人や社会福祉法人などが手掛けているところもあるが、これらには国や地方自治体が補助金などを出して支援を行っているケースも多い。総務省が2017年に公表した「買物弱者対策に関する実態調査」によれば、2016年時点で継続中の193事業のうち、106は赤字経営だった。
 
「黒字または均衡」と答えた87事業のうち30は補助金などで赤字補填をしており、実質的には7割にあたる136事業が赤字経営だったことになる。中山間地域や過疎化が進んでいる地域を中心に、利用者数や売り上げが伸び悩み、2011年度から2015年度の5年間に31事業が継続を断念し終了していた。
 
徒歩圏内に小売業がなくなれば〝買い物難民〟になる人も出てくるが、政府の対応は総じて鈍い。それどころか、驚くばかりの意見も聞かれる。
 
例えば「情報通信技術が進歩し、ネットショッピングを利用して店舗に行かない人も増える。自宅で映画を見るので映画館に行かないとか、ネット決済を利用するのではないか」(某省幹部)といった意見だ。
 
確かに、総務省「家計消費状況調査結果」をみると、2人以上の世帯におけるネットショッピングを利用する世帯の割合は、2002年の5.3%から2016年には27.8%に伸びた。1世帯当たりのネットショッピングでの月間支出総額(利用した世帯に限る)は3万678円である。
 
現役時代にパソコンを使ってきた経験のある高齢者は増えてきており、今後はインターネットの利用に抵抗感がないという人は増えるだろう。高齢者からは「お米やミネラルウォーターなどは、車で買いに行っても重くて大変だったが、ネットショッピングならば価格も安く、自宅まで届けてもらえるので大変に助かる。買い物に行く回数は確実に減った」という声も聞かれる。某省幹部が指摘するように、映画や銀行決済などといったサービスはインターネット利用が当たり前となるかもしれない。
 
とはいえ、ネットショッピングが〝買い物難民〟の解決策になるかといえば、怪しいと言わざるを得ない。というのも、少子化の影響で商品を運ぶ人の確保が難しくなるとみられるからだ。ネットショッピングの品揃えやインターネット環境を整えたところで、運ぶ人が確保できなければ商品は客の手元に届かない。
 
一方で、ネットショッピングが急速に普及すれば、小規模スーパーなどには大打撃だ。地域密着型スーパーの多くが撤退した後に、配達業の人手不足が深刻化してネットショッピングまで機能しなくなったのでは、〝買い物弱者〟はいよいよ困る。
 
こうした懸念を口にすると、決まって出てくるのが「ドローンによって運搬すればよい」という解決策だ。だが、これも現実的とは言い難い。ドローンが運べる荷物の大きさや量には限度がある。そもそも、日本中に多数のドローンが飛び回る社会を想像していただきたい。歩行者や走行中の自動車や電車にぶつかりはしないのか。危なかしくって、おちおち散歩にも出掛けられなくなることだろう。
 
ドローンがダメなら自動車と言わんばかりに「自動無人運転技術が確立すれば、配送の人手を確保せずに済むようになる」という〝頼もしいアイデア〟を熱く語る人も少なくない。
 
だが、そんな便利な技術が実用化し、低価格で誰もが利用できるほど普及するレベルに達するのはいつのことか。仮に、ただちに普及することになったとしても、自動無人運転のトラック自体が荷台から商品を降ろし、戸別の玄関先まで運んでインターフォンを押せるわけではないだろう。
 
そうでなくとも日本の高齢化スピードは速い。技術が普及するのを待っている間も、高齢者の高齢化は刻々と進んでいく。15年後には「7人に1人が80歳以上」というきわめていびつな社会が予測されている。あまり技術開発に期待すると、間に合わなかったときに大変なことになる。
 
むろん、いつの時代も技術開発が「未来」を切り開いてきた。とはいえ、人口減少や高齢化が進む時代においては、何でもかんでもテクノロジーに頼むことは危うい。技術開発の推進と並行して、激増する80代が自宅近くのスーパーマーケットで買い物できるようにするにはどうしたらよいのかにも知恵を絞らなければならない。
 
「効率性」や「拡大」に大きな価値を見出してきた社会から、「少しのんびりした社会」へと転換を図るときがきている。
 
 
 
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河合雅司(産経新聞 論説委員)

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