コラム

    • 「森友問題」ばかりが政治じゃない――北朝鮮核危機にも取り組め

    • 2018年03月27日2018:03:27:05:25:29
      • 榊原智
        • 産経新聞 論説副委員長

学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる財務省文書の改竄は、看過できない問題である。行政活動の基盤をなす公文書の改竄がまかり通れば、国家の土台が揺らいでしまう。改竄した偽文書の国会議員に対する提示は立法府を蔑ろにするもので許されない。事実関係をきちんと解明し、けじめをつけるべきである。政治と行政機関に対する国民の信頼を回復することが欠かせない。
 
そのような認識を披露した上で指摘したいことがある。それは、日本の「政治」や「政治をめぐる議論」が、森友問題一辺倒のようになってしまって日本は大丈夫なのか、という点だ。
 
戦後最も厳しい安全保障情勢を招いている北朝鮮核危機の問題でさえ、後景に押しやられている。今から4月の日米首脳会談までの数週間は日本の安全保障にとって極めて重要であるにもかかわらず、である。せめて森友問題と同じくらいの情熱を注げないものか。
 
トランプ米大統領が米朝首脳会談に応じると表明した。本当に実現すれば、この会談の結果、北東アジアひいては世界の戦略環境が根本的に変わるかもしれない。会談でトランプ氏が何をものさしにして振る舞うか。それが日本の国の生存と繁栄、国民の安全に大きく関わる。
 
そうである以上、4月の日米首脳会談は、日本にとって正念場になる。安倍晋三首相は、各国首脳の中でトランプ氏と最も良好な関係を築いた人である。首相が、米朝首脳会談に臨むトランプ氏にどのような働きかけをすべきか。政府や与党はもとより、日本は挙げて知恵をめぐらせ、その成果を携えて首相が訪米するのが望ましい。
 
日本は国の存立と国民の安全のため、北東アジアをどのような状態にしたいのか。または、どのような状態は受け入れられないと考えるのか。安倍首相はそれをトランプ氏に説いて得心させなければならない。
 
日本の政治は、自国と国民にとって望ましい北東アジアや世界の姿を構想し、追求しなければならない。もちろん、トランプ氏にすがるだけではだめである。日本が責任ある国家、米国の同盟国として、どのような役割を果たすかも伝えなければならない。
 
日本を守るために欠かせない核抑止態勢の確保とそれを基盤とする日米同盟をどう考えるか。
 
もし、米国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)による対米核攻撃能力の放棄だけを北朝鮮に求める妥協に走れば、日本には最悪である。米国の「核の傘」があるから大丈夫だと言われても安心できない。日本を犠牲にした「偽りの平和」であり、強固な日米同盟を信じることは難しくなろう。それは絶対に避けるべきだとトランプ氏に理解してもらう必要がある。
 
日本が安全保障上脆弱な立場に置かれ、日米同盟の信頼関係が損なわれれば、喜ぶのは北朝鮮だけではない。中国の戦略的地位をひどく高めることになる。中国は日本に対してさらに強気の行動に出てくるだろう。南シナ海問題も同様である。日米同盟が弱まれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、覇権主義的な中国になびいていくことにもなりかねない。北朝鮮核危機への舵取りを誤れば、中国の脅威を高めることにもなる。
 
韓国の動向も見過ごせない。在韓米軍の撤収や大幅縮小へと事態が動き、米韓同盟が空洞化するかもしれない。韓国は、中立を保つ気概も国力も持たない。韓国が親中に傾き、親米、日米同盟側だったという冷戦以来の前提を壊したらどうなるか。対馬が「最前線」となる。日本は南西諸島と朝鮮半島の2正面から脅威にさらされるようになる。
 
北朝鮮といえば、日本人拉致問題がある。日本人被害者全員の帰国なしに日朝関係改善はあり得ず、日本が対北朝鮮制裁を緩めたり、資金提供をすることはできない。今は、日本がその原則を鮮明にすべき時期にあたる。
 
もし、米朝首脳会談が決裂し、核危機の外交的解決が遠のいた場合に備える必要もある。万一の有事や日本国内における破壊工作・テロを防がねばならない。過ぎていく毎日が貴重な時間であるという認識を共有したい。
 
北朝鮮核危機に加えて、覇権主義的な中国の問題、憲法改正、働き方改革、通商問題を含むトランプ米政権との間合いの取り方など、日本の課題は山積している。
 
日本の「政治」や「政治をめぐる議論」は、なぜこれらの問題に熱心ではないのだろう。首をかしげるばかりである。
 
 
 
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榊原 智(産経新聞 論説副委員長) 

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