コラム

    • 官邸一強の背景にあるもの その2

    • 2018年04月17日2018:04:17:08:52:31
      • 佐藤敏信
        • 元厚生労働省勤務・久留米大学教授

―内閣人事局だけが原因じゃない、財務省の忖度―
 
 

◆はじめに

 
筆者は昨年、国家公務員の側から見た「官邸一強」の背景について書いた。その大略は、①2004年の小泉政権下の三位一体改革で、補助金の配分という、力の源泉の一つを失ったこと、②官邸が官僚の人事に切り込んだこと、とりわけ内閣人事局を創設したことである。
 
本稿では、このうちの②について追記してみる。内閣人事局が指定職候補者やその部下たちに、相当の意識・行動の変容を起こしたことは疑いようもない。森・加計を巡る各種マスコミの解説の中でも、このことが強調されている。
 
 

◆再就職等の監視

 
昨年の時点で筆者は触れなかったが、実は、国家公務員が再就職に至るまで「監視されている」ことも重要なポイントであろう。内閣人事局創設の陰であまり話題にはなっていないが、既に2007年の国家公務員法の改正により、内閣府本府に「再就職等監視委員会」が創設されている。  
 
内閣府のサイトによれば「再就職等監視委員会は、中央人事行政機関である内閣総理大臣の権限委任を受けて、 再就職等規制(他の国家公務員・元国家公務員の再就職依頼・情報提供等規制、現職国家公務員による利害関係企業等への求職活動規制、再就職者[元国家公務員]による元の職場への働きかけ規制)の監視機関」とある。
 
同時に、再就職情報の届出制度もある。管理職職員の経験がある者は、離職後2年間の再就職について、内閣総理大臣(内閣人事局)へ届出をすることとなっている。
 
このように、官邸は、一定の職位にある者の人事・昇進に目を光らせ、その後の再就職に関しても事細かに要件を設定し、監視の目を光らせているのである。
 
 

◆細る再就職先

 
さて、こうした組織の創設と並行して、彼らの「行先」の一つも塞がれてしまったのである。読者諸氏の記憶には残っていないかもしれないが、2008年12月に施行された公益法人改革が関係している。解説をしておくと、それ以前は、省庁その他の公的部門だけでは完結できないような業務を関連の財団法人等に委ねる。そしてそのための補助金を支出する。さらに、必要に応じて退職する国家公務員が、理事、事務局長に就任し、その業務を支援するという構図であった。そのため、しばしば非効率な運営がなされているとの指摘があった。
 
同改革によって、省庁からの補助金の縮減あるいは廃止が進められ、その所管もそれまで関係各省庁の各部局課にあったものが一括して内閣府に移管された(主務官庁制廃止)。これによって、多くの財団は運営に困窮し、省庁からの退職者を受け入れる余裕もなくなった。こうして各部局課の影響力も急速に低下するか、霧消した。
 
そうなると、国家公務員たちの再就職先は、消去法で考えて大学や研究機関しかなくなる。それもキャパシティーに限りがあるから、いずれは飽和する。余談だが、文部科学省の場合は、この大学等が関係企業に該当するから、一定の年齢以上の現役職員の心中は察して余りある。
 
 

◆今回の森加計問題との関連は

 

昨年、筆者は、こういう状況にあって官僚の士気の低下が危惧されると書いた。では、今回の森加計事件も、そうした一連の措置によって財務省の官僚たちの士気が低下しているからなのだろうか。結論を先に言えば、筆者はそればかりではないと考えている。おそらく、消費税増税を巡る官邸との長きにわたる軋轢があってのことだろうと思う。  
 
読者諸氏も感じておられると思うが、財政再建やその方途としての消費増税は、総理や政権与党には歓迎されてこなかった。国民の支持を失うからだ。2015年9月27日付の日経新聞に掲載された図をご覧いただくが、大平総理の一般消費税構想以来、増税を実施した場合はもちろん、口にしただけでもその内閣は退陣してきた。こうしてみると、近年では、第二次安倍内閣だけが退陣の憂き目にあってないということになる。
 
 
資料:日本経済新聞 2015年9月27日
 
そしてこの第二次安倍内閣においても、総理は、口を開けば財政再建と消費増税を持ち出す財務省に辟易していたと言われる(2015年5月18日付・産経新聞)。そして同年6月30日には、「財務省が“安倍官邸”に完敗」との見出しが踊る。記事中にもある通り、安倍官邸とそれを支える経産省グループの中では、成長すれば増税は不要で、逆に増税すれば景気は一時的とは言え低迷するとの考えが主流だからである。
 
 

◆根底には憂国の思いがあったはずだが

 
こうした中にあっても、財務省は、これまで粘り強く、財政再建=プライマリーバランス黒字化を目指し、総理や官邸にも訴え続けてきた。その際、少しでも国民や政権与党の不興を買わぬよう、仮に増税するとしても、単なる財政再建ではなく、長寿社会を乗り切るための社会保障の充実に充てるのだと説明してきた。
 
しかしながら、実際には財務省は安倍総理から疎まれ続けた。そうした中で起こった今回の一連の話。財務省の胸中を推し量ると、こういう局面でこそ「忖度」し、少しでも総理の歓心を買いたいとの思いではなかったか。つまり、単なる保身ではなく、(彼らの信じる)あるべき財政運営の完遂のための忖度だったのではと思う。しかしながら、これまでのところは逆効果に作用し、マスコミや国民まで敵に回す結果となった。
 
 

◆おわりに

 
一連のことは、時間の経過とともにゆっくりと収束していくのか、それとも巷で囁かれる歳入庁の創設を名目にした、新たな財務省「分割」にまで進むのか。財務官僚の、能力だけでなく高い志までが評価されなくなるとすると、一抹の寂寥感や不安を覚えるのは筆者だけだろうか。
 
 
 
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佐藤敏信(久留米大学教授、元厚生労働省勤務)

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