コラム

    • 愚民政策

    • 2018年05月15日2018:05:15:05:59:47
      • 平沼直人
        • 弁護士、医学博士

◆寄らしむべし,知らしむべからず

 
朝,起きて,新聞を広げる。プロ野球の記事が多過ぎやしないか。断っておくが,私は野球少年だったし,今でもプロ野球を楽しんでいる。
テレビをつければ,アイドルとキャラクターが出過ぎやしないか。断っておくが,私はテレビっ子だったし,今でもテレビが好きだ。
それにしたって,民度を低く設定した番組が溢れている。あれは,いったい何なんだろう。あまりに大衆迎合的な弁護士や医師の肩書を持つコメンテーターが求められるセリフを喋っている。あれは,いったい何なんだろう。
こんなのばかりに付き合っていたら馬鹿になってしまう。
我々はもっと啓蒙されたいはずだ。
 
「寄らしむべし,知らしむべからず。」
江戸時代の統治思想として学校で教えられた。民には頼りにされなくてはならないが,民に知らせてはならない。
愚民政策は現代でもなお続いている。
 
子曰 民可使由之 不可使知之 (論語 巻第4泰伯第8)
読み下せば,
子の曰(のたま)わく,民はこれに由(よ)らしむべし。これを知らしむべからず。
岩波文庫版の金谷治訳
先生がいわれた,「人民は従わせることはできるが,その理由を知らせることはむつかしい。」
ここの「可(べし)」は,「~すべきだ」という現代的な用法ではなく,文字通り「可能性」を意味すると解されている。
つまり,孔子は,正しく,為政者が人々に政治をすっかり理解させることは残念ながら不可能だと,ドライに見切っているのである。
それゆえ,通俗的な解釈は誤りであることを付け加えておきたい。
 
 

◆3S政策

 
戦後,アメリカの対日占領政策として,3S政策なるものが取り沙汰されることがある。
 
「それ(アメリカの対日占領政策;引用者補)を円滑あるいは活発に行なわしめる補助政策として3S政策があった。第1のSはセックスの解放,第2のSがスクリーン,つまり映画・テレビというものを活用する。それだけでは民族のバイタリティ,活力,活気を発揮することがないから,かえって危ない。そこで精力をスポーツに転ずる。これをうんとはやらせる。スポーツの奨励――これが第3のS。」
 
戦後政治の御意見番とも黒幕とも目された安岡正篤(やすおか まさひろ 1898-1983)がGHQから直接聞いたと述懐している(『運命を創る』新装版2015プレジデント社)。
 
 

◆CIAコードネーム その名はPODAM

 

正力松太郎(1885-1969)は,我が国テレビ放送の父,プロ野球の父などいくつもの生みの親の異名を持つ。
 
2005年,アメリカの国立第二公文書館で早稲田大学のメディア論教授 有馬哲夫が発見したのが,“CIA文書 正力松太郎ファイル”である(有馬哲夫『日本テレビとCIA』2011宝島SUGOI文庫)。
 
正力は,戦前,内務官僚から新聞経営に転身し,成功を収めた。戦後は,我が国初の民放テレビ局を開設し,衆議院議員選挙に立候補・当選するや総理の椅子まで目指した巨人である。読売ジャイアンツのオーナーの顔を思い出す方も多かろう。
 
CIA(アメリカ中央情報局)からPODAMなるコードネームを与えられていた正力は,果たしてCIAの協力者だったのだろうか。
 
いつ頃からだろう,巨人戦のナイターを毎晩茶の間のテレビで観られなくなったのは。
テレビ番組は,毎年4月と10月に大改編を迎える習わしになっている,そのことはお気付きだろう。
ところが,それがプロ野球の開幕とシーズン終了に合わせたものであることは,あまり知られていない。
 
 

◆アイドル亡国論

 

テレビの弊害を捉えて,“一億総白痴化”とうまいことを言ったのはジャーナリストの大宅壮一(おおや そういち 1900-1970)である。
 
男性アイドルグループや女性アイドルグループがあまり上手くもない歌や踊りのパフォーマンスをするだけでなく,バラエティ番組で色々な事に挑戦している姿を目にする。
しかし,メンバー同士のあまりに他愛ない格付けごっこみたいな様子をダラダラと見せられると,彼ら,彼女らも,そして視聴者もまた,一定のレベルを超えて覚醒しないように,そういう意味で愚民化されていると感じざるを得ない。
 
ジャニー喜多川は,1931年,ロサンゼルスで生まれた。
その人生,私生活はいまだ謎に包まれている。
終戦後,英語のネイティブスピーカーであることから姉のメリーともども占領軍との関係があり,それが彼らの起点であるという印象を受ける。
 
あおい輝彦ら4人が初代ジャニーズとしてデビューするのは,1962年のことである。
グループは1965年には紅白歌合戦に初出場を果たしている。
この4人,元はと言えば,ジャニー喜多川が近所の少年たちを集めて作った“ジャニーズ少年野球団”の一員だったという。
彼らを野球少年からアイドルスターに育てるまでの話は,矢野利裕『ジャニーズと日本』(2016講談社現代新書)などに詳しく書かれている。
ジャニーズには今でも野球好きのタレントが多く,野球大会も放送されたりしている。
 
 

◆夢と魔法

 

ウォルト・ディズニー(1901-1966)というと,米ソ冷戦下で吹き荒れたマッカーシズム(赤狩り)で仲間を売った男というイメージがある。
だが,彼の伝記の決定版とされるニール・ゲイブラー(中谷和男訳)『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』(2007ダイヤモンド社)には,それに関する明確な記述が見当たらず,むしろウォルトは政治的な関心が乏しい天才肌の人物として描かれている。
正直に言えば,彼の人間的な魅力に引き込まれていく不思議な感覚を味わった。
 
ディズニーの世界観には人種差別や女性蔑視が存在するといわれる。
白馬に跨った理想の王子がいつか現れるというシンデレラ・コンプレックス(アメリカの女性作家コレット・ダウリングの言葉・著書名)を醸成し,女性の社会進出を妨げるのに貢献したことは間違いなかろう。
ただ,それも“アナと雪の女王”のような作品によって変革されつつあるようだ。
 
ディズニーにどうしてそんなに人々は惹きつけられるのか? それは善いことなのか悪いことなのか?もっと研究を深める必要がある。 
 
 

◆愚民化という視点

 

施光恒(せ てるひさ)『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』(2015集英社新書)は,口の端に上った本だ。著者は,政治学者で九州大学大学院の准教授である。
 
グローバル化≠英語化
英語化→愚民化
とのクリアな主張である。
我が国政府の推し進める英語化は,社会の要請というより財界の要請であり,ビジネスの論理である。
そして,国際秩序の英語化は,英語を話す国に一方的に有利であり不公正であるから,そのことに疑問を抱かない日本の指導者たちは公正さの感覚や正義感が麻痺してしまっていると鋭く切り込んでいる。
著者は,英語化政策によって民度が下がり,自ら植民地への道を歩むことを危惧している。
 
まつりごとを観ずるとき,愚民化の視点は欠かせまい。
 
 
 
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平沼直人(弁護士、医学博士)

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