コラム

    • 懸念材料山積の「安倍再選」 態勢立て直しはできるのか

    • 2018年06月19日2018:06:19:05:48:59
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

安倍晋三首相は6月16日午前、読売テレビの「ウェークアップ!ぷらす」に生出演し、9月に予定される自民党総裁選への出馬を決断する時期を問われ、「東京近辺でセミの声がうるさいと感じられる状況になったころ」と答えた。
 
今夏の出馬表明を示唆した発言だが、米朝首脳会談をきっかけとした朝鮮半島情勢の変化や、これまで良好を装っていた日米関係の変化も含め、再選戦略に大きな狂いが生じている。
 
「加計問題」の先行きも不透明で、懸念材料には事欠かないありさまだ。
 
 

◆成果の見えない米朝首脳会談

 

米朝首脳会談が行われた翌日6月13日付の新聞各紙は、首脳会談の成果を疑問視する論評であふれた。
 
日米同盟を重要視している産経新聞でさえ、「北、検証なき半島非核化 米朝会談 共同声明」として、米側が求めていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」が共同声明に盛り込まれなかったことを指摘。「それでもショーは続く」と題した東京編集局長の署名論文(1面)で、「この際、安倍晋三首相は盟友(注:トランプ氏)にハッキリいうべきだろう。『三文芝居に出すカネは一文たりともない』、と」と切り捨てた。
 
朝日新聞は3面に「自賛の合意 軽率な譲歩に不安」とする国際報道部長論文を掲載。この中で、「言動の振れ幅が尋常ではないトランプ氏と金正恩氏に朝鮮半島の将来を託すのは、危うい」と書いた。トランプ、金正恩両首脳の当事者能力そのものを否定する記事であり、「じゃあ、誰と誰が話し合えば問題が解決するのか」と突っ込みたくなる内容だ。
 
 

◆内閣支持率維持の頼みの綱

 
安倍首相自身が得意だと考え、内閣支持率の維持に一定の貢献をしてきた外交・安全保障政策は、トランプ氏との「親密な友情」をてこに米国との同盟を強化し、最も身近な脅威である北朝鮮の核・ミサイル開発戦略に対峙するとともに、南シナ海だけでなく東シナ海での海洋覇権確立をも目論む中国を牽制するというのが基本だった。
 
そのうえで、トランプ氏と衝突しがちな英独仏などその他の諸国とのパイプ役を演じることによって国際社会への貢献をアピールしようと考えていた。
 
トランプ氏に「シンゾー」と呼ばせる関係を築いて、議会演説で北朝鮮による日本人拉致事件に言及させる一方で、米国が離脱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を11か国で発効させる道筋を描くなど、これまでは一定の成果をあげてきたといえる。
 
自信を深めた安倍首相が、「森友」や「加計」についての野党の追及や朝日新聞やテレビ各局の「疑惑」報道、いわゆる「印象操作」による内閣支持率の下落に歯止めをかけるのに、外交・安保での「得点」を狙うのも当然の成り行きだった。
 
 

◆自信が裏目に? はしご外された安倍首相

 
だが、今、それが裏目に出ている。
 
米朝会談の直前にカナダのシャルルボワで開催された主要国首脳会議(G7サミット)で、安倍首相は地球温暖化対策や保護貿易主義への回帰をめぐって対立する米国VS欧州各国、カナダの仲介役を演じようとした。
 
トランプ氏から「シンゾーがまとめてくれ」といわれたとの報道もあったが、会議を中座して米朝会談のためにシンガポールに向かったトランプ氏は「首脳宣言を承諾しないよう指示した」と一方的に表明した。それもツイッターで。
 
「ちゃぶだい返し」という表現がぴったりで、安倍首相ははしごを外された格好。もっと正確に言えば、ピエロ役を演じさせられたことになる。
 
米朝首脳会談でトランプ氏は日本人拉致を必ず取り上げると公言していた。
 
これを受けて、「米国の圧力によって北朝鮮による国家犯罪である拉致事件は解決に向けて大きく動き出す」と信じていた向きも少なくない。
 
だが、米朝の共同声明にはひとことも盛り込まれず、トランプ氏が会談後の単独会見で「言及した」とそっけなく説明しただった。
 
まずは大風呂敷を広げておくというトランプ氏らしいやり方だが、拉致被害者家族会をはじめ、米朝会談が解決に向けた突破口となることを期待していた関係者は落胆の色を隠せないでいる。
 
 

◆起死回生のカードはあるのか?

 
安倍首相は米朝会談の前後から「最終的には日朝首脳同士の話し合いで解決しなければならない」と繰り返している。トランプ氏頼みではないという姿勢を示したもので、米朝会談で拉致解決に向けた前進は難しいと判断して、伏線をはったものといえる。
 
だが、北朝鮮との交渉のためのカードはあるのか?
 
日朝間には、2002年9月の小泉訪朝の際に締結された「日朝平壌宣言」と2014年5月にスウェーデンのストックホルムで確認された「ストックホルム合意」が存在している。
 
平壌宣言には拉致の解決や日本が朝鮮半島を統治していた過去の清算、日朝国交正常化交渉の開始などが盛り込まれたが、2004年の第二回日朝首脳会談のあと、北朝鮮側が「拉致は解決済み」と強弁したことや、2006年に北朝鮮がミサイル発射や地下核実験を強行したこと、これに対し、日本政府が経済制裁を強化してきたことなどによって事実上、無効になっている。
 
また、ストックホルム合意は、日本による経済制裁の一部解除と引き換えに、北朝鮮側が「特別調査委員会」の設置と「日本人行方不明者」についての調査を約束したものだった。だが、これも2016年2月の北朝鮮による核実験と弾道ミサイル発射を受けて、日本が再び独自制裁に踏み切り、北朝鮮は調査中止と特別調査委解体を発表した。
 
こうしてみると、安倍首相独自のカードは経済制裁の解除と「過去の清算」以外にはない。
 
だが、経済制裁の解除には国連を含めた国際社会の合意が不可欠であり、金正恩氏の今後の出方に左右されることになる。
 
また、「過去の清算」に軽々に言及することは、首相の対北強硬姿勢を支持してきた勢力から強い批判が出る可能性があり、そうなれば政権崩壊に直面することになる。
 
 

◆日米同盟の今後も大きな課題に

 
外交交渉には表に出ない「裏」の部分が必ずある。
 
「密約」とまではいえないものの、互いの国内反応の見極めや反対勢力による異論噴出の回避などのために、あえて、その時点での公表を行わないという手法だ。
 
今回の米朝会談についても、「裏」合意の存在がとりざたされており、共同声明に盛り込まれていなくても、北朝鮮が非核化に踏み出す可能性は残っている。
 
だが、それはあくまで「裏」であり、行動が現実のものになり、国際社会による検証を経なければ「成果」にはなり得ない。
 
それが「北朝鮮の非核化」の現状であり、安倍首相はこうしたことを認識したうえで、拉致の解決、核・ミサイルの放棄で得点をあげることを求められている。
 
トランプ氏との関係だけでなく、日米同盟を今後、どうしていくのかも大きな課題だ。
 
「得手に鼻突く」ということわざがある。「自分が得意にしていることについては、かえって油断して不注意になるので失敗するものだ」という意味だ。
 
「鼻突く」とは鼻を物に打ち当てるという意味で、「思わぬ失敗」をいう。
 
安倍首相のケースがことわざ通りだというわけではないが、首相が背負ったものは重い。
 
 

◆困難な再選戦略の再構築

 

安倍首相の自民党総裁再選を阻止しようという動きは、そこかしこから噴き出している。
 
立憲民主党や共産党、社民党などは、首相が9条を含めた憲法改正に依然として強い意欲を示していることを理由に「打倒安倍政権」を叫ぶ。
 
2項を残したままでの9条改正に批判的な石破茂元幹事長や、マスコミ各社の世論調査などで「次期首相」に浮上してきた小泉進次郎筆頭副幹事長は「加計」究明のための特別委員会の設置を主張して攻勢を強めている。
 
経済状況をみれば、アベノミクスの結果、経済指標は改善しても景気回復の実感は広がっていない。「次の一手」も即効性を欠くものや、実現可能性に疑問符がつくものばかりだ。
 
外交・安全保障、経済政策、そして、首相自身にふりかけられた「疑惑」……。八方塞がりの中、安倍首相は何を実現し、何を訴えて自民党総裁選を勝ち抜こうとするのか。
 
ただ、一つだけ言えるのは、拉致事件を自らの再選を含めた政局に利用することは許されないということだ。成果を焦れば、金正恩氏に足元を見られる危険性も高い。
 
国民が「安倍首相でよかった」と思える状況をどうやってつくっていくのか。その手は依然として見えて来ない。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト )

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