コラム

    • 認定医療法人制度の解説

    • 2018年06月26日2018:06:26:05:17:06
      • 竹原将人
        • 税理士

1.はじめに

 
平成29年度税制改正において、出資持分なし医療法人への移行に伴う贈与税課税(みなし贈与税)について一定の要件を満たす場合に非課税とする改正が行われた。
 
この非課税制度の適用を受けるためには、平成29年10月より施行された医療法に定める認定医療法人の認定を受ける必要がある。本稿では、認定医療法人制度について解説する。
 
 

2.解説

 
(1)制度概要
認定医療法人とは、認定の日から3年以内(以下「移行期限」)に出資持分の定めのない医療法人へ移行すること等を社員総会で決議し、その移行計画について適切であると厚生労働大臣の認定を受けた出資持分の定めのある医療法人をいう。
 
認定医療法人の出資者が出資持分を移行期限までに全て放棄して、出資持分の定めのない医療法人に移行した場合には、その放棄に係る出資者の相続税、贈与税が免除される。平成29年10月以前は、出資持分の放棄により医療法人は出資持分の払戻しの義務を免れるため、その経済的利益に対してみなし贈与税が課税されていたが、同年10月以降の認定医療法人制度の適用によりみなし贈与税も免除されることとなった。
 
(2)手続きの流れ
認定医療法人制度の手続きの流れは下図の通りである。
 
出典:厚生労働省ホームページより
 
(3)認定要件
認定要件は下表の通りである。
 
 
上表の区分における運営に関する要件及び事業に関する要件の内容は、以下の通りである。
 
①法人関係者や営利事業を行う者等に対して特別の利益供与をしていないこと
社員、理事、監事、職員のその他の関係者並びに、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人・団体の利益を図る者に特別の利益を与えないこと。たとえば、法人関係者と次のような行為をし、その行為が社会通念上不相当と認められる場合は、特別の利益を与えるものとされる。
ア 医療法人の所有する財産を、法人関係者に私的に利用させ、又は法人関係者に無償もしくは著しく低い価額で譲渡すること。
イ 法人関係者から、その所有する財産を過大な価額で譲り受けること、又は医療法人の事業目的外の財産を譲り受けること。
ウ 医療法人の余裕金を法人関係者の行う事業に運用していること。
エ 他の従業員に比し有利な条件で法人関係者に金銭の貸付をすること、又は法人関係者から金銭その他の財産を過大な利息もしくは賃貸料で借り受けること。
オ 法人関係者に対して、役員等の地位にあることのみに基づき給与等を支払い、又は他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと。
カ 法人関係者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該医療法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること。
キ 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、法人関係者が行う事業に係る契約の相手方となること。
ク 事業の遂行により供与する利益を主として、又は不公正な方法で、法人関係者に与えること。
 
②役員に対する報酬について不当に高額とならないこと
理事及び監事に対する報酬等について、民間事業者の役員の報酬等及び職員の給与、医療法人の経理状況その他の事情を考慮して、不当に高額とならないような支給の基準を定めていること。
 
収益額に比例して無制限に役員報酬を認めるものではないとされるが、たとえば、医師である理事が日常の通常業務に加え、更に夜間当直や休日当直などを恒常的に行っている場合等、役員の一般的な業務に加え、更に報酬を与えることが妥当と考えられるような勤務の状態にあれば、一般的な役員報酬額に加算した支給も認めうるとされている。
 
なお、報酬額の参考とする一例として、下記のものが挙げられている。
ア 「医療経済実態調査(医療機関等調査)」機能別集計等 (22) 職種別常勤職員1人平均給料年(度)額等
イ 特定医療法人の役員の報酬額
ウ 人事院調査 「民間企業における役員報酬(給与)調査」
 
②遊休財産額が直近期末における本来業務に係る事業費用を超えないこと
毎会計年度の末日における遊休財産額(下記算式参照)が、本来業務事業損益に係る事業費用の額を超えないこと。
 
 
④法令違反等の公益に反する事実がないこと
法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部若しくは一部を隠ぺいし、又は仮装して記録若しくは記載している事実その他の公益に反する事実がないこと。
 
⑤社会保険診療等に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
社会保険診療、健康増進事業、予防接種、助産(一の分娩に係る収入について50万円を限度とする)、介護保険法の保険給付に係る収入金額の合計額が全収入金額(本来業務事業損益及び附帯業務事業損益に係る事業収益の合計額)の80%を超えること。
 
⑥自費患者に対する請求基準が社会保険診療報酬と同一であること
自費患者(社会保険診療又は労働者災害補償保険法に係る患者以外の患者をいう)に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること。
 
ただし、1点10円に限らず、多くの地域で定められている自賠責保険の診療費算定基準は、薬剤等モノを 1点12円とし、その他の技術料はこれに 20%を加算した額を上限としており、これは妥当と認められている。
 
⑦医療診療収入≦患者等のために直接必要な経費×1.5であること
医療診療収入が、医師、看護師等の給与、医療の提供に要する費用(投薬費を含む)等患者のために直接必要な経費の額に1.5を乗じて計算した範囲内であること。
 
(4)認定要件の維持と取消
認定医療法人は移行計画の実施状況及び運営状況について厚生労働大臣に報告する義務があり、実施状況・運営状況の報告を怠った場合や運営の適正性要件を満たさなくなった場合等には、認定の取消事由(下表参照)に該当し、取消後2ヶ月以内に出資持分放棄に係る贈与税を申告・納付する必要がある。
 
運営状況については、移行後6年間報告する義務があるため、その間は認定要件を充足し続ける必要がある。
 
 
 
 
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竹原将人(税理士)

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