コラム

    • パウダースノーの功罪

    • 2018年07月24日2018:07:24:05:42:34
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

かつては豪雪とジャガイモが有名であった北海道の片田舎が、今では全国住宅地の地価上昇率上位3位を独占する。そこは北海道倶知安町。ちなみに全国で最も地価上昇率が高かった倶知安のとある住宅地の地価上昇率は33.3%である。
 
その理由は言わずと知れた外資企業がホテル、コンドミニアムを建設するために競って土地を購入しているからである。そして、どうして彼らが倶知安に土地を買い求めるかというと、それはこの地域に広がるスキー場めあてに世界中から旅行客が集まるので彼らを対象にした宿泊事業に商機ありとみるからである。
 
倶知安、および、隣町のニセコの山に降る雪はパウダースノー、北海道に住む者にすれば降る雪はすべてパウダースノー、珍しくもなんともないけれども世界のスキヤーにとっては垂涎の的らしい。
 
ホテルや宿泊関連のレストラン、土産物店が増えるとそこで働く従業員のための住宅も必要となる。そのため、スキー場から離れた倶知安市街には従業員向けの賃貸住宅の建設が進んでいる。
 
また、倶知安には2030年開業予定の北海道新幹線が止まることになっている。そのため新幹線建設に従事する工事関係者のための賃貸住宅も立てられ、倶知安町内はちょっとした建設バブルである。
 
倶知安、あるいはニセコは町の知名度が上がり、地元経済は潤い、良いことづくめのようだが、世の中、どんなときにも光の当たる後ろに影ができる。このような賃貸住宅需要の高さは当然のことながら家賃の高騰を招き、地元で暮らす人にとって家賃負担が非常に重くなっている。筆者の倶知安町内に暮らす知人は引っ越しにあたり、町内では払える家賃のアパートが見つからないと離れた喜茂別町に部屋を借り、そこから倶知安町の職場に通っている。
 
そして、一番大きなしわ寄せは社会的弱者に行く。今、倶知安では障害者が暮らす住居の確保が上記のような理由でいっそう困難になっている。そもそも、障害者、とりわけ精神障害者や知的障害者が病院や施設を出てグループホームや1人暮らしをすること自体が難しい。そのような状況下で、病院や福祉関係者の支援により地域への移行が可能となっても、障害者の収入の範囲内で借りることのできる賃貸住居はないに等しいのがスノーパウダー地域の現状である。
 
そこで、あるNPO法人が公営住宅をグループホームとして活用できないかと検討を始めた。ところが倶知安の現状を反映して空きがない、また、仮に空き部屋が出たとしても、今度は障害者のグループホームとして活用するなら消防法上に基づき、一定の消防設備を設置することが義務付けられる。これがまた、安くない。
 
パウダースノーの功罪、ここに見たりの感がある。しかし、どんな難しいことであっても、知恵と工夫、努力と熱意があれば、乗り越えられないことはないと先のNPO法人関係者は話す。もっともである。社会的弱者のための施策の多くはトップダウンで実現してきたものではない。常にボトムアップの提言が実を結んで、ここまで来た。
 
パウダースキーフィーバーはまだまだ続くし、地元の人からすれば続いてもらわないと困るだろう。農福という言葉がある。農業と福祉の連携である。この地で観福、観光と福祉の連携を図れないか。多くの知恵が結集することを期待したい。
 
 
 
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

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