コラム

    • 健康保険法を根本から見直すべき

    • 2018年08月21日2018:08:21:05:04:58
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

日本の人口ピラミッドは、2006年の中位推計でみると、2055年にはきれいに逆ピラミッドの形になる。
 
秋山弘子さん(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)が携わっておいでの全国高齢者パネル調査によると、男性の7割が70代半ばから自立度を失い始め、女性の9割が70代初めから自立度の低下がみられるとのこと。2030年には、75歳以上の人が人口の20%を占めると予想されているが(上記の中位推計)、その大半の人たちが自立できず、支援を必要とするということになる。一方の支え手である現役世代は減り、65歳以上の人1人を支える現役人数は、2012年に2.4人、2050年には1.2人になると予想されている。
 
支え手が大勢いて経済は一定の割合で成長することを前提に作られた現行の年金や健康保険制度を、経済の安定成長のもと逆ピラミッド型の人口構造に対応するように改める必要はだれも否定できない。
 
健康保険制度運営に携わった経験者の一人として、反省を込め、また責任を感じながら、健康保険の見直しの基本方向について提案し、その実現を望むものである。
 
 

◆制度の建て方

 
1.健康保険の再編
 
公的医療保険(健康保険)は、リスクプール(リスクを軽減するため拠出金を出し合い、貯めておく個人の集まり)のなかに健康な人がたくさんいて、病気の人の保険料にプール資金を上乗せできる状態になって、はじめて機能するもの。
 
この原則に立ち返って、健康保険を再編する。すなわち、国民健康保険に一本化し(管理運営は、都道府県単位で行う)、その対象者は、年齢を問うことなく、自立して通常は健康な人のみに限定する。保険料水準は全国平均に一本化。各都道府県は、全国平均の医療費とその医療費を比較しその比率に応じて保険料水準を補正する。都道府県ごとに収支バランスを取り、赤字はその都道府県の責任において必要額を追加徴収(一般会計からの繰り入れは認めない)。所得割及び均等割とし、給与所得者に対する事業主負担は継続し、自営業ないし無職の人の所得にかかる事業主負担相当を公費負担する。
 
2.公費負担による別建て制度
 
自立できず、病気がちな人――この判定はかかりつけ医が行う――に対する制度は、公費負担による別建て制度とする(生活保護の医療扶助制度はこちらに吸収する)。
 
3.在宅ケアを前提とした介護保険
 
介護保険は、在宅を前提に、日常生活の支援と介助を行う。施設入所は、介護保険の対象とせず、自費ないし事前審査制のもと公費負担で確保する。
 
 

◆給付面での考え方

 
1.診療報酬の考え方
 
外来は、疾病・診療分野別包括制。かかりつけ医の受診を原則とし、一定額――例えば、ワンコイン――の足切り(給付対象外)を設ける。また、同一分野の報酬額に一定の幅を持たせ、医師に選択させる。例えば、内科において風邪で受診した場合、1件当たりの包括払いとし、支払額に幅を持たせ、幅の中で具体的な請求額をどう決めるかは医師の選択とする。結果として、患者自己負担(定率)を低くしてやりたい医師は、幅の中での最低額を選択するはずであり、患者による医師の選択志向を高める。
 
入院、入所については、事前審査制とし、第三者による判定を経なければ公費負担の対象にしない仕組みとする。
 
2.人手不足対策
 
国民健康保険において、人手不足対策の経費をねん出するため、保険料の0.1%を全国一本でプールし基金とし、その対策を支援する。例えば、人力を補佐し、代替えするロボット開発、高齢者就労を補助する支援器具の開発、汚物処理に関し人手を要しないベッド開発(排泄を直後にキャッチし、他人には見えない状態で本人に不快感や羞恥を与えることなく洗浄処理し、廃棄物はコンパクトに乾燥し無害化・少量化し、清潔で簡単に廃棄できるようなもの――これに類する物は現存するが高価。価格低減し普及できる環境を整える)、街づくりも含めた認知症予防策、生涯学習の促進と高齢者の就労を支援する。
 
県単位でみた場合、高齢者の就労率が高いところはその医療費が低い傾向にあることにかんがみ、また、高齢者の急増を考慮し、高齢者自身にも社会の支え手になってもらう意味からも、新しい働き方開発も含め、特に生涯学習と就労支援に基金も力を注ぐ必要がある。なお、繰返しになるが、病院や施設が人力を補い、代替えする機器を導入する場合、人員配置基準に反映させ、機器を一定のルールで人員換算し、その導入を促進する仕組みにすることを忘れない。
 
3.制度が目指す新たな目的
 
(1)高齢・在宅者の健康寿命(自立期間)の延長
高齢・在宅者に「することがない」「行くところがない」と言わせない状況を作る。学習して身に着けていた技をより磨く、あるいは新たに身に着ける環境を整備し、移動経費と学習経費を給付対象とする。
 
(2)在宅生活の継続
弱っても住み慣れた場所で安心して日常生活を継続できる街づくりと人づくりを促進する策を給付対象とする。
 
(3)人の繋がり作り
「話す人がいない」と言わせない。徒歩で行ける場所に仕事場を地元の事業者の協力のもと確保し、安定雇用が提供されるような条件づくりの支援を行う。また、地元小学校などを開放し、放課後、児童とともに学習やゲーム指導などできるようにする。
 
 

◆産業界との連携

 
基金は、長寿社会に適したモノ、サービス、システム作りのため、産業界との連携を深め、かつ、複数社のイノベーションを統合できるネットワークの形成に努める。
 
 

◆関連項目

 
1.先制医療への保険給付
 
個々人の遺伝子チェックを行い、あらかじめ個々の健康リスクを把握し、それに基づく予防策を給付対象とする。
 
2.一次医療と介護の関係
 
医療体制は、一次医療と介護を直結。遺伝子状態から判断し、高次の医療は効果が期待できないケースは直ちに介護に移行させる。
 
3.必要な医学教育の支援体制
 
医学教育にかかる各種講座に要する経費の一部を基金から支援する制度――例えば、総合医養成講座維持経費――を創設し、この講座を学ぶ医学生は医師の資格取得後一定期間、在学する大学の属する都道府県において知事が定める診療科に従事し、かつ勤務場所も知事が指定する県内各地とする義務を負うものとする。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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