コラム

    • 「社会党」への道を歩む立憲民主党と国民民主党

    • 2018年10月09日2018:10:09:08:48:41
      • 榊原智
        • 産経新聞 論説副委員長

立憲民主党と国民民主党が、「日本社会党」への道を歩んでいる。この2つの党が政権を担うのは無理だろう。
 
立憲民主党は9月30日、都内で初めての党大会を開いた。
 
「民主主義というのは『選べる』ということ。野党第1党として政権の選択肢となり、遠からず政権を担う。私の責任は政権を取ることではなくて、長期政権を作ることだと確信している」
 
立憲民主党の枝野幸男代表は演説で、このように語った。野党第1党であるとはいえ、同党の支持率は最近、一桁台に落ち込んでいる。その割には威勢の良い発言だ。
 
この党に政権を任せようという有権者は、どれほどいるだろうか。せいぜい与党にお灸を据えたいと考える有権者が、不満の受け皿とみなすかどうか、というところではないのか。
 
日本の舵取りを任せられないのは、現実的な安全保障政策を少しも持っていないからだ。筆者には、立憲民主党は、戦後日本の安全保障をひどく損ってきた「日本社会党」の再来に見える。
 
戦後日本政治の最も大きな対立軸は安全保障だった。自民党など保守勢力は、相応の防衛力が必要だと考えた。自衛隊を整備し、日米同盟の抑止力を高めようとしてきた。これに対して、憲法9条を掲げて反対してきたのが、社会党や共産党などの左派勢力だった。
 
旧ソ連、中国、北朝鮮という現実の脅威を前に戦後日本の左派勢力はじりじりと後退したが、防衛の妨げを熱心に続けてきた。社会党の大応援団だった自治労や日教組は、民主党やその後進の民進党を支援した。彼らは今、立憲民主党を支えている。民進党や立憲民主党が、集団的自衛権の限定行使の容認を柱とする安全保障関連法に猛烈に反対してきたのも頷ける。
 
なるほど立憲民主党は、自衛隊を合憲としている。枝野氏は昨年11月の国会で、「専守防衛に徹する自衛隊」や「個別的自衛権の行使」は合憲で、「日米同盟は健全に強化、発展させるべき」と語っている。
 
しかし、その方策は本末転倒したものというほかない。枝野氏は「いわゆる安保法制、集団的自衛権は立憲主義の観点から、決して許されない」と主張したのである。この立場は今も変わっていない。
 
故意かどうかは分からないが、今、何を崩せば日本と国民を守れなくなるかの急所を突いている。北朝鮮や中国の脅威を考えてほしい。立憲民主党の政策に従えば、とても日本を守りきれない。そのような安全保障環境に否応なく置かれていることから目を背けてはいけない。
 
安倍晋三政権は、集団的自衛権の限定行使容認へと憲法解釈を是正し、それを裏付ける安保関連法を制定した。日米は守り合う関係に進化し、同盟の絆は格段に強まった。これこそが日米同盟の強化策なのである。
 
その後、「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領が登場し、北朝鮮の核危機が顕在化した。安保法制があればこそ、日本は現下の危機に対処することができている。なければ、いかな安倍首相といえども日米の結束に苦慮していただろう。それほど貴重な「集団的自衛権の限定行使」を、今なお立憲民主党はご破算にしようとしている。
 
考えてほしい。立憲民主党の言い分通り、日本が「やっぱりあなたたちを守るのはやめた。集団的自衛権を認めた安保関連法は廃止する。でも、アメリカさん、我々のことは命がけで守ってほしい。だって、昔からの日米安保条約がありますからね」と言ったらどうなるか。
 
トランプ氏はもとより、米軍人や米国民は呆れかえるに決まっている。日本政府どころか日本国民への不信感と侮蔑の思いを募らせるだろう。安保条約は米政府と米国民の心の中で紙切れとなる。日米同盟は崩れるか、空洞化してしまうはずだ。
 
枝野氏は「日米同盟の強化」を唱えながら、その実は、同盟の絆もしくは同盟の抑止力を崩す道へ進むよう叫んでいるのである。ほくそ笑むのは、中国や北朝鮮、ロシアなど周辺国の政府と軍部であろう。
 
米軍普天間飛行場の辺野古移設問題も似た話である。沖縄県知事選に先立ち、立憲民主党は「辺野古移設反対」の立場を打ち出した。
 
米軍の中でも勇猛な海兵隊は、いわば殴り込み部隊である。沖縄に海兵隊がいることが、周辺国に対し、政治的、軍事的に睨みを効かせることになる。辺野古移設が進まなければそれだけ、周辺国から日米同盟の結束力が疑われる。日米同盟は、日本や米国のみならず、アジア太平洋地域ひいてはインド太平洋地域の平和と安定に寄与する国際公共財の性格がある。その動揺は、アジア諸国民の平和にマイナスの影響をもたらすことも忘れてはならない。
 
鳩山由紀夫首相の「最低でも県外」という愚かな発言で、辺野古移設問題は大混乱に陥った。退陣した鳩山氏の後を継いだのが菅直人首相だ。菅政権の下で、民主党幹事長や官房長官の要職を占めたのが枝野氏だ。枝野氏を含む菅政権や民主党、その後継の民進党は辺野古移設に賛成していた。
 
それが、「政党が変わった」ことを理由に、立憲民主党は辺野古移設反対に転じたのである。
 
政治の基本が分かっていないのではないか。政党とは本来、政見を同じくする政治家の集まりである。枝野氏ら立憲民主党の多くの議員たちは、まず政治家として、なぜ辺野古移設容認から反対に転じたかの説明をそれぞれすべきだったのに、それを怠っている。立憲民主党は、民進党時代に国から交付された政党助成金を、議員の頭割りでもらっている。政党が変わったから、という理由だけで、日米同盟ひいては日本の安全保障に大きく響く重要政策を変えられてはたまったものではない。
 
航空自衛隊の戦闘機に長距離巡航ミサイルを配備する問題もある。安倍政権が昨年暮れに打ち出したもので、離島防衛に欠かせない。現有のミサイルに比べ射程が最長で5倍以上になる。敵の射程外から効果的に反撃できるようになる。
 
これは、自衛隊員の安全を高める装備でもある。航空機や艦船が少ない自衛隊には、敵に接近するリスクをなるべく減らして防衛に当たる長距離巡航ミサイルのような装備が必要だ。政府は専守防衛のために使うとしている。
 
国民や自衛隊員の安全を考えれば、与野党問わず長距離巡航ミサイル導入に賛成するのが道理かと思いきや、枝野氏は「専守防衛に徹し、領土領海を守る観点から過剰ではないかと強い疑問を持たざるを得ない」と語った。
 
信じがたい発想だ。現実的な安全保障政策とはとても思えないし、自衛隊員の安全など気にかけていないこともうかがえる。日本を害そうとする周辺国にとってきわめて都合がよい主張ではないだろうか。
 
「自衛隊は合憲」「日米同盟強化」といってはいるが、実際は極めて効果的に足を引っ張ることを主張している。立憲民主党は、防衛を妨げるという点において、昭和期の社会党と変わらない。政権担当能力とは真逆の能力を示してどうするつもりだろう。万年野党を望んでいるのではなかろうか。
 
立憲民主党が、旧民進党左派だとすれば、希望の党と旧民進党の参院勢力が一緒になった国民民主党はどうか。相対的には中道・右派に位置しているかと思いきや、左旋回をしている。
 
沖縄県知事選で国民民主党は、辺野古移設に反対して当選した玉城デニー知事を支援した。共産党や社民党、労組でつくる「オール沖縄」や立憲民主党が支援する玉城氏に加勢したのである。これだけで、安全保障を託せないことがわかるが、それだけではない。
 
国民民主党の玉木雄一郎代表は9月25日、安保関連法の廃止を求める市民グループ「市民連合」の山口二郎法政大教授と会談し、安保関連法による集団的自衛権行使容認の反対で、野党が結束すべきだという認識で一致している。
 
玉木氏は、安保関連法全体ではなく憲法違反の部分を改正するのが望ましいという考えだが、そうであっても、少しも現実的ではない。集団的自衛権の限定行使容認を否定する時点で、日米同盟の弱体化に走ることを宣言したようなものである。しかも、国民民主党議員は、市民団体の集会で立憲民主党や共産党などの議員とともに安保関連法廃止を平然と唱えている。
 
立憲民主党と国民民主党は、民進党分裂を経て、その度合いはどうあれ、さらに左旋回してしまった。民主党、民進党とも政権担当能力のなさには定評があったが、それにますます磨きをかけようというのだから恐れ入る。
 
来年夏の参院選での野党共闘という問題がある。共産党の協力をとりつけながら参院選で与党と対決するために、集団的自衛権をめぐっても、辺野古移設をめぐっても、国民の安全を損う方向の政策を接着剤にしようとしている。
 
現実的な安全保障政策を掲げる政党が野党第1党にならなければ、国会で建設的な論議を期待するのは難しく、国民の選択肢も広がらない。残念な話である。
 
 
 
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榊原 智(産経新聞 論説副委員長)

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